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中国、製造大国からの脱却?−工場スマート化でイノベーション志向か

JIER、米国で受注拡大
中国、製造大国からの脱却?−工場スマート化でイノベーション志向か

インダストリー4.0の関心が高かった中国国際工作機械見本市(CIMT2015)

 中国国有企業の済南二機床集団(JIER)が米国で受注を重ねている。米フォード・モーターとは目下、「8本目のラインを商談中」(張志剛董事長)だ。中国は製造業の10カ年計画「中国製造2025」が3月に示され、製造大国から製造強国への変貌を目指している。JIERは中国メーカーに多く見受けられる“価格、一発勝負”の受注を止め、いち早く輸出型の強豪メーカーへの転身を遂げた。張董事長は、成長源に技術革新(イノベーション)を挙げる。

 【目立つ存在に】
 JIERは中国国有の未上場企業。大型プレス機械を主軸に門型加工機といった工作機械を手がける。2010年以降、フォードから立て続けに受注したことで、業界で目立った存在になった。04年にフォードと技術交流をはじめ、大型プレスラインを11年にカンザス、デトロイトに、13、14年にケンタッキーの工場にそれぞれ納入した。そして今年4月末時点で計8ライン目の商談の最中だ。フォードの米国工場は長く独プレス機メーカーの牙城だった。
 一連のフォード・プロジェクトは他社と競りつつ、「最低価格では受注していない」(張董事長)。稼働後の評価不良で一案件に終わる受注や価格一辺倒の受注を得意とする中国勢とは異なるとの主張だ。
 JIERは大規模な投資ではなく「技術革新で成長する事業構造」(同)を重んじ、早くから中国製造2025に重なる「量から質」「単体からシステム」「内需型から輸出型」への移行を進めてきた。その成果がフォード・プロジェクトだ。

 【スマート化】
 今後は工場のスマート化を意識した戦略を重点化するようだ。製造設備などを高度な情報ネットワークで結んだ「高速スマートプレスライン」を進化させるもよう。そのため、現在のプレス機本体にとどまらず、「自動化設備を投入する」(同)と、周辺装置の研究開発に力を入れる考えだ。
 国有企業といえども、もはや安泰とは言い難い状況だ。4月末に国有の変圧器メーカー、保定天威集団が債務不履行(デフォルト)に陥っている。機械業界でも業績低迷を理由に再編がささやかれるメーカーもある。総じて国有は「特有の殿様商売をしている限り、日本メーカーには追いつけない」(証券アナリスト)と評価はさんざんだ。

 【一線を画す】
 だが、ついに重い腰を上げ、中国製造2025がイノベーションを後押しすれば、第2、第3のJIERが誕生することも考えられる。ちなみにJIERは「当社は国有だが古い体質ではなく、銀行や、研究開発で国のサポートに依存していない」(張董事長)と、他とは一線を画す立場だ。
 中国の鍛圧機械産業は高付加価値化へのシフトが鮮明だ。中国勢は工作機械メーカーを含め、量から質への転換や自動化・知能化、「インダストリー4・0(第4次製造業革命)」対応などに意欲的だ。技術志向の胎動が本格化したのであれば、日本勢の土俵に上がることになる。欧米の先進国を舞台にした競争も増えるだろう。日本は得意とするイノベーションの先鋭化に加え、インダストリー4・0でも必要性が指摘される産学官の連携強化をはじめとする中長期の政策が、これまで以上に求められる。
(六笠友和)
日刊工業新聞2015年05月15日 機械・ロボット・航空機面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
生産管理システムの構築がまだ不十分でない工場が多いからこそ、インダストリー4.0に対応した新しい設備やシステムをドカンと導入したり、いっそのこと総入れ替えしてしまおう、という対応が増えるかもしれません。

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