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2020年、日本の災害対応ロボットは大きなターニングポイントを迎える

五輪号砲、実用化への試金石に。ユーザー受容を育て投資家の意識を変える
2020年、日本の災害対応ロボットは大きなターニングポイントを迎える

災害分野では「トンネル」など3種目で技術・性能を競う(開発が進む災害調査ロボット)

 災害対応ロボットは日本が研究をリードしてきた分野だ。だが事業化では軍事やテロ対策などの実需を握る海外勢に後れをとってきた。2020年開催の国際ロボット競技大会を、この構造を覆すターニングポイントにするべく研究者たちが奮闘している。突破口となるのがインフラ保守や土木建設などの平時利用との共用だ。災害先進国で育まれたロボットは新しい実用化モデルを作れるか、大会はその試金石になる。

 屋外で働くフィールドロボットは新しいビジネスが生まれている分野だ。飛行ロボ(ドローン)による測量や点検などの事業化が進む。これは周辺技術の貢献が大きい。スマホの普及でセンサー類の単価が下がり、デジカメは解像度が向上、画像処理技術の進歩で2次元画像から3次元モデルの生成が可能になった。

 ドローンがふらつきながら撮影した画像でも、3次元モデルを作って測量したり、髪の毛と同じ細さのクラックを探したりと稼げるようになった。大学での研究も基礎技術の開発から現場実証にシフトしている。

 そこで競技会の災害分野は実用性を重視した内容にする。種目は「プラント」と「トンネル」、「災害対応規定」の三つ。「プラント」では災害を予防するための点検や保守などを想定。装置発熱部の特定や配管の漏えい検査など、プラントの専門家のニーズをもとに競技を組み立てる。

 視認検査や非破壊検査など十数種類の点検項目と、要救助者捜索などの災害時の対応を課題に入れる。平時点検で使っているロボットで緊急対応ができれば理想的だ。会場には福島県に建設計画中のプラント模擬フィールドを想定している。

 「トンネル」ではトンネル災害の初動調査と無人建機による遠隔施工を組み合わせる。トンネル崩落の危険性を確認したり、事故車両をトンネルから引きずり出すなどの課題を想定する。

 トンネル内部の状況を把握する調査ロボットと、対処する大型ロボットの連携が重要になる。18年はシミュレーター上で競い、20年には実機を使う。課題はプラットフォームとなる大型ロボットの調達だ。双腕の建機ロボなど企業の協力を求めていく。

 「災害対応規定」では災害シナリオを決めずに、災害対応性能の標準評価法に従った課題を想定する。移動能力やセンシング能力、遠隔操作性能など、個々の性能を評価する。

 他の2種目に参加したロボットを試験し、大会を終えるとロボットのカタログができているという構想だ。どのロボットを配備し組み合わせれば良いか明確にする。

 東北大学の田所諭教授は「競技会を通してユーザー受容を育て、投資家の意識を変えたい。そのためには世界から参加チームを集め、レベルの高い試合をみせなければならない」という。これは産学官、どの力が欠けても実現しない。ロボット業界全体の底力が試される。
日刊工業新聞2016年9月23日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
競技会の裏側はエンタメとして一番面白く研究しがいのある部分。トンネル種目では2015年にNEDOが開催した「ジャパンバーチャルロボティクスチャレンジ(JVRC)」のシミュレーターを活用する方針に。シミュレーター種目は開発者の裾野を広げる効果がある。JVRCでは東大や産総研などを抑えて、技術者一人のチーム「MID」が優勝。機体の開発や保守の負担がないため一人でも参戦できて、独自のロボットコンセプトを試せる。実際、MIDは東大と産総研のロボットとUI、シミュレーターを組み合わせて優勝をつかみ取った。さらに競技の裏側のトラブル対応や操縦者の機転がデータとして記録できるので、ロボットの実運用を見据えた知見を集められる。操縦者のヒューマンエラーの分類と対策、ユーザーが改造したがるポイントの整理と改造例の蓄積など、研究開発の対象としても面白い。 (日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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