全国の水道施設に19MWの潜在力。小水力発電の導入は進むか
環境省が調査。9万2000トン分のCO2排出削減効果あり
環境省は全国の水道施設を対象に小水力発電の導入可能性を調べ、2015年度に少なくとも563地点で発電出力19メガワット弱の潜在能力があることが分かった。全国の自治体など1888事業者にアンケートを送付し、回答があった1536事業者の中から導入可能性の高い895地点を抽出。協力を得られた563地点について流量・水位や設備状況など詳細な情報を収集し、整理・分析した。
合計の発電潜在能力は1万8742キロワットで、563地点のうち274地点が出力20キロワット以上だった。全体の年間発電電力量は1億5847万キロワット時になり、二酸化炭素(CO2)9万2000トン分の排出削減効果が見込まれるという。
水道施設には導水・配水などの圧力差を、小水力発電に生かせる箇所が散在している。全国の水道事業者が消費する年間電力量は約74億キロワット時で、電力需要全体の約0・8%を占める実態もあり、環境省は13年度から水道施設への太陽光発電なども含めた再生可能エネルギー、省エネ設備導入を推進する施策を展開。
だが、小水力発電を導入している水道施設の割合は現状で全体の2・7%にとどまっている。
下水処理場に眠るエネルギーを活用しよう―。水処理設備やエネルギー関連機器を手がける機械メーカーが、下水処理中に発生するエネルギーの有効利用に寄与する技術の開発や普及に挑んでいる。一方で処理にかかる電力消費の低減が課題となっており、IoT(モノのインターネット)を駆使して省エネを後押しする技術革新にも取り組む。
2011年の東日本大震災発生以降、節電意識の定着や再生可能エネルギーの利用推進に伴い、いかにエネルギーを生み出すかは下水処理場でも大きな課題だ。バイオマスである下水汚泥は重要なエネルギー資源で、15年には下水道法の一部改正により汚泥を燃料や肥料として再生利用するよう下水道管理者に努力義務が課せられた。
汚泥の処理過程で発生する消化ガス(バイオガス)の約3割は活用されていないとされる。こうしたエネルギーの有効活用に向け、ヤンマーエネルギーシステム(大阪市北区)はバイオガスを燃料とする小型コージェネレーション(熱電併給)システムの導入を促進。出力25キロワットの発電機と付帯装置、配管やポンプ、補機類を20フィートコンテナに内蔵したシステムを開発。改良を重ね年内に発売する。
同社は下水処理場向けでトップの納入台数を誇る。「下水処理場はエネルギーの宝庫」(林清史営業統括部エンジニアリング部ソリューショングループ部長)とし、設置が簡単で工事期間の短縮や手間の軽減が可能な新システムで「小規模の処理場への提案を加速していきたい」(同)考えだ。同社は自治体の要望にも応え、出力300キロワットの中型機を15年10月に発売。下水処理場からの引き合いも増えているという。
月島機械は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を利用した消化ガスの発電事業を1日に大阪市内の下水処理場で始めた。大阪ガス子会社のOGCTS(大阪市中央区)やグループの月島テクノメンテサービス(東京都江東区)と組み、民設民営方式で20年間の発電事業を行う。
処理場にはヤンマーエネルギーシステム製の出力25キロワットのコージェネシステム30台を設置。発電能力は750キロワット、年間発電量は約550万キロワット時を見込む。発電に伴う廃熱は消化槽の加温に利用する。月島機械グループとOGCTSは今後同市内の処理場3カ所でも消化ガス発電事業を計画し、4カ所合計で4090キロワットの発電能力、年間約2580万キロワット時の発電を想定する。
下水処理場で使われる電力は国内全体の年間電力使用量の約0・7%を占めるとされ、処理場での消費エネルギーの抑制も重要だ。国土交通省が14年に定めた「新下水道ビジョン」では、下水道で消費するエネルギーを約1割削減する目標を掲げている。
下水道施設の中でも電力消費が大きい水処理の工程で省エネ技術の開発に乗り出したのはクボタだ。東芝と共同で、膜分離活性汚泥法(MBR)を用いた下水処理システムの電力使用量の削減を目指す。高度処理に使われるMBRシステムは従来の重力沈降による活性汚泥法に比べ設置スペースを取らず、水質の高い処理が可能。既設設備を収容する土木構造物を活用できるため老朽化設備の改築・更新に有用で、小規模の処理場を中心に導入されてきた。
ただ、膜分離装置や反応タンクに空気を供給する送風機の電力使用量が水処理施設全体の9割以上を占めており、中規模・大規模の処理場に普及させるためには電力使用量の削減が不可欠だ。
そこで東芝のビッグデータ(大量データ)解析技術を利用し、各下水処理場の運転状況に応じて供給する空気の量を制御する技術を確立し、膜分離装置との組み合わせにより年間電力使用量を従来比50%削減する計画だ。名古屋市内の処理場で実証実験を進めている。
日立造船は撹拌(かくはん)状態を維持したまま空気供給が可能な装置「ドラフトチューブエアレーター(DTA)」で省エネを提案する。同社は日本下水道新技術機構の省エネ型反応タンク撹拌機の導入促進に関する共同研究に参画し、研究成果は技術マニュアルで紹介された。
新明和工業も10月に発売する現行比最大40%の使用電力削減が可能な水中ミキサーや、従来の水中モーター撹拌機に比べ低動力の縦型撹拌機で省エネを促進する。同撹拌機は反応タンクの上部に駆動装置を設置して保守点検をしやすくした。
財政面の制約に加えベテラン職員の退職など人手不足から「メンテナンス性が高い装置が重宝されている」(小森勲流体事業部事業企画部担当部長)とし、こうしたニーズへの対応を強化しつつ更新需要を取り込む。
(文=大阪・窪田美沙)
合計の発電潜在能力は1万8742キロワットで、563地点のうち274地点が出力20キロワット以上だった。全体の年間発電電力量は1億5847万キロワット時になり、二酸化炭素(CO2)9万2000トン分の排出削減効果が見込まれるという。
水道施設には導水・配水などの圧力差を、小水力発電に生かせる箇所が散在している。全国の水道事業者が消費する年間電力量は約74億キロワット時で、電力需要全体の約0・8%を占める実態もあり、環境省は13年度から水道施設への太陽光発電なども含めた再生可能エネルギー、省エネ設備導入を推進する施策を展開。
だが、小水力発電を導入している水道施設の割合は現状で全体の2・7%にとどまっている。
日刊工業新聞2016年9月20日
下水処理場に眠る埋蔵エネルギー
下水処理場に眠るエネルギーを活用しよう―。水処理設備やエネルギー関連機器を手がける機械メーカーが、下水処理中に発生するエネルギーの有効利用に寄与する技術の開発や普及に挑んでいる。一方で処理にかかる電力消費の低減が課題となっており、IoT(モノのインターネット)を駆使して省エネを後押しする技術革新にも取り組む。
2011年の東日本大震災発生以降、節電意識の定着や再生可能エネルギーの利用推進に伴い、いかにエネルギーを生み出すかは下水処理場でも大きな課題だ。バイオマスである下水汚泥は重要なエネルギー資源で、15年には下水道法の一部改正により汚泥を燃料や肥料として再生利用するよう下水道管理者に努力義務が課せられた。
バイオガスの3割は未活用
汚泥の処理過程で発生する消化ガス(バイオガス)の約3割は活用されていないとされる。こうしたエネルギーの有効活用に向け、ヤンマーエネルギーシステム(大阪市北区)はバイオガスを燃料とする小型コージェネレーション(熱電併給)システムの導入を促進。出力25キロワットの発電機と付帯装置、配管やポンプ、補機類を20フィートコンテナに内蔵したシステムを開発。改良を重ね年内に発売する。
同社は下水処理場向けでトップの納入台数を誇る。「下水処理場はエネルギーの宝庫」(林清史営業統括部エンジニアリング部ソリューショングループ部長)とし、設置が簡単で工事期間の短縮や手間の軽減が可能な新システムで「小規模の処理場への提案を加速していきたい」(同)考えだ。同社は自治体の要望にも応え、出力300キロワットの中型機を15年10月に発売。下水処理場からの引き合いも増えているという。
「民設民営方式」で20年間の発電事業
月島機械は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を利用した消化ガスの発電事業を1日に大阪市内の下水処理場で始めた。大阪ガス子会社のOGCTS(大阪市中央区)やグループの月島テクノメンテサービス(東京都江東区)と組み、民設民営方式で20年間の発電事業を行う。
処理場にはヤンマーエネルギーシステム製の出力25キロワットのコージェネシステム30台を設置。発電能力は750キロワット、年間発電量は約550万キロワット時を見込む。発電に伴う廃熱は消化槽の加温に利用する。月島機械グループとOGCTSは今後同市内の処理場3カ所でも消化ガス発電事業を計画し、4カ所合計で4090キロワットの発電能力、年間約2580万キロワット時の発電を想定する。
下水処理場で使われる電力は国内全体の年間電力使用量の約0・7%を占めるとされ、処理場での消費エネルギーの抑制も重要だ。国土交通省が14年に定めた「新下水道ビジョン」では、下水道で消費するエネルギーを約1割削減する目標を掲げている。
省エネ技術と組み合わせ
下水道施設の中でも電力消費が大きい水処理の工程で省エネ技術の開発に乗り出したのはクボタだ。東芝と共同で、膜分離活性汚泥法(MBR)を用いた下水処理システムの電力使用量の削減を目指す。高度処理に使われるMBRシステムは従来の重力沈降による活性汚泥法に比べ設置スペースを取らず、水質の高い処理が可能。既設設備を収容する土木構造物を活用できるため老朽化設備の改築・更新に有用で、小規模の処理場を中心に導入されてきた。
ただ、膜分離装置や反応タンクに空気を供給する送風機の電力使用量が水処理施設全体の9割以上を占めており、中規模・大規模の処理場に普及させるためには電力使用量の削減が不可欠だ。
そこで東芝のビッグデータ(大量データ)解析技術を利用し、各下水処理場の運転状況に応じて供給する空気の量を制御する技術を確立し、膜分離装置との組み合わせにより年間電力使用量を従来比50%削減する計画だ。名古屋市内の処理場で実証実験を進めている。
メンテナンス性の高さが重要に
日立造船は撹拌(かくはん)状態を維持したまま空気供給が可能な装置「ドラフトチューブエアレーター(DTA)」で省エネを提案する。同社は日本下水道新技術機構の省エネ型反応タンク撹拌機の導入促進に関する共同研究に参画し、研究成果は技術マニュアルで紹介された。
新明和工業も10月に発売する現行比最大40%の使用電力削減が可能な水中ミキサーや、従来の水中モーター撹拌機に比べ低動力の縦型撹拌機で省エネを促進する。同撹拌機は反応タンクの上部に駆動装置を設置して保守点検をしやすくした。
財政面の制約に加えベテラン職員の退職など人手不足から「メンテナンス性が高い装置が重宝されている」(小森勲流体事業部事業企画部担当部長)とし、こうしたニーズへの対応を強化しつつ更新需要を取り込む。
(文=大阪・窪田美沙)
日刊工業新聞2016年8月16日