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オフショアからニアショアへの流れは続くか

北海道、沖縄などで進む開発拠点の集積化
オフショアからニアショアへの流れは続くか

伊藤忠テクノの札幌開発センター

*伊藤忠テクノ、札幌300人体制に
 伊藤忠テクノソリューションズは日本国内の地方拠点でシステム開発を行う「ニアショア開発」の体制を強化する。その一環として、札幌開発センター(札幌市中央区)の人員を増強。現地採用を積極的に行い、2016年度内に現在比約1割増となる300人体制にする。さらに新たなニアショア拠点の開設も検討する。

 ニアショア開発体制の強化を決めた背景として、海外での開発費の上昇などがあった。伊藤忠テクノソリューションズの菊地哲社長は「東京都内よりも人件費を抑えられ、品質を担保できる。さらに短納期の要望に応えやすい。こうしたことから(顧客企業から)ニアショア開発の要望が高まっている」と説明する。

 札幌開発センターは12年に開設。携帯電話会社・金融機関向けのシステムやアプリケーション(応用ソフト)の構築、自社内で利用するシステムの運用・監視など幅広く業務をこなしている。当初は10人で始動したが、現在は270人まで規模を拡大している。

 SI(システム構築)業界では、コスト削減の目的でシステム開発の一部を中国やベトナムなど海外に委託している。だが近年は人件費の上昇などから、コストメリットが出にくい状態になっている。

 そこで国内でのニアショア開発へ移行する企業が出始めている。伊藤忠テクノソリューションズは顧客のニーズに合わせて対応できるよう、中国でのオフショア開発と併用し、ニアショア開発拠点を活用していく方針。

日刊工業新聞2016年9月23日



宮崎でバングラデシュのITと合弁


 教育情報サービス(宮崎市、荻野次信社長)は、バングラデシュのIT企業と合弁で国内地方拠点でシステム開発するニアショア新会社を設立した。宮崎県に進出したIT企業だけでなく、全国のニアショア開発需要に対応する。市場調査を踏まえ10月から稼働させる計画。3年後までに開発者を50人に拡大する。

 バングラデシュの大手IT企業BJIT(ダッカ)と組んだ。新会社「BJIT宮崎」は資本金500万円で教育情報サービスが70%、BJITが30%出資した。まず日本人スタッフ3人の体制で市場調査し、需要に応じてBJITの技術者を増員する。

 教育情報サービスは試験的にBJITの技術者2人を採用しており、日本企業のニーズに十分対応できると判断した。また宮崎大学が日本語教育を行うことも検討している。

 宮崎県はIT企業の進出が増えているが、ITスキルの高い人材は不足しているのが現状。海外に開発委託するオフショア開発は、コミュニケーションやセキュリティー面の課題がある。そこで地方都市の開発力を生かすニアショア開発が再評価されているが、地方には人材が足りない悩みがある。

 新会社は開発だけでなく、日本と海外の橋渡し役となるブリッジSE(システムエンジニア)を育成する拠点としても活用していく。

日刊工業新聞2016年7月12日



ベトナムでもコストメリット出にくく


 SCSKは日本国内の地方拠点でシステム開発を行うニアショア開発体制を強化する。新拠点を2カ所開設するとともに、岩手、福井、宮崎、沖縄の4県にある既存拠点の規模拡張を行う。地方の優秀なIT人材を確保し、品質・生産性の高い大規模な国内開発体制を構築する。2017年度末にIT人材を現在の約330人から1000人体制にする。

 SCSKは、その第1弾の取り組みとして、鹿児島県に新拠点を10月に開設する。金融機関や通信事業者向けの大規模システムの拡張や保守業務を行う。

 人材は新卒と中途採用を進めるとともに、地元パートナー企業と連携し確保する。16年度末で50人、5年以内に150人まで規模を拡大する。さらに17年4月までに、もう1カ所開設する予定。

 同社を含めたSI(システム構築)業界では、コスト削減の目的でシステム開発の一部を中国やベトナムなど海外に委託している。

 近年は人件費の高騰などから、コストメリットが出にくい状態になっている。そこで、国内でのニアショア開発へ移行する企業が出始めている。

日刊工業新聞2016年4月13日



沖縄の可能性、“中”付加価値狙え


 <海邦総研(那覇市)上席研究員・比嘉明彦氏>
 沖縄ではソフトウエアやコンテンツのニアショア開発、DC立地などが進むが、”中“付加価値のBPO(業務受託)事業を推進する戦略があってもいい。

”中“付加価値の業務とは、企業の内部管理の一部や各種承認プロセス、複雑な事務作業といった単純作業に暗黙知で価値をプラスアルファできる分野。海外へ委託しても商習慣の違いから効率的でない業務だ。沖縄では言葉の問題は当然なく、大都市圏と比べれば人件費の面でもメリットはある。

ただ、沖縄県内のBPO事業従事者は約2万人とされるが、コールセンター事業者とスキルの高い人材の奪い合いになる恐れがある。そのためマネジャークラスの県内人材の養成は不可欠だ。指示を待つだけでなく、現場で気付きを与えられる人材を多く育成することで、難易度の高い複雑な業務にも対応可能という信頼感を獲得していくべきだろう。(談)

日刊工業新聞2015年8月3日



“人月”から頭脳集積へ


 “人月(にんげつ)”から頭脳集積へ―。情報サービス業界には「人月」という単位があり、「人数×月」で開発規模を見積もることが多い。原価を下げるには業務の効率化に加え、賃金の安い中国などを活用したオフショア(海外委託)開発が有効な手だてとなる。だが、ここにきて円安と現地での賃金上昇が相まって、国内回帰へと風向きが変わってきた。

 「オフショア開発の一部をニアショア(国内の遠隔地への委託)に切り替えている」(岩本敏男NTTデータ社長)、「ニアショア開発を増やすため、北海道や九州などの協力会社と話を始めた」(毛利隆重NECソリューションイノベータ社長)。オフショアは言葉や商習慣の違いから手間が掛かる。コストを踏まえるとメリットが薄らぎつつあるのが現状だ。

 これに対し、謝敷宗敬新日鉄住金ソリューションズ社長は「円安でも中国でオフショア開発を止めるわけにはいかない。国内との役割分担をきっちりすれば問題はない」と言及。嶋本正野村総合研究所社長は「5000人規模の中国のオフショア開発拠点を沿海部から人件費が安い内陸部へ移設。ベトナムへの切替もあるが、国内はあまり考えない」と打ち明ける。

 意見は二分するがNECの場合も協力会社を含めて中国に4000人の開発要員がいて、その受け皿を国内で一気にそろえることはできない。各社が求めているのは“頭脳集団”に他ならない。

 一方でITの集積基地ともいえるデータセンター(DC)投資に新たな動きが出ている。直近では1月27日、富士通が主力の東西DCに総額525億円を投じる計画を打ち上げた。モノのインターネット(IoT)やクラウド事業に加え、災害時事業継続計画(BCP)を強化するのが狙いだ。

 米IBMなど外資勢も国内でのDC投資を拡大する。狙いは「海外へのデータの持ち出し制限」などへの対応だ。米アクセンチュアは2014年10月に経理や総務、調達などを代行する業務受託サービス(BPO)拠点を熊本市に開設した。

 同社にとって国内初のニアショア拠点。「日本向けBPOは中国・大連がメーンだが、それだけではお客さんは満足しない」(アクセンチュア)。国内と海外のサービスを組み合わせ、日本企業の要望にきめ細かく対応する戦略だ。

 内閣府は1月下旬、地方活性化モデルケースとして、福島県会津若松市を「ビッグデータ戦略活用のためのアナリティクス拠点集積事業」に認定した。

 カギとなるのは人月ではなく、頭脳集団の育成。データ分析の専門家の育成などで、会津大学とアクセンチュアが協力する。「世界を舞台に活躍する頭脳を集積すれば、人材の裾野も広がり産業が根付く」(同)。ITによる地方創生でも頭脳の集積が問われている。

日刊工業新聞2015年2月3日

日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
SI業界ではシステムやソフト開発の一部は中国やベトナムなど海外(オフショア)に委託してきましたが、人件費の上昇などでコスト優位性が薄れてきているようです。国内では自治体がインフラを整備し誘致を進める北海道や沖縄に開発拠点を集積しようとする動きがあります。課題はシステム・ソフト開発が行える人材の確保で、Uターン・Iターンの推奨やスキル向上のための教育も必要になります。

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