川重、21年ぶりにLPG船を建造。“造船強国”復活の行方

三菱重工はオーナー系と提携協議

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川重が建造するLPG船の進水式
 川崎重工業は22日、シンガポールの船舶保有・運航会社クミアイ・ナビゲーション向けのLPG(液化石油ガス)運搬船「PYXIS ALFA(ピクシス・アルファ)」の命名・進水式を神戸工場(神戸市中央区)で開いた。神戸工場でLPG運搬船を建造したのは21年ぶり。

同船は独自の船首形状「シーアロー」を採用。全長約230メートル、幅37・2メートル、深さ21メートル、総トン数約4万7300トンで、約8万2200立方メートルのLPGを積載できる。同じ型のLPG運搬船は4隻目。艤装(ぎそう)工事後、2017年5月に引き渡す。

日刊工業新聞2016年9月23日



事業再編をテコに成長軌道なるか



 三菱重工業、今治造船、大島造船所、名村造船所が商船事業で提携協議に入った。新造船価の低迷が続く中、リスク耐性を高める上でも正攻法といえる。過度の円高が是正され、韓国、中国との受注競争力が拮抗(きっこう)している今こそ、ピンチをチャンスに変える好機である。

 海事産業を取り巻く環境は激変している。日韓の造船大手が業績悪化に苦しむ一方、海運需要の低迷で韓国最大手の韓進海運が経営破綻した。個々の企業の経営判断ミスもあろうが、構造改革の必要が顕在化しているのは明白だ。

 日本船舶輸出組合によると、1―7月期の輸出船契約(一般鋼船)は前期比81・2%減の約230万総トン。昨年までの好調の反動減が厳しい。ただ中長期でみれば荷動き量の増加や既存船舶のスクラップなどで新造船需要の回復は明らかだ。

 提携交渉入りした造船4社は九州、四国など西日本に拠点を構え、人事交流や共同調達を進めやすい。日本一の建造量を持つ今治造船はじめ、大島造船、名村造船など専業勢の強みは意思決定の速さと生産効率。ここに三菱重工のLNG運搬船や客船、特殊船などの技術力が加われば、大きなシナジーを生む可能性がある。

 総合重工業とオーナー系専業との企業文化や就労体系、業務の隔たりは大きいだろう。ただ名村造船による佐世保重工業の子会社化、今治造船による幸陽船渠の吸収合併、三菱重工の商船事業分社など、事業再編をテコに成長を志向する経営マインドには共通する部分もある。

 国交省の海事レポートによると、わが国造船業は85%という高い国内生産比率を保ち、国内調達率は91%に及ぶ。関連する船舶用機器メ―カーを含めた雇用は12万5000人規模で、造船所の立地する地域経済の中核を担う。政府は今後も事業再編や技術開発など、造船業界の競争力向上を後押しすべきだ。

 三菱重工、今治造船ら4社の決断は、造船に限らずわが国産業界の未来投資にも一石を投じる。提携成功を“造船強国ニッポン”奪還の契機にしたい。

日刊工業新聞2016年9月14日



三菱重工の「商船改革」は軌道に乗るか


 三菱重工業の商船事業改革が、新たなステージに入る。8月末に専業大手の今治造船、大島造船所、名村造船所と、同事業での提携に向けた協議入りを発表。自社の造船技術と3社の製造能力を組み合わせ、開発力の強化やコスト低減につなげる。生産拠点の再編や分社化など解体から始まった商船改革は、外部資源の活用でその歩みを加速。各社のシナジーを最大化し、世界2強の中国・韓国に対抗する。海運市況低迷に伴う造船不況の出口が見えない中、再び羅針盤を手に入れられるか。

(大型ガス船などを建造する三菱重工長崎造船所香焼工場)

慢性赤字から抜け出す?


 三菱重工は1980年代以降、中国や韓国との競争激化などを背景に、国内5カ所の船舶建造拠点を長崎造船所(長崎市)と下関造船(山口県下関市)に集約。大型客船や資源探査船、液化天然ガス(LNG)船といった高付加価値船にシフトする構造改革に踏み切った。今回の提携協議入りで、慢性赤字から抜け出すための施策は確実に前進しそう。

 建造量では提携する3社の背中を見る三菱重工だが、「技術力や新船型の開発力は、間違いなく世界トップレベル」(名村造船)。ただ「三菱重工の現在の建造量では、技術力は生かし切れていない」(業界関係者)のが現状だ。建造量国内首位の今治造船、3位の大島造船、4位の名村造船と組めば、多様な船舶への技術導入が可能になる。

 各社との提携内容は詳細が詰まった段階であらためて公表する方針だが、排ガス規制など新造船の環境対応や建造能力の向上に向けた提携などを視野に入れる。状況次第では事業統合のシナリオも描け、JFEホールディングスとIHI傘下の造船会社が13年に統合し、ジャパンマリンユナイテッド(東京都港区)が誕生して以来の大型再編になりうる。

 大型ガス船などを建造する三菱重工長崎造船所香焼工場。15年10月には船体建造、船体ブロック建造の専業会社2社を始動した。ガス船では連続建造によるボリューム効果を最大限発揮する戦略だ。18年度までLNG船を年4―5隻造り、まずは黒字体質への転換を狙う。

 ここでも専業大手との提携は、大きなメリットとなりそう。LNG船は高い建造能力を武器に、一時は韓国勢が大きくシェアを伸ばした。日本勢は技術を持つが、単独で大量隻数を短納期に建造するのは難しい。

受注はここ10年で最悪


 仮にLNG船の連続建造でも提携できれば、「まとまった隻数を一度に手がけるロット受注も可能になる」(関係筋)。LNG開発プロジェクトの一環として発注されるLNG運搬船などはロット発注が多い。ガス船を重点事業に位置づける今治造船や名村造船にも、大きなメリットとなるだろう。

 三菱重工がこうした動きを加速するのも、深刻な船腹過剰の状況が慢性的に続くためだ。世界の新造船は中国・韓国・日本の3カ国が約9割を建造する。3カ国の建造能力は合計1億総トンに達するが、足元の新造船需要は3000万―4000万総トン。船があふれ運賃も下落し「海運市況はどん底にある」(日本造船工業会)。

 16年の新造船受注も「ここ10年で最悪となる見通し。日本も昨年度に比べて3分の1程度」(同)になりそう。日本勢は幸い2―3年の手持ち工事を抱え、当面の仕事は見えている。この間に事業体質の転換をいかに進めるかが、日本勢浮沈のカギを握る。

中国と韓国も“双子の過剰”で事業厳しく


 半面、厳しいのは中国、韓国だ。将来を見据えて業界再編や各社の自助努力で、建造能力を適正化してきた日本に比べ、両国は船腹と建造能力の“双子の過剰”が、体力をむしばんでいる。

 韓国では大宇造船海洋、現代重工業、サムスン重工業の大手3社が、政府主導の経営再建を本格化。資産売却や人員削減といった抜本的な構造改革に乗り出した。中国でも国営の造船会社の統合案が浮上している。

 ただ、政府の公的支援で再建を目指す韓国企業などへは、懐疑的な見方も強い。日本造船工業会の村山滋会長(川崎重工業会長)は「本来、市場原理によって競争力のない造船所は淘汰(とうた)され、過剰な供給能力が解消されるべきだ」と強調。公正な競争が担保されない公的支援は、世界の造船業界のリスクでしかない。

<解説>
 商船改革が次のステップに向けて動き出した一方、目下の関心事は累計2000億円を超える損失を出した大型客船事業だ。社内に評価委員会を設けて今後の方向性を詰めている。10月には一定の結論を公表する予定だ。撤退を含めた大なたを振るうのか。動向が注目される。ただ、ある業界関係者は『大型客船は造船屋の夢。大変だろうが、撤退してほしくない』と真情を吐露する。建造技術や艤装(ぎそう)技術の粋が結集された大型客船。三菱重工には是非ともがんばってもらいたい。
(長塚崇寛)

日刊工業新聞2016年9月8日

COMMENT

明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

日本勢は40年間守ってきた世界首位の座を中国や韓国に奪われつつも、むやみに能力拡大をせず、生産性向上や環境技術の開発し造船不況に耐えうる体制を整えてきた。  手持ち工事量も3年分を抱え、この間にLNG船やメタノール船、水素運搬船などの高付加価値船で2強を追う。15年の世界受注量シェアは、中国33・0%、韓国30・9%、日本26・9%。  5月に行われた経済協力開発機構(OECD)の造船分野会議で日本は、世界単一市場である造船業は個社に対する公的支援が、市場原理に基づく判断かどうかについて、問題提起をした。 安値受注を続ける韓国・中国勢を政府がこのまま支援を続ければ、市場原理が働かず、業界の新陳代謝は進まない。公正な競争条件が担保されない公的支援は、世界の造船業界のリスクになる。  それにしても三菱重工の大型客船のプロジェクト管理は甘すぎる。

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