自動車よりも普及が早い!燃料電池がフォークリフト業界の競争軸に
トップメーカー、豊田自動織機がここでもけん引役か
フォークリフト業界で“水素社会”に備える動きが広がっている。東京ビッグサイト(東京・有明)で開かれた「第12回国際物流総合展」で、豊田自動織機とニチユ三菱フォークリフトが、燃料電池を搭載したフォークリフト(FCフォークリフト)を出展した。バッテリー式のフォークリフトに比べて、水素の充填時間が短いのが最大の特徴だ。水素を供給するインフラが整備されれば、長時間の稼働が必要な施設などへの導入が見込まれる。
「3分で水素を充填できる」―。豊田自動織機の吉川浩二トヨタL&Fカンパニー産車用FCプロジェクト主査は、FCフォークリフトの強みをこう説明する。
同社は秋に国内で発売するFCフォークリフトを展示した。稼働中に二酸化炭素(CO2)を排出しないため、環境対応のいわば“最終形”だ。これまでのフォークリフトではバッテリーを充電するのに一定時間が必要だったが、水素を短時間で充填することで連続して長時間利用可能。関西国際空港などでの実証を経て、先行して商用化する。
ニチユ三菱もFCフォークリフトの開発を進めており、参考出展した。豊田自動織機と同様に水素の充填時間が短く、実用化を目指す。
また、ユニキャリアは燃料電池を搭載した搬送車を米国で販売し、スーパーマーケットで利用されているという。「燃料電池がバッテリーに比べて軽いため車両のバランスを取る」(倉島正弘日本事業本部商品・販促部部長)ことを含め、燃料電池を載せるうえでの課題を解消した。
FCフォークリフトが普及するには、水素の供給設備を整えることが必要だ。燃料電池車と異なり、一定台数の車両が限られた場所で稼働し、水素の消費量などを計算しやすい。
そのため供給設備を導入するハードルがそれほど高くない見方もある。フォークリフト各社にとって今後、FCフォークリフトが競争軸となる。
横浜市と川崎市の臨海部で2017年から水素社会を実感できる実証事業が始まる。トヨタ自動車、東芝、岩谷産業などが風力発電と水で水素を製造・貯蔵。これを輸送して燃料電池(FC)フォークリフトで使う”水素サプライチェーン“を実際に動かす。参加企業は、二酸化炭素排出ゼロで製造した水素を地域で使うエネルギーの地産地消モデルとして全国展開を視野に入れている。
(実証で使うFCフォークリフトと水素を輸送するトラック)
実証事業には3社以外に神奈川県、横浜市、川崎市が参加。環境省の事業として18年度まで実施する。トヨタの友山茂樹専務役員は「水素を安定供給するサプライチェーン構築が重要になる」と決意を語る。
風力発電は高層ビルや観覧車が並ぶ横浜市の「みなとみらい地区」の対岸にある。水を電気分解して水素を製造する装置や水素貯蔵タンクを風力発電の近くに設置。風力発電の電力で水素を作る。
風が吹かない時は蓄電池から電力を供給して電気分解装置を動かす。蓄電池にも風力発電の電力を充電しておく。タンクは2日分の水素を貯蔵できる容量に設計した。実証ではあるが、実用化を見すえて「天候によって水素が製造できなくなっても、FCフォークリフト利用者に迷惑をかけないようにする」(友山専務役員)。
水素は圧縮して4トントラックに充填して運ぶ。配送先は4カ所、合計12台のFCフォークリフトに供給する。FCフォークリフトのある横浜市中央卸売市場では短い距離の移動が多く、キリンビールは重量物の搬送、ニチレイは低温環境と、フォークリフトの使用形態が違う工場や倉庫を選んだ。
実用化に向けて注目されるのがコストだ。「量産効果、規制緩和で水素価格をどこまで下げられるか検証したい」(同)という。水素ステーションではハイブリッド車の燃料と同等以下の価格で水素を販売している。
東芝の次世代エネルギー事業開発プロジェクトチームの大田裕之統括部長は「電動フォークリフトよりも安くしないと世の中に受け入れられない」と目安を示した。
すでに北海道の大規模風力発電所から電力を首都圏に送って水素を製造するような事業も検討している。大田部長も「再生エネ由来の水素を地産地消するための重要なパイロット事業であり、未来社会を先取りしている」と語る。開港によって日本の近代化が始まった横浜から、水素社会の幕が上がる。
(文=松木喬)
※肩書き、内容は徒事のもの
<関連記事>
●三菱重工が初の事業持ち株会社でフォークリフトは成長するか
●フォークリフト大手、独キオンが米物流ロボット会社買収。単品売りから脱却へ
●ユニキャリア売却の波紋!「豊田自動織機はほとんど関心を示さなかった」
●続・ユニキャリア売却の波紋!なぜニチユ三菱に決まったのか?深層レポート
「3分で水素を充填できる」―。豊田自動織機の吉川浩二トヨタL&Fカンパニー産車用FCプロジェクト主査は、FCフォークリフトの強みをこう説明する。
同社は秋に国内で発売するFCフォークリフトを展示した。稼働中に二酸化炭素(CO2)を排出しないため、環境対応のいわば“最終形”だ。これまでのフォークリフトではバッテリーを充電するのに一定時間が必要だったが、水素を短時間で充填することで連続して長時間利用可能。関西国際空港などでの実証を経て、先行して商用化する。
ニチユ三菱もFCフォークリフトの開発を進めており、参考出展した。豊田自動織機と同様に水素の充填時間が短く、実用化を目指す。
また、ユニキャリアは燃料電池を搭載した搬送車を米国で販売し、スーパーマーケットで利用されているという。「燃料電池がバッテリーに比べて軽いため車両のバランスを取る」(倉島正弘日本事業本部商品・販促部部長)ことを含め、燃料電池を載せるうえでの課題を解消した。
FCフォークリフトが普及するには、水素の供給設備を整えることが必要だ。燃料電池車と異なり、一定台数の車両が限られた場所で稼働し、水素の消費量などを計算しやすい。
そのため供給設備を導入するハードルがそれほど高くない見方もある。フォークリフト各社にとって今後、FCフォークリフトが競争軸となる。
日刊工業新聞2016年9月16日
トヨタが横浜で「作って、運んで、使う」実証
横浜市と川崎市の臨海部で2017年から水素社会を実感できる実証事業が始まる。トヨタ自動車、東芝、岩谷産業などが風力発電と水で水素を製造・貯蔵。これを輸送して燃料電池(FC)フォークリフトで使う”水素サプライチェーン“を実際に動かす。参加企業は、二酸化炭素排出ゼロで製造した水素を地域で使うエネルギーの地産地消モデルとして全国展開を視野に入れている。
(実証で使うFCフォークリフトと水素を輸送するトラック)
実証事業には3社以外に神奈川県、横浜市、川崎市が参加。環境省の事業として18年度まで実施する。トヨタの友山茂樹専務役員は「水素を安定供給するサプライチェーン構築が重要になる」と決意を語る。
風力発電は高層ビルや観覧車が並ぶ横浜市の「みなとみらい地区」の対岸にある。水を電気分解して水素を製造する装置や水素貯蔵タンクを風力発電の近くに設置。風力発電の電力で水素を作る。
風が吹かない時は蓄電池から電力を供給して電気分解装置を動かす。蓄電池にも風力発電の電力を充電しておく。タンクは2日分の水素を貯蔵できる容量に設計した。実証ではあるが、実用化を見すえて「天候によって水素が製造できなくなっても、FCフォークリフト利用者に迷惑をかけないようにする」(友山専務役員)。
水素は圧縮して4トントラックに充填して運ぶ。配送先は4カ所、合計12台のFCフォークリフトに供給する。FCフォークリフトのある横浜市中央卸売市場では短い距離の移動が多く、キリンビールは重量物の搬送、ニチレイは低温環境と、フォークリフトの使用形態が違う工場や倉庫を選んだ。
実用化に向けて注目されるのがコストだ。「量産効果、規制緩和で水素価格をどこまで下げられるか検証したい」(同)という。水素ステーションではハイブリッド車の燃料と同等以下の価格で水素を販売している。
東芝の次世代エネルギー事業開発プロジェクトチームの大田裕之統括部長は「電動フォークリフトよりも安くしないと世の中に受け入れられない」と目安を示した。
すでに北海道の大規模風力発電所から電力を首都圏に送って水素を製造するような事業も検討している。大田部長も「再生エネ由来の水素を地産地消するための重要なパイロット事業であり、未来社会を先取りしている」と語る。開港によって日本の近代化が始まった横浜から、水素社会の幕が上がる。
(文=松木喬)
※肩書き、内容は徒事のもの
日刊工業新聞2016年3月21日
<関連記事>
●三菱重工が初の事業持ち株会社でフォークリフトは成長するか
●フォークリフト大手、独キオンが米物流ロボット会社買収。単品売りから脱却へ
●ユニキャリア売却の波紋!「豊田自動織機はほとんど関心を示さなかった」
●続・ユニキャリア売却の波紋!なぜニチユ三菱に決まったのか?深層レポート