「悪いインフレ」の足音。日銀はもはやコントロールできず?

ヘリマネーとマイナス金利が加速。債券市場に異変も

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外国人投資家は既に日本株への関心なくす(黒田日銀総裁)
 11月8日の米国大統領選挙が2カ月後に迫り、「中央銀行相場」の出口も近づいている。このところ米連邦準備制度理事会(FRB)地区連銀議長数人からの強気発言が相次ぎ、9月20―21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ実施となるか、あるいは12月まで先送りとなるか、市場は注目している。

 仮にトランプ候補が大統領になった場合、イエレンFRB理事長の続投も不透明となる。加えて、クリントン候補が11日、米同時多発テロの式典で倒れ込み、健康問題が急浮上し、カリフォルニア州での遊説を取りやめるニュースが駆け巡るなど、先行き不透明感が漂っている。

 FOMCと時を同じくして日銀の金融政策決定会合も注目される。日銀はマイナス金利のさらなる深化を掲げるだろう。市場は円安を織り込んでいるが、その割には日本株の上値は重い。外国人投資家は既に日本株への関心をなくしているようだ。

 インフレターゲットを掲げる日銀・政府には、お金が降ってくれば(いわゆるヘリコプターマネー、通称「へリマネー」)、皆が喜んで拾いに行ってお金を使うという思い込みがある。

 しかし、庶民からみればお金は自分たちの税金であり、バラまかれて仕方ないから拾うものの、これから増税が来るのを知っているので喜んで使う気にもなれない。

 おまけにマイナス金利で利息税まで取られれば、ますます「たんす預金」に励む。これでは日銀がインフレを起こそうとすればするほど、デフレマインドが加速する。

 加えて、マイナス金利が深化すれば、政府はいっそう高い金利税を民間金融機関から徴収することになる。これでは国内債券市場での運用が極めて困難になり、特に長期安定運用を目指す年金基金や生損保の運用収益をますます圧迫するだろう。

 政府は、名目成長率を高めようとインフレターゲット2%を掲げている。実質成長率が仮に1%とすれば、名目成長率は(1+2)=3%となる。しかし、実際は物価が下がっているので、例えば、名目成長率1%でデフレ率(マイナス0・5%)となれば、1マイナス(マイナス0・5)と実質成長率1・5%である。

 デフレ基調だからこそ、物価も上がらずなんとか生活ができた。ところが、デフレでは政府債務の実質価値が増大してしまう。この打開策がインフレターゲットである。

 ヘリマネーとマイナス金利が加速し、市場が出口の見えない不安で揺らぐ今、日銀の債券購入規模の縮小や国債市場に買い手がつかないなど何か債券市場に異変が起これば、不安が一気に膨らみ、金利が急騰し、「悪いインフレ」が起こる可能性がある。問題は日銀がインフレをコントロールできるのかどうかだ。

(文=大井幸子・国際金融アナリスト兼SAIL社長)

日刊工業新聞2016年9月16日

COMMENT

明豊
デジタルメディア局
執行役員 DX担当

 日銀は20、21に開く金融政策決定会合で異次元緩和の「総括的な検証」をまとめる。7月の全国の消費者物価指数は前年比マイナス0・5%と日銀が掲げる物価上昇目標2%に遠く及ばない。むしろマイナス金利で金融機関の収益が悪化するなど副作用が顕在化している。デフレ脱却の遅れは原油安や円高が主因なのか、そもそも異次元緩和が限界に達したのか。日銀には説得力ある検証が求められる。今回の会合で追加の金融緩和を模索する見方が市場では有力だ。だが金融政策の調整だけで経済の好循環が回り始めるとは想像しにくい。そもそも金融緩和が企業や家計のインフレ期待を醸成し、設備投資や個人消費を喚起するというシナリオが十分に機能していない。実需を拡大することで自律的な経済成長を継続しなければデフレ脱却の道筋はみえてこないだろう。業界の既得権益と対峙した構造改革を推進するため、新設した政府の未来投資会議の成長戦略に期待。

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