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新型「プリウスPHV」の狙いはハイブリッドからの正常進化にある

苦戦の旧モデルから一新、重厚感のあるEV走行。まず年10万台クリアを
新型「プリウスPHV」の狙いはハイブリッドからの正常進化にある

6月の「スマートコミュニティJapan」で一般公開された新型プリウスPHV

 トヨタ自動車が今冬に投入する新型プラグインハイブリッド車(PHV)「プリウスPHV」。2015年末発売の新型ハイブリッド車(HV)「プリウス」をベースとしながらデザインをガラリと変え、PHVならではの電気自動車(EV)走行モードの性能を高めた。トヨタはPHVを次世代環境車の柱と位置づけるが旧モデルは販売苦戦を強いられた。三段跳びの「ステップ」を期する新型。どんなクルマに仕上がったか―。

加速性能でモデルの質感を演出



(デュアルモータードライブシステム)

 アクセルを踏むとEV走行で発進するのは旧型と同じ。違いを感じるのは踏み込んだ時だ。クンッと反応良く加速し、そのまま時速100キロメートルあたりまでエンジンがかからずにのびていった。すぐにエンジンがかかる旧型との差は明白だ。

 「デュアルモータードライブシステム」と呼ぶ新技術がEV走行の幅を広げた。旧型は駆動用モーターだけで足りないトルクをエンジンで補っていた。すぐエンジンがかかるのは、そのためだ。

 新システムは発電用ジェネレーターもモーターとして作動させられモーター二つ分のトルクを出せる。豊島浩二チーフエンジニア(CE)は「電気ターボのような使い方」と説明する。平たんなテストコースなら時速135キロメートルまではエンジンがかからないという。

 「外部充電をしないPHVが理想」(豊島CE)。その理想に近づけるための手段の一つとして新型にはソーラー充電システムを世界初採用した。走行中はオーディオなどを動かすための12ボルトバッテリーに電気を供給し、駆動用バッテリーの電力消費を抑える。

 駐車中は駆動用バッテリーに充電する。日照条件によるが1日当たり最大6・1キロメートル、平均2・9キロメートルを走行できる分を充電できる。開発チームは実際に炎天下に7日間放置したら満充電できたという。

パナソニック製の太陽光パネル)

「PHVを買いにきたけどHVでいいか」を変えたい


 乗り味はどうか。同じ車台を使っているプリウスとの比較が興味深い。豊島CEは「プリウスは軽快な走り。PHVはより上質な走り」と強調する。プリウスよりも車両重量が150キログラム重いことが乗り心地の面ではプラスに効いているという。「なめらか」(豊島CE)とも表現する。

 「PHVを買いにきたけどHVでいいか」。旧型ではそんな顧客も多かったとか。新型では乗り味の違いを明確にすることで「PHVを買いにきたお客さまが、乗り比べた上でPHVを選んでもらえるようなクルマにした」(豊島CE)。

 デザインでもプリウスとの違いを明確化。ヘッドランプなどのフロントは燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を意識した「先進感のある」(豊島CE)デザイン。リアコンビネーションランプなども含め一目でプリウスPHVだと分かるような個性的なデザインとした。

 旧型は累計販売約7万5000台にとどまった。ただプリウスも初代は10万台。代を重ねるごとに販売を大幅に伸ばしていった。豊島CEは「100万台ぐらいになってはじめて(PHVが)一般化する」と新型での飛躍を期する。
(文=名古屋・伊藤研二)
日刊工業新聞2016年9月8日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
走りの質、外内装のレベル、室内空間の何を見てもプリウスPHVの完成度は高い。重厚感のあるEV走行での加速性能などはこのモデルの質感を強く演出している。様々な飛び道具的なPHV新モデルがこのセグメントへ侵攻を強めてくる。トヨタの方針はハイブリッドからの正常進化であり、あくまでも重視するのはハイブリッドの高効率システムを最大限に活用するところ。効率軸を極め、如何にカーボンニュートラルに近づくか、これはもはやトヨタの哲学だ。累計7.5万台に留まった初代から、二代目が目指す目標は累計100万台の高い夢だ。これはハイブリッドプリウスの成功の軌跡と一致する。とはいえ、まずはグローバル年間販売台数10万台をクリアすることが最初の一歩。簡単な数値ではないが、国内市場での強い支援があれば可能となってくる。

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