東京五輪の宴の後、ユーグレナ・出雲社長の本当の夢が始まる
三重県に燃料用ミドリムシの国内最大級となる培養プール
ユーグレナは1日、三重県多気町に微細藻類「ユーグレナ(和名ミドリムシ)」の国内最大級となる培養プールを建設すると発表した。総面積は3000平方メートルで、隣接する木質バイオマス発電所の排ガスに含まれる二酸化炭素(CO2)などをミドリムシの栄養源として活用。2019年3月末までに大量生産技術を確立し、自動車や航空機用燃料としての活用を目指す。
ユーグレナは同日、三重県庁で県や多気町、同発電所を運営する中部プラントサービス(名古屋市熱田区)と協力協定を結んだ。10月に実証試験としてミドリムシの生産を始める。18年にプールを拡張し、国内最大級の燃料用藻類生産設備とする。
ユーグレナは20年にミドリムシを使った国産バイオジェット燃料の実用化を目指す。出雲充社長は「初の大規模培養設備。培養技術だけでなく、社会全体のCO2削減にもつなげたい」と述べた。
(バングラデシュを訪問し、子どもたちにミドリムシ入り食品を配る出雲社長)
ビジネスを通じて社会的課題を解決する動きが日本でも脚光を浴び始めた。環境や貧困問題ばかりと思われがちだが、最近はモビリティー、エネルギー、健康・福祉など幅広い領域で新しいハードウエアや、付加価値を提供するサービスが誕生している。「(小さな微生物の)ミドリムシで地球を救う」ことに挑戦するユーグレナと出雲充社長に迫る。
「アミ イズモ(私は出雲と申します)」―。5月下旬、来日したバングラデシュのシェイク・ハシナ首相と面会した出雲充は、ベンガル語でユーグレナが今年から本格的に始めた「ミドリムシ給食」の取り組みを紹介した。会話はわずか2分程度だったが、彼女から温かな母性を感じ、強い感動と使命感が沸き上がってきたという。
出雲が最初にバングラデシュを訪れたのは、1998年の夏。東京大学1年生の時にグラミン銀行のインターンシップとして食料問題の現実を目の当たりにした。帰国後、文科三類から農学部に進むことを決意する。
その後、出雲たちは、動物と植物の両方の性質を持つ藻類「ミドリムシ」の大量培養の技術を確立、05年に起業し今や時の人に。しかし心の中には、ずっと原点であるバングラデシュのことを気にかけていた。12年末に上場し、出雲は「一区切りついたのでそろそろ再訪してもいいだろう」と昨年、15年ぶりに現地に出向いた。
期待していたのは、あの時と同じ街中に響く人力車の「チリンチリン」の音色。ところがダッカの空港を降りると、日本の中古車が行き交い、ほとんどの人が携帯電話を持っていた。もっと驚いたのは食生活。みんなが食べているものは昔のままのカレーで、栄養失調の人が依然あふれている。
ユーグレナの使命はミドリムシで世界中から栄養失調をなくすこと。そして国産のバイオ燃料を作ること。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催の年に、バイオ燃料で民間旅客機が飛ぶのは話題性十分。しかし出雲は「21年からが大事なんだ」という。
おそらく日本は“祭りの後”に、それまで目をつむってきたさまざまな問題が露呈するだろうが、ミドリムシは世界の人たちを驚かすことができる夢の続きの一つ。
国連などによると、2050年に世界人口は92億人(現在は約70億人)。今、栄養失調人口は10億人だが何も手を打たなければ35億人まで増える。
「栄養失調人口を5億人にしたい。ミドリムシ以外でもいろいろな研究が進んでいる。栄養失調人口が減っていることが社会に希望を与える」―。出雲が描く2050年の夢は明快だ。
上場したことで株主も多様化したが、大半が出雲の夢を応援する人ばかり。ただし、バングラデシュでミドリムシ入りクッキーを配給するプロジェクトも、決してボランティアでやっているわけではない。
ムスリム(イスラム教徒)人口は2030年には世界の25%超になると予想され、購買力の向上も期待できる。国別人口で第4位を占めるバングラデシュで成功すれば、イスラム圏での商売がしやすい。すでに中東でミドリムシ食品の販売を検討中だ。
「バングラデシュは日本より遠隔医療が進んでいる。僕にとって過去ではなくあそこには未来がある」と出雲。何を成したいのかを明確にして、繰り返し伝え続けること。何でもできるからすごいのではない、ということを彼は教えてくれている。
(敬称略)
※肩書き、内容は当時のもの
ユーグレナは同日、三重県庁で県や多気町、同発電所を運営する中部プラントサービス(名古屋市熱田区)と協力協定を結んだ。10月に実証試験としてミドリムシの生産を始める。18年にプールを拡張し、国内最大級の燃料用藻類生産設備とする。
ユーグレナは20年にミドリムシを使った国産バイオジェット燃料の実用化を目指す。出雲充社長は「初の大規模培養設備。培養技術だけでなく、社会全体のCO2削減にもつなげたい」と述べた。
バングラデシュは僕の過去ではなく未来
日刊工業新聞2014年6月23日
(バングラデシュを訪問し、子どもたちにミドリムシ入り食品を配る出雲社長)
ビジネスを通じて社会的課題を解決する動きが日本でも脚光を浴び始めた。環境や貧困問題ばかりと思われがちだが、最近はモビリティー、エネルギー、健康・福祉など幅広い領域で新しいハードウエアや、付加価値を提供するサービスが誕生している。「(小さな微生物の)ミドリムシで地球を救う」ことに挑戦するユーグレナと出雲充社長に迫る。
15年ぶりに出向いたダッカに驚き
「アミ イズモ(私は出雲と申します)」―。5月下旬、来日したバングラデシュのシェイク・ハシナ首相と面会した出雲充は、ベンガル語でユーグレナが今年から本格的に始めた「ミドリムシ給食」の取り組みを紹介した。会話はわずか2分程度だったが、彼女から温かな母性を感じ、強い感動と使命感が沸き上がってきたという。
出雲が最初にバングラデシュを訪れたのは、1998年の夏。東京大学1年生の時にグラミン銀行のインターンシップとして食料問題の現実を目の当たりにした。帰国後、文科三類から農学部に進むことを決意する。
その後、出雲たちは、動物と植物の両方の性質を持つ藻類「ミドリムシ」の大量培養の技術を確立、05年に起業し今や時の人に。しかし心の中には、ずっと原点であるバングラデシュのことを気にかけていた。12年末に上場し、出雲は「一区切りついたのでそろそろ再訪してもいいだろう」と昨年、15年ぶりに現地に出向いた。
期待していたのは、あの時と同じ街中に響く人力車の「チリンチリン」の音色。ところがダッカの空港を降りると、日本の中古車が行き交い、ほとんどの人が携帯電話を持っていた。もっと驚いたのは食生活。みんなが食べているものは昔のままのカレーで、栄養失調の人が依然あふれている。
ユーグレナの使命はミドリムシで世界中から栄養失調をなくすこと。そして国産のバイオ燃料を作ること。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催の年に、バイオ燃料で民間旅客機が飛ぶのは話題性十分。しかし出雲は「21年からが大事なんだ」という。
おそらく日本は“祭りの後”に、それまで目をつむってきたさまざまな問題が露呈するだろうが、ミドリムシは世界の人たちを驚かすことができる夢の続きの一つ。
国連などによると、2050年に世界人口は92億人(現在は約70億人)。今、栄養失調人口は10億人だが何も手を打たなければ35億人まで増える。
栄養失調人口が減っていることが社会に希望を与える
「栄養失調人口を5億人にしたい。ミドリムシ以外でもいろいろな研究が進んでいる。栄養失調人口が減っていることが社会に希望を与える」―。出雲が描く2050年の夢は明快だ。
上場したことで株主も多様化したが、大半が出雲の夢を応援する人ばかり。ただし、バングラデシュでミドリムシ入りクッキーを配給するプロジェクトも、決してボランティアでやっているわけではない。
ムスリム(イスラム教徒)人口は2030年には世界の25%超になると予想され、購買力の向上も期待できる。国別人口で第4位を占めるバングラデシュで成功すれば、イスラム圏での商売がしやすい。すでに中東でミドリムシ食品の販売を検討中だ。
「バングラデシュは日本より遠隔医療が進んでいる。僕にとって過去ではなくあそこには未来がある」と出雲。何を成したいのかを明確にして、繰り返し伝え続けること。何でもできるからすごいのではない、ということを彼は教えてくれている。
(敬称略)
※肩書き、内容は当時のもの
日刊工業新聞2016年9月2日