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ニッポンの最新火力技術を海外へ。エネ庁が助成事業

二国間クレジット制度が機能するようになれば、日本の削減量設定にプラス
ニッポンの最新火力技術を海外へ。エネ庁が助成事業

大崎クールジェンの酸素吹きIGCC実証プラント

 経済産業省・資源エネルギー庁は、石炭ガス化複合発電(IGCC)や最新鋭ガス火力発電など二酸化炭素(CO2)の排出が少ない先進的な火力発電技術を海外で普及させるための助成事業に乗り出す。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通して調査や実証、技術者育成などを委託する。IGCCなど確立した新技術の価格競争力を高めるには、早期の海外展開が重要。受注を通して地球規模の環境負荷低減に貢献する。

 経産省は、2017年度予算の概算要求に「先進的な火力発電技術等の海外展開推進事業」として32億円を盛り込む。従来、高効率石炭火力発電(クリーンコール技術)の海外普及に同様の支援を実施してきたが、実証済みの最新鋭ガス火力やIGCCの需要拡大を見据え、加えることにした。

 相手国と連携した事業可能性調査(FS)やモデル実証の成果を入札条件や制度構築に反映。日本の電気事業者や商社、発電機器メーカーの受注を後押しする。また、国際セミナーの開催や技術者交流、専門家派遣などを通して先進火力発電の技術移転も進める。

 IGCCは、石炭をガス化し、ガスタービンや蒸気タービンを組み合わせて発電する。国内では、東京電力の広野火力発電所(福島県広野町)と常磐共同火力の勿来発電所(同いわき市)に建設することが決まっている。石炭火力の需要が拡大するアジアで、こうしたIGCCなどの導入が進めば、世界のCO2削減に与える影響が大きい。

Jパワーと中国電力の「IGCC」試運転始まる


 Jパワーと中国電力が低炭素型の次世代石炭火力発電技術として共同で進めている酸素吹き式の石炭ガス化複合発電(IGCC)の実証事業で、広島県大崎上島町にある実証プラント全体の試運転が始まった。個々の設備・装置をつないで一体的に運用し、中国電管内の顧客へ実際に送電する。結果を踏まえて2017年3月から低品位炭への適応力や耐久性、経済性を調べる実証試験を行う。

 事業主体となる両社の共同出資会社、大崎クールジェン(広島県大崎上島町)が、本格的な試運転を開始した。空気から酸素を取り出す空気分離設備や、取り出した酸素を使って石炭を可燃ガスに変えるガス化炉、蒸気タービン、ガスタービンなどの設備を統合的に運用して運転状況を検証。17年度から2年間かけ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成で酸素吹きIGCCの実証事業を行う。

 IGCCは石炭から生成したガスでガスタービンを、さらにガスタービンの排熱などを使ってつくった蒸気で蒸気タービンを動かす複合発電技術。石炭のガス化に酸素を使う酸素吹きIGCCは空気吹き式に比べ、二酸化炭素(CO2)の分離・回収に適している。

 18年度まで実証を行った後、CO2分離・回収設備を装着した酸素吹きIGCCや、電源として燃料電池を併用する石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証事業への展開を目指す。

日刊工業新聞2016年8月25日/29日
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
8月25日付日刊工業新聞によると、Jパワーと中国電力が低炭素型の次世代石炭火力発電技術として共同で進めている酸素吹き式の石炭ガス化複合発電(IGCC)の実証事業で、広島県大崎上島町にある実証プラント全体の本格的な試運転が始まった。国内での温室効果ガスの更なる削減に多大なコストがかかる日本にとって、“実証済み”のCO2排出削減に寄与する日本の優れた環境・エネルギー技術を世界に広めることは、地球全体でのCO2排出削減に貢献するのみならず、日本政府が推進する二国間クレジット制度(JCM)が機能するようになれば貢献量に応じて日本の削減量に設定できるようになる。今回、資源エネルギー庁が石炭ガス化複合発電(IGCC)や最新鋭ガス火力発電などCO2排出が少ない先進的な火力発電技術を海外で普及させるための助成事業を推進することは、環境のみならず、外貨獲得にも貢献し、国益に合致するので是非加速してほしい。

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