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“相乗りルネサス”、大型買収で降り口は見つかるか

昨年の唐突なCEO辞任が映し出す「経営なき経営」
“相乗りルネサス”、大型買収で降り口は見つかるか

呉CEO(左)と昨年辞任にした遠藤元CEO

 ルネサスエレクトロニクスの経営再建が最終ステージに入る。大規模なリストラを経て収益力を高め、今回、米インターシルの買収を決めた。総仕上げは、大株主である政府系ファンド・産業革新機構がどう投資を回収するかの「出口戦略」に左右される。ただ経営トップの人事が迷走するなど革新機構のガバナンスは心もとない。ルネサス主導で〝出口〟を見いだしていく姿勢が必要だ。
  
 昨年12月25日、ルネサスは遠藤隆雄会長兼最高経営責任者(CEO)の退任を突然発表した。6月の就任から半年足らず。しかも数日前、複数メディアのインタビューに応じており、「まさに寝耳に水だった」(ルネサス関係者)。インタビューで遠藤氏は「M&A(合併・買収)をテコにした自力成長」を強調し、メディアのインタビュー記事もそこの焦点を当てた。

 ルネサスがニュースリリースで示した退任理由は「一身上の都合」だったが、業界では遠藤氏の描く成長戦略と、革新機構の出口戦略との食い違いが辞任の原因との見方が広がった。
 

否定されたトップダウン型


 しかし業界関係者は「路線の違いが原因ではない。問題視されたのは遠藤氏の経営手法だった」と明かす。遠藤氏自身が「せっかち」と評する経営スタイルは端的に言えば、スピード重視のトップダウン型。ルネサスにおいても「社内外で一切根回しなかった」(業界関係者)。その結果、経営に混乱が生じたという。

 遠藤氏は日本IBM常務執行役員や日本オラクル社長など外資系企業幹部を歴任し、実績を残した優秀な経営者に違いない。だがルネサスにはフィットしなかった。なぜか。

 最大の理由はルネサスのステークホルダー(利害関係者)の多さだ。株主構成だけみても日立製作所三菱電機NECの母体3社に加え、経営再建のために出資し株式の69%超を握る革新機構のほかトヨタ自動車日産自動車キヤノンパナソニックといった影響力の大きい有力企業が顔をそろえる。

革新機構内でも綱引き!?


 また革新機構内の出口戦略が固まっていない点も見逃せない。遠藤氏は一時、独インフィニオン・テクノロジーとの提携を模索した。これは「ある機構幹部が熱心に進めてきた案件に遠藤氏が乗った」(同)形だったが、実は同時期に別の機構幹部は保有株式の市場での売却や、トヨタやパナソニックなど既存株主に追加取得してもらう案を検討しており、機構内で綱引きが起きていた。

 そして今年6月末に遠藤氏の後任として呉文精氏がCEO兼社長に就いた。同氏の社長就任は、遠藤氏の退任後、救急避難的にCEOを務めた鶴丸哲哉現会長が強く希望したとされる。

 鶴丸会長は地味で目立たない存在ながら、汚れ役をいとわず、工場閉鎖といったリストラの先頭に立ちプロパー社員の信頼が厚い。また歴代の革新機構幹部とのパイプも太い。呉社長には鶴丸会長のサポートを受けながら、根回し力を発揮できるかがまず問われる。

ぎりぎりのところでバスに飛び乗る


 「アナログ半導体メーカーを狙え」-。大規模な構造改革を実施して経営危機から脱し、2016年3月期連結決算で2期連続の当期黒字を実現したルネサス。次の成長戦略を描くには、他社との提携やM&Aが欠かせない。

 買収するインターシルの売上高は約550億円。電力を制御する電源ICや各種センサーなどのアナログ半導体に強みを持つ。

 ルネサスは車載向けや産業機器向けマイコンでは世界トップ水準のシェアを有するが、アナログ半導体は手薄だった。

 今後、自動車分野では次世代運転支援システム(ADAS)の普及拡大や自動運転の実現に向け電装化が進む見通し。また産業機器にも、IoT(モノがインターネット)の波は押し寄せている。半導体を組み込む製品の開発が複雑化している一方、半導体ユーザーの裾野は〝電機の素人〟まで広がっている。

 こうした中、半導体メーカーには顧客の困りごとに丸ごと対応するソリューション展開が求められている。マイコン単品ではなく、関連する半導体や電子部品、ソフトウエアまで含めてソリューション提案できるかが競争力を左右する時代に突入した。

 独インフィニオン・テクノロジーが米インターナショナル・レクティファイアー(IR)を買収、オランダのNXPセミコンダクターズが米フリースケール・セミコンダクタを買収-。2015年はソリューション提案力を強化しようと海をまたいだ大型再編が相次いだ。

 「(買収できる)めぼしいアナログ半導体メーカーは減ってきた」との声が挙がる中、ルネサスはぎりぎりのところでバスに飛び乗った格好。アナログ半導体の製品ラインアップを拡充し、ソリューション力を高められるかが、インターシル買収の成否を評価する最大のポイントだ。

呉VS永守の舌戦


 また革新機構の方針が定まらない中、ルネサス側から成長戦略を提示し、それに沿う形でイクジットの流れができるよう革新機構を動かしていければ理想的だ。早期にインターシル買収のシナジーを創出することが、説得力のある成長戦略を描くための絶対条件となる。

 ルネサス買収には日本電産が興味を示している。呉社長は「特定会社の傘下に入り、取引を制約されるのは望ましくない」とけん制したが、永守重信日本電産社長は「まな板の鯉の発言にすぎない」と切り返した。

 確かに69%超を出資する革新機構のルネサスへの影響力は大きい。しかしルネサスの成長に向け、〝まな板の鯉〟が背負う役割は決して軽くない。
(文=後藤信之)
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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
最初の産業革新機構を中核にした自動車メーカーなどがからむ奉加帳による救済スキームは出口戦略が難しくなると分かっていたこと。革新機構はジャパンディスプレイという厄介な案件も抱えているので、そろそろルネサスの出口戦略も動き出すだろう。

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