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「第4の視力矯正」は普及するか。睡眠時にレンズ装着で視力回復

オルソケラトロジーとレーシック、根本的な思想の違い
 就寝時に装着することで日中の裸眼視力を矯正する「オルソケラトロジー」(オルソ)レンズへの注目度が高まっている。6月にはメニコンがオルソレンズを手がけるアルファコーポレーション(名古屋市東区)を買収。海外では近視矯正だけでなく近視の進行を抑える目的でも需要が拡大している。レンズ業界は眼鏡、コンタクトレンズ、レーシック手術に続く「第4の視力矯正」として期待する。

古い細胞だけを変形


 オルソは、特殊な形状をしたハードコンタクトレンズにより、目の角膜を平らな形状にし、近視を矯正するレンズだ。レーシック手術では角膜をレーザーで削り取るのに対し、オルソレンズは「上皮細胞」という古い細胞だけを変形させるので、手術の必要がない。

 日本では2009年にアルファコーポレーションが初めてオルソレンズの販売認可を厚生労働省から取得。今春までに計5社がオルソレンズの認可を取得したという。アルファの伊藤孝雄執行役員は「1年間の装着で80%以上の人が視力1・0以上に回復した」と効用をアピールする。同社によると就寝時に毎日着用すれば約2週間後には視力回復の効果が出始めるという。

 6月、そのアルファを、コンタクトレンズ国内最大手のメニコンが買収。同社は連続装着できるハードレンズを中心に使い捨てタイプまで幅広く手がけ、オルソレンズの将来性に期待する。ただ、買収の一番の狙いとして挙げたのは、日本ではなく中国市場の開拓だ。

中国では近視進行を抑える目的で普及


 背景には、オルソレンズが持つ「近視の進行抑制」というもう一つの効果がある。近視は、角膜から網膜までの長さ(眼軸長)が伸びることなどによって進行するとされるが、最近の論文ではオルソレンズが眼軸長の伸びも抑制するという報告が増えてきた。

 ここでいち早く市場が立ち上がったのが中国。子どもの近視進行を抑える手段として子育て世代の親に注目され、「中国での処方はほとんど子ども向け」(伊藤アルファ執行役員)。メニコンによればオルソレンズの中国における市場規模は約80万人。20年までに約3倍の240万人に増える見込みで、同社グループで2、3割のシェア獲得を目指す。

 アルファの推計ではオルソレンズの日本市場は医師の個人輸入も含め4万レンズ(約2万人分)程度。コンタクト全体では、1800万人ある中、オルソの比率はわずか0・1%に過ぎない。それでも学会レベルでは、ここに来て注目が一気に高まっている。

学会は注目


 7月に都内で開かれた日本コンタクトレンズ学会の年次総会では、一番の話題がオルソだった。オルソに関する海外招待講演や複数のシンポジウムのほか、眼科医向けに処方や診療ガイドラインなどを教える講習会も催された。伊藤アルファ執行役員は「眼科専門医の理解も進みつつある」と話し、今後の需要拡大を期待している。
(文=名古屋・杉本要)
日刊工業新聞2016年8月25日ヘルスケア面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
この手の新技術には常に安全性への懸念がつきまとうものです。取材を通じて個人的に感じたのは、角膜を削るレーシックと、上皮細胞の形だけを変えるオルソとの根本的な思想の違いです。これから日本でも普及が進むのでしょうか。

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