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政府の協力要請もなかった「節電なき夏」 電力安定供給のゴールではない

原発再稼働や火力設備更新の前にやるべきこと
 「節電なき夏」が、無事に終わろうとしている。国民にとっても、また産業界としても有り難い話だ。しかし日本の電力事情は、まだ多くの不安を抱えている。原子力発電所の再稼働など、電力安定供給の施策の手を抜いてはならない。

 政府は5月、今夏の電力需給の見通しとともに、2015年冬季まで実施してきた「節電協力要請」の見送りを決めた。東日本大震災直後のような「電力使用制限令」に基づく節電の数値目標はすでに実施していないが、協力要請そのものを取りやめたのは初めてだ。

 発電所の大規模事故などによる「需給ひっ迫への備え」は今後も必要としている。ただ7月から8月24日までの実績をみると、例えば東京電力管内で最大需要が供給能力の90%を超えたのは2日間にとどまった。

 安定供給に最低限必要とされる予備率は3%、すなわち需要が供給の97%未満に収まることであり、この面では十分に余力があったわけだ。電子メールを使った「電力需給ひっ迫警報」サービスも今春、終了した。

 需給の緩和要因はいくつかある。省エネルギー意識の定着や、消費電力の少ない機器の普及などもそのひとつだ。最も大きいのは電力自由化によって既存電力会社以外の新たな電源が生まれ、供給力が増したことだろう。太陽光発電などの再生可能エネの増加も、わずかだが貢献したと考えられる。

 他方で九州電力川内原発1、2号機が厳しい新基準に合格して再稼働し、供給力を下支えしたことを忘れてはならない。四国電力伊方原発3号機も近く通常運転に入る。こうした既存原発が、安全を確認しつつ“戦列復帰”することが電力の安定供給に欠かせない。

 現在の日本の電源構成は、依然としてベースロード電源が不足し、老朽火力などを酷使して補ういびつなものだ。出力の不安定な再生エネを増やすためには、天然ガス発電所を予備力に回すなどの対策を進める必要がある。「節電なき夏」の実現は決して安定供給のゴールではないことを忘れてはならない。
日刊工業新聞2016年8月25日
原直史
原直史 Hara Naofumi
今年は節電の声がほとんど聞かれなかった。繁華街を歩いても、節電している気配はない。建物のライトアップも以前のように復活しているようだ。安定供給というとすぐに供給側、すなわち原発再稼働や火力設備更新の話になるが、使う側のコントロールを継続する必要はないのであろうか。せっかく、国民の間で節電に対する理解と実行へのコンセンサスが定着してきたのに、それを緩めてしまうことは、どうも理解できない。節電による電力消費レベルの適切な引き下げは、電力安定供給のハードルを下げることにもつながると思うからだ。

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