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病院食は「まずい」の誤解。認知症患者の食事を一口大の小分けにしたら完食した

<追記あり>素晴らしい病院食とは何かは永遠の課題
 「病院食はまずい」という患者さんの声をよく聞きます。病院食は診療報酬上、1食640円、その内自己負担は100―360円で供されます。家庭では全額自分で出すので、健康保険から費用が出る以上、病院には療養に必要で良質な食事提供が求められます。

 特別食は加算76円で16種類(例えば肝臓病食・腎臓病食・糖尿病食など。なお、減塩食は加算なし)の治療食が提供されます。食形態では常食、6種類程度の粥食、食物繊維を抑えた低残渣(ざんさ)食、ソフト食、きざみ食、とろみ食など、更に薬剤による制限食、年齢や希望による食事量の調整、入退院や手術・検査など、毎回変わる指示に随時、漏れや間違いのないよう対応し、365日、1日3食を決まった時間に提供しなければなりません。

 また、厨房から病棟まで味を落とさない安全な配食、衛生的な食器洗浄、マンパワーとして調理師だけではなく管理栄養士の配置も必要。これらを含めた料金ですが、皆さんはどう感じられますか。

 また、病院食は味がない、薄いとのご指摘も受けます。ご高齢の患者さんは伝統的な日本食を、若い人はコンビニ・ファミレス食のような味のはっきりした塩分や脂肪の多い食事を好む傾向にあります。日本人の1日の塩分摂取量は減少傾向にはありますが、最近の調査でも男性平均10・9グラム、女性9・2グラムであり、目標の男性8グラム、女性7グラム未満を上回っています。因ちなみに、世界保健機関(WHO)の推奨は更に少なく、5グラム未満としています。

 日本の病院食も、高血圧・心臓病などの塩分制限は5―6グラム未満に調理され、普段の食事より相当、味が薄いと感じられるのはやむを得ません。その他にも治療食はさまざまな制限が加わり、更に味気なく感じられるかもしれませんが、予算や手間や労力、健康のことを考えた場合、病院食は、実はおいしいのではないでしょうか。

 ただ、考えさせられる事例もあります。入院中に食事が進まず栄養が低下した患者に、制限のない普通食を出していたら元気になった。逆に、病気の進行で食事ができないと判断され点滴や胃に入った管(胃瘻(いそう))で強制的な栄養補給が始まると、益々食事できなくなることも起こり得ます。

 ある認知症施設で食事を全く食べなかった方が、食事を一口大の小分けにしたら手づかみで完食できました。それは箸やスプーンの使い方を忘れたためでした。素晴らしい病院食とは何か、永遠の課題と言えます。
(文=伊藤雅史 社会医療法人 社団慈生会等潤病院理事長) 
日刊工業新聞2016年8月26日
土田智憲
土田智憲 Tsuchida Tomonori かねひろ
島根県の雲南市の病院で、地元でよく食べられている焼鯖寿しを、それぞれの患者さんが食べられる状態にアレンジして病院食として出したところ、「私が普段食べていたものが、まだ食べられるんだ」と自信を取り戻すきっかけになったというお話を聞いた。また、僕が関わっているaeruでも、食べ物を掬いやすい工夫をした、山中漆器漆器のこぼしにくい器を使ってくださったお客様から、「私もこういう器で、自分の力でご飯を食べられると思うと、元気が出た」というメッセージをいただいた。食事は自尊心を保つことができる、自分の中から活力が湧く大きな機会だということに、あらためて気がつく。

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