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尿からiPS細胞。リプロセルが事業化

採取が容易で場所や時間の制限を受けず。研究機関や製薬企業に提案
 リプロセルは尿の細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作る技術による「iPS細胞作製受託サービス」を始める。子会社の米ステムジェントが開発した「次世代RNAリプログラミング技術」を使い、従来技術よりiPS細胞の樹立効率を改善し、安全性も高める。

 尿からiPS細胞を作製する技術の事業化は世界初という。iPS細胞を扱う内外の研究機関や製薬企業に提案する。一般にiPS細胞はヒトの皮膚や血液から作製するが、医療機関でしか採取できず痛みも伴う課題があった。一方、尿は採取が極めて容易で場所や時間の制限を受けず、従来の負担を軽減できる。

横山社長インタビュー。最終目標は「iPS製品」


日刊工業新聞2015年12月29日



  iPS細胞(人工多能性幹細胞)関連事業を手がけるリプロセルが、新たな局面に入る。ヒト組織や臓器による実験を請け負う英バイオプタを14日に買収。同社を含め、ここ1年半程度で英米4社を買収するスピード。さらに2016年度には、自社での再生医療製品開発に踏み込む。バイオプタ買収の意義と今後の戦略について横山周史(ちかふみ)社長に聞いた。

 ―立て続けに英米企業を買収しています。バイオプタの買収はどんな意義がありますか。
「バイオプタは、提携している英国の14の医療施設からヒトの組織や臓器を手に入れ、製薬企業から預かった化合物を投与して評価するCRO(医薬品開発受託機関)。14年に買収した英リイナベート、米バイオサーブ、米ステムジェントのうち、製薬企業向けはヒト生体試料をバンキングし、提供するバイオサーブのみで、あとは研究向け。製薬企業はモノもサービスも欲しい。バイオサーブとバイオプタにより、その両方に応じられる」

 ―買収企業は事業領域が重複せず、事業ポートフォリオが着実に組み上がってきました。研究用試薬と創薬支援という二大事業での重点項目は。
 「研究試薬で相当競争力のある製品を15年に投入してきた。その一つ、試薬製品の『mRNAリプログラミング・キット』は、遺伝子を傷つけず、安全にiPS細胞を従来法の100―1000倍の効率で作製できる。将来はこの方式に全て置き換わるのではないか。研究用だが、臨床応用したらもっと力を発揮する。また、動物由来成分とDMSO(ジメチルスルホキシド)を含まない凍結保存液も発売した。安全性に優れたこれ以上の保存液は出ないだろう」

 ―これらの製品や技術、事業ポートフォリオをもって、満を持して参入するのが再生医療ということですか。
 「そうだ。まず培地や試薬製品を臨床応用していく。我々はもともと培地屋だから、これはそれほど難しくない。その上で、英米で臨床(研究や試験)に入っている製品を日本に持ち込む。体性幹細胞による再生医療製品にするが、将来はiPS細胞によるものが最終目標。iPS細胞活用製品の開発につながるものを選ぶ。当社と新生銀行グループによるファンドが、再生医療の有力な海外ベンチャーに投資し、その投資先と技術提携して展開する形がある」

【記者の目・最先端技術で独自の存在感】
 医療製品の開発では一流研究者とのパイプや協力関係を築き、維持することが最大の資産となる。リプロセルは設立の大元となった京都大学東京大学以外にも、米ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など日米英最先端の研究成果を取り入れられる状態にある。iPS細胞・ES細胞関連企業は買収や提携、共同開発が今後も続く。その中で独自のプレゼンス(存在感)を発揮できるのは間違いない。
(聞き手=米今真一郎)
日刊工業新聞2016年8月23日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
京都大学の山中伸弥教授らがマウス由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製を論文発表し10年が経過した。他人由来のiPS細胞から作った組織の細胞を患者に移植する「他家移植」など、臨床応用に向けた研究は新たな一歩を踏み出している。国内外の大学や企業では臨床応用を支える技術として、安全で高品質なiPS細胞を高効率に作製する手法の研究が進む。新興企業の代表格の一つ、リプロセルにはさまざまなパイプ役として期待したい。

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