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「破たん」劇的ビフォーアフター!JALは変わったか(28・最終回)アフターの先に

特殊な再生事例にならないために~全社員の不断の努力は続く
「破たん」劇的ビフォーアフター!JALは変わったか(28・最終回)アフターの先に

JALの責任は重く再生に終わりはない

 「会社はつぶしちゃいけない」。日本航空(JAL)社長の植木義晴は、再生を果たした今でも後悔する。JALは経営破たん後の上場廃止から2年7カ月後の2012年9月に史上最短で再上場を果たし、3500億円を出資した企業再生支援機構を通じて国庫に3000億円以上のキャピタルゲインをもたらした。「鮮やかすぎる」とやゆされるほど劇的な再生を遂げたが、公的支援を受けたため事業拡大や投資に制限もある。

 JALの再生がスムーズに進んだ理由の一つに、破たん前からフィロソフィや部門別採算制に近いアイデアがあったことがある。破たん前は複雑な社内政治の中で実現できなかったが、破たんを一つのチャンスと捉えた社員が行動を起こし、以前から温めていた企画やアイデアを次々と実行に移したことが、再生を早める推進力となった。

 会長の大西賢は「JALの経営陣が盛和塾に行っていれば、経営破たんはなかったかもしれない」と話す。盛和塾は名誉会長の稲盛和夫が設立した若手起業家のための私塾。破たん前にJALの役員が足を向けることはまずなかっただろう。しかし航空最大手だったJALを救ったのは、ベンチャー企業家の先駆けである稲盛が、長年の経験から編み出した経営手法。企業経営の根幹に、規模の大小は関係ないことの証左と言える。

 短期間で業績を回復したJALは公的支援が万能薬であるかのような強烈な印象を残した。しかし、フィロソフィや部門別採算があっても、役員を含め全社員が真摯(しんし)に経営と向き合い、不断の努力を続けなければ元の木阿弥。再び経営危機に逆戻りする。更生管財人だった弁護士の瀬戸英雄は「みんなが真剣にやった結果であり、公的支援のあるべき姿」と話す。

 JALに意識改革の担当として入り、JALフィロソフィの策定を支援した京セラ取締役の大田嘉仁は「JALの再生は特殊な事例ではない。同じ手法で生まれ変われる企業はたくさんあり、誰もができなければ価値がない」と言い切る。JALが公的支援で再生した特殊事例にならないためにも、大田は「JALの責任は重く、再生に終わりはない」とエールを送る。(敬称略)
(この連載は高屋優理が担当しました)
日刊工業新聞2015年04月23日 建設・エネルギー・生活面
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
企業再生は難しく、終わりがない-。取材を通じて最も感じたことです。倒産という苦い経験から猛省し、「世界一選ばれ、愛される航空会社」になるために、JALの挑戦は続きます。

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