「ポケモンGO」熱狂に落ち着き。VR・ARで冷静に儲ける
疑似体験をいかに現実のビジネスに落とし込むか
2016年は「VR(仮想現実感)元年」と言われる。韓国サムスン電子や米オキュラスなどがVR専用端末を相次いで投入しているためだ。これに合わせてVRで新たな価値を見いだそうと、情報サービス各社が企業や一般消費者向けにVRを活用したシステムの提供を開始している。だが、まだ一般的な認知度が進んでおらず、どう普及させるかが課題となっている。
今夏、全米を熱狂させ、日本など各国の話題を一気にさらったゲームがある。スマートフォン向けゲームアプリケーション(応用ソフト)「ポケモンGO」だ。
VR技術の一つとされるAR(拡張現実)を活用しており、この登場によりVR・ARが一気に身近なものになった。訴求しやすい環境が整いつつあり、各社もビジネスチャンスの広がりを期待している。
(NTTデータの保守支援業務サービスの利用例)
一方、企業向けで活況をみせるのが、ARと眼鏡型ウエアラブル端末を組み合わせた各種保守業務の支援システムだ。従来、同様のシステムはタブレット端末を活用したものが多かった。
端末だとマニュアルなど作業に必要な大量の情報を手軽に持ち運べる。さらにネットワークとつなぎ、本社など遠隔地にいる管理者や指導者がリアルタイムに指示できる利点もある。
だが端末を持ちながらの作業は煩雑になりがちだった。眼鏡型は両手が空くため、端末画面に表示された内容を確認しながら作業を進められ、より業務効率が高まる。NTTデータや富士通、新日鉄住金ソリューションズなどがサービス化し提供している。
NECソリューションイノベータ(東京都江東区)は、違ったアプローチでVRを活用している。同社が試作したのは、VR上で生産現場を再現できる作業検証・訓練システム。ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)を装着すれば目の前に生産ラインが現れ、VR内で部品をつかんだり、部品を移動させて放したりできる。
試作機によるデモでは作業訓練機能をアピールする。業務用ゲーム機「太鼓の達人」の要領で作業できるのが特徴で「熟練者による作業のリズムを疑似体験できる機能を実現した」(NECソリューションイノベータ)と説明する。
具体的には、HMDを通して見える映像の下方に、作業動作のタイミングを示す記号が右から左に流れるように帯状に出てくる。太鼓の達人のように記号に合わせて決められた動作を繰り返すことで、熟練者の作業のリズムを体感できる。
「生産ラインを作る準備段階から作業を訓練したり、初心者が学習したりするのに有効」(同)と効果を強調する。実用化の時期は未定としている。
ゲームやドラマ、報道番組などコンテンツ制作の強みを生かして、VRコンテンツ制作の受託サービスを開始したのが、フジテレビジョンとグリーだ。両社は5月にVRコンテンツのサービスや事業開発に関し提携。共同プロジェクト「F×G VR WORKS」を立ち上げた。
制作に関わる企画・キャスティングや撮影・編集、アプリ開発、イベント運営などを一元的に提供する。まずは企業向けに展開していく。「観光や医療など幅広い業種への活用が考えられる。問い合わせも増えている」(山口真フジテレビコンテンツ事業局長)とし、16年度内の黒字化を見込んでいる。
またコンテンツ制作の受託サービスにとどまらず「ドラマや報道、スポーツなどVRのコンテンツファクトリーを目指す」(大多亮フジテレビ常務)としている。
VRとの親和性が高いと言われるエンターテインメント分野では、没入感や非現実的な体験で新たな価値を提供しようとしている。特にゲーム業界ではソニーの家庭用ゲーム機向けVR端末「プレイステーションVR」の10月発売を控えて、各社は専用タイトルを発表した。
また、もうひとつの動きとして注目なのが、アミューズメント施設など業務用端末。HMDとの組み合わせにより、疑似体験をよりリアルに進化させている。ゲームとは違う新たな体験を提案し、コアなゲームファン以外の新規顧客の獲得を期待する。
(東京ジョイポリスの「ゾンビサバイバル」では没入感を味わえる)
セガグループでは、運営する「東京ジョイポリス」内にVRアトラクション「ZERO LATENCY VR」を設置した。豪州のゼロ・レイテンシーが開発したアトラクションで、プレーヤーがHMDやヘッドホンなどを装着することで全身を使ってゲームを体験できる。
第1弾として「ゾンビサバイバル」を投入した。ゾンビの大群に襲われた街を舞台に救出チームの一員として、ゾンビを撃退し、街を救出するという内容だ。HMDとマシンガン型の端末で疑似体験の精度を高めている。
今後、ポケモンGOの人気がどこまで続くのかは不透明だが、VR・ARを活用したビジネスへの可能性を確実に証明した。一般消費者向け、企業向けともに一過性にしないためにも各社の取り組みの本気度が問われる。まずは端末の普及と良質なVR体験の場をいかに増やしていけるかが、カギとなる。
(文=松沢紗枝、斉藤実)
今夏、全米を熱狂させ、日本など各国の話題を一気にさらったゲームがある。スマートフォン向けゲームアプリケーション(応用ソフト)「ポケモンGO」だ。
VR技術の一つとされるAR(拡張現実)を活用しており、この登場によりVR・ARが一気に身近なものになった。訴求しやすい環境が整いつつあり、各社もビジネスチャンスの広がりを期待している。
(NTTデータの保守支援業務サービスの利用例)
眼鏡型ウエアラブルと組み合わせ保守支援
一方、企業向けで活況をみせるのが、ARと眼鏡型ウエアラブル端末を組み合わせた各種保守業務の支援システムだ。従来、同様のシステムはタブレット端末を活用したものが多かった。
端末だとマニュアルなど作業に必要な大量の情報を手軽に持ち運べる。さらにネットワークとつなぎ、本社など遠隔地にいる管理者や指導者がリアルタイムに指示できる利点もある。
だが端末を持ちながらの作業は煩雑になりがちだった。眼鏡型は両手が空くため、端末画面に表示された内容を確認しながら作業を進められ、より業務効率が高まる。NTTデータや富士通、新日鉄住金ソリューションズなどがサービス化し提供している。
NECソリューションイノベータ(東京都江東区)は、違ったアプローチでVRを活用している。同社が試作したのは、VR上で生産現場を再現できる作業検証・訓練システム。ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)を装着すれば目の前に生産ラインが現れ、VR内で部品をつかんだり、部品を移動させて放したりできる。
試作機によるデモでは作業訓練機能をアピールする。業務用ゲーム機「太鼓の達人」の要領で作業できるのが特徴で「熟練者による作業のリズムを疑似体験できる機能を実現した」(NECソリューションイノベータ)と説明する。
具体的には、HMDを通して見える映像の下方に、作業動作のタイミングを示す記号が右から左に流れるように帯状に出てくる。太鼓の達人のように記号に合わせて決められた動作を繰り返すことで、熟練者の作業のリズムを体感できる。
「生産ラインを作る準備段階から作業を訓練したり、初心者が学習したりするのに有効」(同)と効果を強調する。実用化の時期は未定としている。
フジテレビ、「コンテンツファクトリーを目指す」
ゲームやドラマ、報道番組などコンテンツ制作の強みを生かして、VRコンテンツ制作の受託サービスを開始したのが、フジテレビジョンとグリーだ。両社は5月にVRコンテンツのサービスや事業開発に関し提携。共同プロジェクト「F×G VR WORKS」を立ち上げた。
制作に関わる企画・キャスティングや撮影・編集、アプリ開発、イベント運営などを一元的に提供する。まずは企業向けに展開していく。「観光や医療など幅広い業種への活用が考えられる。問い合わせも増えている」(山口真フジテレビコンテンツ事業局長)とし、16年度内の黒字化を見込んでいる。
またコンテンツ制作の受託サービスにとどまらず「ドラマや報道、スポーツなどVRのコンテンツファクトリーを目指す」(大多亮フジテレビ常務)としている。
VRとの親和性が高いと言われるエンターテインメント分野では、没入感や非現実的な体験で新たな価値を提供しようとしている。特にゲーム業界ではソニーの家庭用ゲーム機向けVR端末「プレイステーションVR」の10月発売を控えて、各社は専用タイトルを発表した。
また、もうひとつの動きとして注目なのが、アミューズメント施設など業務用端末。HMDとの組み合わせにより、疑似体験をよりリアルに進化させている。ゲームとは違う新たな体験を提案し、コアなゲームファン以外の新規顧客の獲得を期待する。
(東京ジョイポリスの「ゾンビサバイバル」では没入感を味わえる)
セガグループでは、運営する「東京ジョイポリス」内にVRアトラクション「ZERO LATENCY VR」を設置した。豪州のゼロ・レイテンシーが開発したアトラクションで、プレーヤーがHMDやヘッドホンなどを装着することで全身を使ってゲームを体験できる。
第1弾として「ゾンビサバイバル」を投入した。ゾンビの大群に襲われた街を舞台に救出チームの一員として、ゾンビを撃退し、街を救出するという内容だ。HMDとマシンガン型の端末で疑似体験の精度を高めている。
今後、ポケモンGOの人気がどこまで続くのかは不透明だが、VR・ARを活用したビジネスへの可能性を確実に証明した。一般消費者向け、企業向けともに一過性にしないためにも各社の取り組みの本気度が問われる。まずは端末の普及と良質なVR体験の場をいかに増やしていけるかが、カギとなる。
(文=松沢紗枝、斉藤実)
日刊工業新聞2016年8月15日