「リニア・インパクト」を最大に。名古屋と大阪、それぞれの皮算用

悲願の三大都市圏一体化へ

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 2027年に予定されるリニア中央新幹線の東京(品川)―名古屋間の開業まであと11年。愛知県では開業を見据えた街づくりの議論が佳境を迎えている。高層ビルの建設ラッシュから名古屋駅の再開発、周辺地域へのアクセス性向上などリニア・インパクトを最大限に生かそうと、国や自治体、経済界など関係者が連携し「オール・ナゴヤ」で知恵を絞る。さらに大阪延伸の前倒しによって関西産業界も早期に効果を引き込みたい考えだ。

 「この同盟会が設立されて約40年。ようやく目に見える形で実現が近づいてきた」。大村秀章愛知県知事は7月下旬、自身が会長を務めるリニア中央新幹線建設促進愛知県期成同盟会の総会の席でこう述べた。

 中央新幹線の基本計画が1973年に決定されて以来40年以上。建設主体のJR東海は14年10月、国土交通省から工事実施計画の認可を受け、品川駅や全長25キロメートルにわたる南アルプストンネルなどで工事を進める。

再開発ラッシュに沸く


 名古屋駅周辺は戦後最大規模の再開発ラッシュに沸く。既に15年から16年にかけ、三菱地所の「大名古屋ビルヂング」、日本郵便の「JPタワー名古屋」、東和不動産の「シンフォニー豊田ビル」の三つの高層ビルが完成。さらに豊田通商などの「グローバルゲート」は17年3月の完成、JR東海の「JRゲートタワー」は17年4月の開業を目指す。

 名古屋鉄道も自社エリアの再開発に乗り出す。近畿日本鉄道、三井不動産と組み、名古屋駅ビルや周辺のオフィスビルを建て替える。三つの大型複合ビルを建設し、駅やバスセンターに加えオフィスや高級ホテル、商業施設、賃貸マンションを誘致。

 再開発区域は計2万8000平方メートルと中部地域最大級になる。20年度着工、27年度完成を目指しており、安藤隆司社長は「利用者にとって使いやすい駅にする」と意気込む。

「迷駅」もう卒業


 現在は複雑で入り組んだ構造から「名駅」ならぬ「迷駅」とやゆされる名古屋駅。リニアを機に各交通機関を乗り換えやすくする計画も進む。名古屋市主導で進むのが「ターミナルスクエア」と呼ばれる乗り換え空間の整備だ。

 名古屋駅にはリニアを含め計10路線が乗り入れることになる。そこで乗り換え先が一目で見渡せ、案内機能も備える空間を駅東西に5カ所設ける方針だ。名古屋市の新庄徹リニア関連・名駅周辺まちづくり推進室長は「交通機関を相互に直線で結び、高い視認性を確保する」と話し、16年度末までの整備計画取りまとめを目指す。

 近隣の駐車場から名古屋駅にタクシーを送り込むことで混雑を解消するシステムや、駅西側でのバス専用の乗降施設の建設も検討する。

「40分交通圏」豊田市などに拡大


 リニアの開業で品川―名古屋間は片道40分で結ばれ、ビジネスや観光面でのインパクトは大きい。これらを念頭に愛知県が取り組むのは、名古屋駅から県内各地の「40分交通圏」の拡大だ。リニア開業による時間短縮の効果を広く波及させるため、東京に行くのと同じ時間で名古屋と県内各地を結ぶ。

 特に県中央部、豊田市へのアクセス性の向上を重視する。同市はトヨタ自動車の本社や関連企業が集まり、県内の製造品出荷額の約3割を占める。現在、名古屋駅から名古屋鉄道の豊田市駅までは乗り換えを含め50―60分かかるが、県は名鉄三河線の複線化などで40分で移動できるよう、名鉄などと検討を進める。

 中部経済連合会は4月、中部圏の交通インフラのあり方を提言する「中部交通ネットワークビジョン」を策定。リニア効果を広域に波及させるため、名古屋駅の駅東、駅西と名古屋高速道路とのアクセス道路の整備などを求めた。

 6月に中経連会長に就任した豊田鉄郎豊田自動織機会長は「地域の特色を出し、海外の人々が住んでみたいと思うようなまちづくりに励む」と力を込める。

早期延伸求め関西一丸「遅れれば年1500億円の損失」


 関西産業界によるリニア中央新幹線への取り組みは、関西経済連合会が2011年3月に構成メンバー18社と設置した「リニア中央新幹線研究会」に始まる。14年7月には官民5団体が「リニア中央新幹線全線同時開業推進協議会」を結成、同時開業を訴えてきた。

 同協議会の共同代表に松井一郎大阪府知事と森詳介関経連会長、副代表には吉村洋文大阪市長、尾崎裕大阪商工会議所会頭、蔭山秀一関西経済同友会代表幹事が名を連ね、まさに官民一体で国への要望・機運醸成活動などに取り組んでいる。

 14年8月の国への要望に始まり、15年2月にはリニア建設費に対する税支援措置や金融支援策などを提案。同3月には、関西圏と首都圏の在住者を対象としたアンケートの結果から、全線開業時のリニア利用率は約9割となり、東京―名古屋開業時の約1割を大きく上回ると主張した。

 大阪への早期延伸が現実味を帯びてきたのは15年8月の新たな国土形成計画(全国計画)から。「リニアの開業で三大都市圏が一体化し、世界を先導するスーパー・メガリージョンが形成されることへの期待」や「リニアの早期整備・活用」が明記された。

「最大8年」開業前倒しをさらに早められか


 これを受け関経連では早期延伸のPRを積極化。16年4月にはスーパー・メガリージョンがもたらす効果を発表。三大都市圏が約1時間で結ばれれば、人やモノの交流が活発化、働き方も変わり、技術革新の促進、新産業の創出などにつながるなどとアピールする。開業が遅れると、単年度約1489億円、関西企業全体の営業利益の2・1%が失われるとの試算を示した。

 これらの活動が功を奏し、6月に閣議決定された「骨太の方針」ではリニアの整備促進や財政投融資活用などの検討が明記された。森関経連会長は「大きな前進。政府・JR東海と課題を共有し、官民一体でさらなる前倒しを」とコメント。蔭山関西同友会代表幹事も「大変な進歩。個人的には、環境影響評価に早期に着手し、開業をさらに早く」と期待を高めている。

 8月2日に閣議決定された「未来への投資を実現する経済対策」でも財政投融資を積極活用したインフラ整備が明記され、尾崎大商会頭は「リニアはインフラの未来への投資の象徴。その整備に財政投融資の活用は歓迎」と喜ぶ。

 その翌日に大阪で柘植康英JR東海社長が「奈良市付近を前提で進める」と会見し、ルート問題も一歩前進した。現実的には同時開業は厳しさを増している。最大8年とされる開業前倒しをさらに早めるために、地元からどのような支援ができるかが今後の焦点となる。
(文=名古屋・杉本要、同・戸村智幸、同・一色映里奈、大阪・青木俊次)

日刊工業新聞2016年8月17日

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リニアの開業まであと11年しかない、とも言えます。すでに名古屋ではまちづくりの議論が大詰め。大阪延伸の前倒しによって、今後は大阪でも再開発が本格化しそうです。

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