VRやARよりもすごい!プロジェクターが演出する“半仮想空間”

夏イベント目白押し。「草花」「音楽」「香り」が融合するデジタルアート

  • 0
  • 7
女性の頭上のハスにはプロジェクターで形に合わせた映像を投映。茎に触れると波紋が広がる
 映像がディスプレーの枠を飛び出し、エンターテインメントの世界を広げている。ゴーグルを通して360度の映像を体感する仮想現実感(VR)システムや、スマートフォン用ゲーム「ポケモンGO」などで使われた拡張現実感(AR)システムは身近になった。VRやAR以上に、架空の映像を現実空間として体験できるものが、プロジェクターを使った最新の空間演出だ。今夏、各地への広がりは勢いを増している。

 デバイスを通して仮想空間を体験するVRやARに対し、プロジェクターを使った空間演出は、映像によって再構築された“半仮想空間”へ人が入っていけることが魅力だ。

(塔の中のオブジェに触れると、水の模様が弾けてひまわりが現れる)

 8月末まで東京ミッドタウン・ホール(東京都港区)で開催中の体験型庭園「フラワーズ バイ ネイキッド 魅惑の楽園」では、本物の草花や音楽、香りなどの融合が試みられている。企画・演出したネイキッド代表の村松亮太郎氏は、観客殺到のため中止となった2012年冬の東京駅プロジェクションマッピングの仕掛け人だ。

 会場で最初に出迎えるのは、夏の鮮やかな花々の甘い香り。そして、人の背丈を超える本のページがめくられる度に、南国の植物や鳥などが音楽とともに次々と現れる。


人と関わることで変化


 その先の空間は、人が関わることで変化する。壁に映し出されたクジャクのゆらめく羽に近づくと、近づく人に反応して、その人のための花が開く。

 ハスの葉の下の水中にいるような空間では、ハスの茎に触れると頭上にある葉にだけ波紋が広がる。会場の中央にある半透明の水の塔の中でひまわりのオブジェに触れると、水が弾けて、周囲がひまわりに変わる。

 壁やオブジェに隠されたセンサーから人の動きがコンピューターに送信され、会場全体の映像が制御されており、人がそれを感じることはない。生け花やオブジェ、音楽、香りに満たされて、実物とデジタルとの境目がぼかされているためだ。

 ほかにも今夏はデジタルアートを体感するイベントが目白押しだ。「お台場みんなの夢大陸2016」(東京都港区)では、巨大デジタルアート展「DMM.プラネッツ アート バイ チームラボ」が開催されている。

 暗い会場内の泉に、プロジェクターで映し出された色とりどりのコイが泳ぐ。そこへ足を踏み入れると、歩いた後ろに花が咲き、コイと花によって新しい絵が生まれる。

 アクアパーク品川(同)は、イルカの泳ぐプールの周囲を囲った水のカーテンに映像を投映し、新しいイルカショーを開く。東京タワー(同)やヴィーナスフォート(東京都江東区)では、バーチャル花火大会が開かれている。セイコーエプソンは、ドイツ芸術団体「アーバンスクリーン」と、約90年前に造られた高さ100超メートルのガスタンク内部を演出した

(約90年前に造られた高さ100超メートルのガスタンク内部を演出した)

リオ五輪の開・閉会式を演出


 デジタルアートなどへのプロジェクターメーカーの期待も大きい。会議室などで使われるビジネス向け市場の成熟に対し、プロジェクションマッピングや電子看板に使われる高輝度タイプは20年までに現状比約25%伸びるとの予想もある。

 パナソニックは、輝度2万ルーメン以上の製品を投入し、この波にいち早く乗った。英調査会社のパシフィックメディアアソシエイツによると、輝度5000ルーメン以上のプロジェクターで、同社の金額ベースのシェアは31%で1位。

 ブラジルで開催中のリオデジャネイロ五輪では、開閉会式の公式パートナーとして、輝度2万ルーメンのプロジェクター100台以上を提供するとともに、演出のオペレーションを請け負う。

 「高輝度と高精細映像の両立に加え、軽量・コンパクトで設置しやすいことから選ばれている」(パナソニック広報)。また最新技術としては、人間などの動く物体を追随して映像を投写する「高速プロジェクションマッピング」にも取り組んでいる。

高輝度市場は成長領域



 プロジェクター販売で世界1位のセイコーエプソンも、高輝度製品市場に力を入れる。「当社は会議室などで使われるビジネス用のシェアは非常に高いが、高光束領域では2番手群。

 成長領域のため、商品群を強化している」(セイコーエプソン広報)という。レーザー光源を使った輝度6000ルーメン以上の機種を6月から順次発売し、12月には輝度2万5000ルーメンの機種を市場投入する予定だ。

 キヤノンは、同社として初めてレーザー光源を採用した最高輝度8000ルーメンをラインアップに追加した。同社はカメラで培ったレンズ技術を生かして開発し、画質への評価が高い。またキヤノンマーケティングジャパン(MJ)が音響・映像(AV)機器のノウハウを持つ専門の販促チームを新設し、空間演出向けに拡販する。リコーも高輝度タイプなどを拡充している。
(梶原洵子)

日刊工業新聞2016年8月8日

COMMENT

明豊
デジタルメディア局
局長

個人的にはパリのポンピドゥーやニューヨークのMOMAのような現代(近代)美術館が大好きである。何時間もいれる。日本は技術があっても、これまで空間演出をする場所が少なかった。特別な場所を用意する必要はない。視点を変えれば無味乾燥な日常の空間が一気に違う世界に生まれかわる。自治体も公共施設も民間企業もデジタルアートの世界を競い合おう。

関連する記事はこちら

特集