ユーグレナの上場を支えた男「日の目を見ない技術や人材を世に出す」

スイッチを入れる人たち(第2回)~夢みた「リアルテック育成ファンド」が現実に~

 「スイッチを入れる人たち」の2回目はユーグレナ取締役の永田暁彦(32)さん。財務担当として出雲充社長を支え上場を実現させ、今度は「リアルテック」というキーワードを掲げて、新しいベンチャー投資ファンドを立ち上げた。若きキャピタリストは近未来の日本のベンチャーシーンをどのように描いているのか。

 ―まずこのベンチャーキャピタル(VC)ファンドをやろうと思ったきかけは何ですか?ベンチャー投資はこの1、2年バブっていますよね。
 「確かにITやウェブアプリはインフレだと思いますよ。でも僕たちが今回、言葉として使っている『リアルテック(オンラインで簡潔しない技術)』の領域は結構、ポートフォリオとして空いているんです。ヘルスケア、バイオ、エネルギー、ロボットとか。本来、ここは日本の強みですよね。大学の研究室を含めていい技術がいっぱい眠っていて、本当に面白い。それを引っ張り出してビジネス化したい。まさにユーグレナはそんか会社です。でも日本のVCの人は金融出身が多いでしょ。短期でリターンを求めるし、リアルテックの領域はリスクが取りにくいんです」

 「僕がいたインスパイア(テクノロジーファンド)ではユーグレナにも投資していた。ミドリムシを食品として売ったり、燃料に使ったりとか、一般の人はもちろん、投資家の人でも理解できない人が多い。でも資金が集まって上場もできた。これはある意味、事件ですよ。僕が2012年にユーグレナに完全に移ってきて、会社を成長させたら、こんな例を何度も起こせる仕組みを作りたいと当時から同僚とかに話していたんです。本当にやろうと思った瞬間は、三井不動産の『コイル(柏の葉のベンチャー支援施設)』を見に行った時。2013年の12月だったかな。日本でもファシリティー面がいよいよ充実してきたな、と実感したからです」

 ―次にとった行動は?
 「僕らにはベンチャーをやってきた経験がある。でもファンドにおいて100%はコミットできないので、チームを作ってGP(無限責任組合)を設計するために、前から懇意にしていたリバネスさんと、SMBC日興證券には久保(哲也)社長に直接プレゼンに行きましたね」

 ―久保さんはどんな反応を?
 「久保さんへのプレゼンは一回だけで、すぐやろうと言ってくれました。やっぱりまずは的確な機関投資家が必要でしたから、それで本当に動き出せましたね」

 ―この3社は分かりますが、三井不動産をはじめロート製薬や5社の事業会社も出資者に入っています。事業会社がVCに出資する例はあまりありませんが、その意図はなんですか。
 「マーケットをしっかり見ていくためです。実際、ユーグレナの株主に日立製作所や電通さんなども入ってきて、僕も刺激を受けたし、事業会社さんとのコミュニケーションは大きな経験にもなった。もっとこうすれば投資される側も、事業会社側も喜ぶだろう、という感覚や経験値が自分の中にあるんです」

 ―ハンズオンのさじ加減は難しいですよね。
 「そう。良いハンズオンと悪いハンズオンがあって、投資先にお客を紹介することが必ずしも良いとは限らない。政治的なものが絡んでくると、事業がやりずらくなることもある。いかに投資先のベンチャーの将来戦略を示したり、技術の専門性をかみ砕いて、米国などの先行事例を説明したり、事業会社と認識を共有させることが重要だと思います。今回、例えば、製薬ベンチャーに投資しようとした時に、ロート製薬と一緒に共同研究した方がいい、という選択も出てくる。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は流行りだしていますが、自分が投資したい時にだけ投資する仕組み。このファンドは短期ではない。全員でCVCをやろうという発想で、意外と面白い横のつながりが生まれるかもしれない」

 ―出資先を募るため何社ぐらい事業会社に声をかけたんですか。反応は?
 「30社くらい。面白いと言ってくれるところが多かったです。でも今回の特徴はお金だけでなく、ちゃんと人も出して下さい、というのが基本スタンス。参加依頼書にもそう書いてあります」

 ―投資先候補は。
 「今、250社ぐらいリストがある。アーリーがほとんどで、できれば創業前の案件も手掛けたい。まずジャンルで分けて、最初の選定判断は技術的に面白いかどうか。その次はマーケットに入っていけるかどうかの判断、そして投資してやっていけるかという判断です。技術の特許情報や論文、役所の補助金などの獲得状況などはリバネスと一緒に相当しっかり見ています。今年中に50億円は用意したいと思っています。具体的な投資案件は月に数社程度ですかね」

 ―リアルテックは花開くまで時間がかかります。それでもやはりIPO(株式公開)が出口になりますか?
 「このファンドは当然、利益を追求していきます。同時になかなか資金が集まらず、日の目を見ることができない技術や人材を、世に引っ張り出すことも大事なミッションなんです。IPOは手段なんで、その会社がハッピーでなければするとは限らない。技術を花開かせた時に、成長させてくれる会社を選びたい」

 ―東大発のロボットベンチャーの「シャフト」がグーグルに買収されました。投資先の企業は日本にとどまった方が理想ですか。海外の事業会社は買収などの意思決定が日本より格段に早いです。
 「スタートアップへの注目するところからすでに早いですね。最近のスタートアップやベンチャーは、日本を否定して海外に出るというよりは、海外から『来てみれば』というのが多いんじゃないですか。彼らは自分たちの技術で地球を良くしたいと思っていたりするので、僕らも国にこだわることはありません。米国のファイブハンドレッド・スタートアップスは彼らが投資した会社にしか投資しないインベスターもいる。将来は、自分たちが投資した会社にお金が集まるような信頼が醸成されるようになれば」

 ―でもユーグレナまでになるリアルテックベンチャーはかなり希少だと思います。上場できたポイントはどこにあったんですか。
 「自分がいるので表現しずらいんですが、正直言って経営陣だと思います。素晴らしいフォーメーションが組めた。インスパイア時代に技術者のトップが“技術教”だと経営に悪影響を与える場合があることを実感しましたね。マネジメントでは多様性、ハイブリッドがとても大切です。そしてユーグレナの場合は社長の出雲自身に多様性があって、オープンマインドでいろいろな人を巻き込んでいけたのが大きい」

 ―ただし、特に研究者は自分の世界に閉じこもる人が多いですよね。
 「日本の大学では日本らいしい研究をしていますが、とにかく大学から出ない。だから民間化されない。IT系のベンチャーで成功した経営者の顔は何人も浮かぶじゃないですか。研究者出身でいますか?そこを僕らは変えていきたい。だからモデルを見せていかないと」

 ―起業家や経営者をみてタイプや向き不向きは分かりますか。
 「上場を目指す経営者や『やりきる人』じゃないとダメですね。研究だけやってても会社を維持できない。IRもあるし誹謗中傷にも耐えないといけない。多様性がある人ほどIPO型だと思います。これはアイデアですけど、技術者で強い使命感や価値観を持った人間と、ITベンチャーで一度失敗を経験した山っ気のある人間を組ませるのは意味があるのではないかと。IT業界にはビジネスモデルを描いて実行する経営者と、エンジニア、デザイナーの組み合わせはよくありますよね。そこにリアルテックを入れていくと絶対に面白いと思います」
(聞き手=明豊)

<略歴>
永田暁彦(ながた・あきひこ)慶応義塾大学商学部卒、2007年にインスパイア入社。 同社でプライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属し、数々のベン チャー投資およびコンサルティングに従事。2008年12月に投資先の一つであったユーグレナの社外取締役に就任し、2010年4月に取締役事業 戦略部長 として完全移籍した。昨年からユーグレナインベストメント社長を兼務、今年4月に「次世代日本先端技術育成ファンド」を立ちあげた。

ニュースイッチオリジナル

明 豊

明 豊
05月11日
この記事のファシリテーター

gumi問題があったとはいえ、ベンチャー投資は依然バブルである。新しい企業を育成することは産業の新陳代謝を促し悪いことではない。しかし、ウェブサービス系を中心に、一部のVCや証券会社などは上場をあおり、その調達資金の大半をテレビCMに使うという、刹那的な戦略も散見される。そんな中で、今回のベンチャー投資ファンドは日本の強みを生かす技術に焦点を当てたもので、新しい支援スキームとして期待したい。個人的に「シャフト」は、日本で資金調達なり、出口戦略が成されるべきだったと思う。

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