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旧4大証券を猛追、みずほ“ひとり勝ち”の構図

他社に先駆け事業の構造改革。リテール、リサーチで力付ける
旧4大証券を猛追、みずほ“ひとり勝ち”の構図

今年に就任した坂井辰史社長

 大手証券会社の野村ホールディングス(HD)、大和証券グループ本社、SMBC日興証券、三菱UFJ証券ホールディングスの2016年4―6月期連結決算が大幅減収減益となるなか、大手証券で唯一、みずほ証券が営業利益、経常利益とも増益となった。他の大手証券が当期減益となった16年3月期連結決算でも、同社は当期増益を確保。昨年度から“ひとり勝ち”状況が続いている。

トレーディング益、過去最高に


 16年4―6月期は、為替の円高シフトや英国の欧州連合(EU)離脱懸念があり株式市場が低迷。比較対象となる15年4―6月期が日経平均株価2万円の好況だったこともあり、証券会社の業績落ち込みはやむを得ないとも言える。中堅証券やネット証券も減収減益の企業が多い。

 だが、みずほ証券の16年4―6月期連結決算は堅調だった。純営業収益こそ微減だったが、営業利益、経常利益は微増。当期利益は大幅減だが、これは親会社であるみずほフィナンシャルグループの米国事業体制再構築に伴い、法人税等調整額が増えたためだ。その要因を除けば、当期利益は微減となる。

 好決算について、みずほ証券の小林英文常務は「海外事業がコンスタントに支えていることが大きい」と分析する。4月に野村HDが海外事業再構築を発表したが、みずほ証券は数年前に海外のリストラを終えている。

 そのため、他社より早く再浮上できた。16年4―6月期の海外事業の経常利益は74億円で、特に米州の経常利益は前年同期の2倍に拡大している。小林常務は「円高でも黒字。着実に力をつけている」と胸を張る。

 また、世界的な金利低下の状況において顧客ニーズを的確につかむことで、機関投資家向けの債券売買を拡大したことも好業績に寄与した。株式トレーディングも合わせたトレーディング益は443億円で、野村HDに次ぐ第2位。四半期としては、13年のみずほインベスターズ証券との合併後、過去最高となった。

 日本の大手証券5社は通称5大証券と呼ばれるが、かつての4大証券の流れをくむ野村HD、大和証券グループ本社、SMBC日興証券や、米国の名門モルガン・スタンレーとのジョイントベンチャーを擁する三菱UFJ証券ホールディングスの存在感は大きく、みずほ証券は長年5番手に位置づけられがちだった。ただ、その評価は、大きく変わりつつある。

「野村の一強は10年以内に崩れる」



 マイナス金利導入による低金利環境のなか、投資家の債券需要が急増している。証券会社の債券トレーディング事業は好調で各社の業績を支えているが証券大手5社のなかで成長著しいのがみずほ証券だ。同社の債券トレーディング事業はここ数年順調に拡大。2016年4―6月期の債券・為替等トレーディング損益は前年同期比2倍超の450億円と大きく伸びている。

 急成長の要因について、金融市場本部の吉澤洋共同本部長は「国内のリテール(個人投資家向け)営業力やみずほグループの総合力を背景に、海外や国内、個人や機関などさまざまな投資家にアプローチできた事が大きい」と分析する。

 今後も継続的な低金利環境が予見されるなか「日本の投資家の海外債券需要は増加し続ける。人員体制も強化し、クロスボーダー売買をさらに強化する」と戦略を練る。

 近年のホールセール(機関投資家向け)事業を引っ張るエンジンのひとつが、リサーチ部隊だ。金融専門紙のアナリストなどのランキングでは16年に株式部門で1位、債券・為替部門で2位を取得。特に株式部門は3年連続の1位となっており、業界で話題を呼んだ。

 グローバルリサーチ体制については「過度にコストをかけず」(グローバルマーケッツ部門の長手洋平副部門長)、慎重に伸ばしてきた。香港や中国などの北アジア、米国については自前で体制を拡充しているが、欧州は英国の証券会社レッドバーン・ヨーロッパと提携。その他の地域でも、外部提携を模索している。 

 また、リサーチの高評価を株や債券の売買にスムーズにつなげられているのは「みずほのフラットな企業文化も大きい」と長手副部門長は付け加える。みずほフィナンシャルグループは、銀行や証券など一部の部門が強い発言力を持たないガバナンスが特徴。各部門が並列の立場で仕事をしているので「発行体と投資家、どちらかの立場に傾くことがなく、公平な視点で仕事ができる」という。

 国内ホールセール事業は、一強である野村証券をどう超えるかが最終的な課題。みずほ証券幹部は「野村の強さはプロ集団であること」と評する。「従来は彼らに並ぶプロ集団がおらず、顧客が野村以外選べない状況だった。銀行系証券がプロ集団として顧客の新たな選択肢になれば、野村の一強は10年以内に崩れる」と予見する。

もちろん野村証券が、ライバルの成長を安穏と眺めることはないだろう。みずほ証券のさらなる成長にともない、ホールセール事業の競争はさらに激しさを増しそうだ。

上半期、IPO主幹事でトップ



(みずほ証券藤沢支店が開業=中央が坂井辰史社長)

 日本の証券会社トップ5のうち、3番手と目されるのがSMBC日興証券だ。収益や利益では5番目になることもある日興だが、3番手に位置づけられるのは国内3位の拠点網に基づく営業力と、そこから集まる顧客からの預かり資産。証券業界が、リテール(個人向け)事業を重視しているという証だ。みずほ証券は、このリテール事業でも上位を追いかけている。

 みずほ証券自前のリテール拠点は、全国104カ所。2016年に入ってからも府中支店(東京都府中市)、藤沢支店(神奈川県藤沢市)など新規出店を続けている。特に藤沢支店は、4月の開設後に、円高や英国の欧州連合(EU)離脱騒動で市場が冷え込んだにもかかわらず「好調な営業成績を収めている」(吉田格常務執行役員)という。

 自前の店舗だけでなく、みずほ銀行内に「プラネットブース」という証券窓口を設置しているのも独自の取り組みだ。自前の支店は相場好調時は収益源だが、不調時はコスト負担になってしまうのがジレンマ。プラネットブースは、コストをかけずに営業網を広げる良アイデアと言える。

 国内営業強化のトピックとして注力するのが新規株式公開(IPO)株の取り扱いだ。16年上半期では国内トップとなる9件の上場で主幹事を務めた。

 IPO株は上場後に価格が大幅上昇するケースもあり、個人投資家の人気が高い商品。吉田常務執行役員は「IPOは手間も時間もかかるが、当社だけでなく日本経済全体にもプラス。あえて主幹事数にこだわり、事業を伸ばしていきたい」と意気込む。

 リテールで躍進するみずほ証券だが、いくつかの課題も残っている。そのひとつがインターネット取引の充実だ。他社はネット専業証券をグループに取り込んだり、ネット取引手数料を大幅に下げるなどチャレンジしているが、同社のネットチャネルは改善余地を多く残している。

 最近は株式取引の大半がネットを通じて行われており、特に若い投資家はその傾向が顕著。新たな顧客獲得のためにも、手数料の引き下げや専用商品・サービスの投入など改革が必要だろう。

 みずほ証券の“ひとり勝ち”は他社に先駆け事業の構造改革を進めたことが大きい。だが足元では、野村ホールディングスが海外事業を再構築し、SMBC日興証券とSMBCフレンド証券の合併が決まるなど他社グループの改革も進展している。競争が激化するなか、みずほ証券がどう高成長を維持していくのかに注目が集まる。
(文=鳥羽田継之)
日刊工業新聞2016年8月9日/10日/11日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
みずほ証券が事業構造改革を進めて収益体質にし、更にリテール網を整備しているのは素晴らしい。ただ、国内個人ばかりでなく、グローバルな投資家に目を向けて貰えないと東京市場の発展はない。各金融機関の健闘に期待したい。

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