ユニキャリア売却の波紋!フォークリフト業界再編の深層レポート

大株主の産革機構の思惑に、メーカーのパーワーゲームが絡み合う

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 産業革新機構がユニキャリアホールディングス(HD、東京都品川区)の株式売却方針を固めたことで、フォークリフト業界の再編機運が高まっている。相次ぐM&A(合併・買収)で首位の豊田自動織機を猛追する業界2位の独キオングループ、事業統合から2年目を迎えたばかりのニチユ三菱フォークリフトが買収に名乗りを上げた。どちらに転んでも、日系企業が参画する形で世界トップ3に食い込むグローバルメーカーが誕生する。規模拡大か、ニッチ路線で生き残るか―。各社は戦略の岐路に立たされそうだ。

 「産業構造に変革を起こすのが機構の役割。再編を起こす」と産業革新機構幹部は明かした上で「日本の資本でなくとも、国内にもう1社グローバルメーカーが必要だ」と付け加えた。この発想は米マイクロン・テクノロジー傘下で息を吹き返したエルピーダメモリをはじめ、外資との連携に門戸を大きく開いた半導体産業と重なる。

 ユニキャリアHDは2013年に日立建機と日産自動車のフォークリフトの事業統合を完了、産業革新機構が約53%、日立建機と日産が残りを出資する。事業規模は約1700億円。豊田自動織機やキオンを追撃するには、オーガニックグロース(自立成長)では限界がある。

 株式公開(IPO)というシナリオもあるが「より強くなれるオプションがあるのならば、相性の良い相手と組む選択肢はある」(ユニキャリアHD関係者)。親会社の日産、日立建機はともに株式売却に賛同する立場を取っている模様で、ディールが成立すれば完全子会社化される可能性がある。

 一般論としてM&Aにより信用力の高い企業の傘下に入れば、資金調達の多様性は増す。事業領域は広がり、重複解消で開発、生産は効率化できる。半面、システムや処遇などの統合に手間がかかり、企業文化が合わなければ人材流出による内部崩壊の恐れもある。

 その点、ユニキャリアHDの志岐彰社長はダイバーシティー(多様性)を重んじる日産出身で、ゴーン流を肌感覚で知るのは、波乱の時期にうってつけのトップといえる。過去には買収した米国子会社の現地社員を鼓舞し、立て直しに尽力するなど国際感覚に優れ、従業員の挑戦心を引き出すことに重きを置く。

 現時点でユニキャリアHDの買収をめぐり、キオンが高い買収金額を提示していると見られる。今後、数カ月かけて売却先決定−条件交渉へと進む見通しだ。どこに収まろうと一長一短があるのは間違いない。それを理解した上でキオン、ニチユ三菱が買収に意欲を見せるのは「地域軸」「技術軸」いずれの面でも、豊田自動織機の動きが速いためだ。
 
 ニチユ三菱は生産、販売拠点の統廃合を進め、ようやくシナジーの成果を刈り取ろうという段階。経営の複雑性は増すが、この再編の波に乗れなければトップ集団から置いて行かれる、そんな危機感が背中を押しているのかもしれない。

【全方位戦略、規模が必要】
 2月、関西国際空港で燃料電池(FC)式フォークリフトの実証実験が始まった。車両を供給したのは豊田自動織機。約3分で燃料を充填でき、充電や電池交換なしで連続稼働する。2015年度にはトヨタ自動車の燃料電池自動車(FCV)「MIRAI」と同じ燃料電池セルを搭載したFCフォークリフトも導入される。

 トヨタグループの分厚い技術基盤を背に、次世代環境車両で先行する豊田自動織機。昨年発売したエンジン式「ジェネオ」のディーゼル車は粒子状物質除去装置(DPF)なしで最新排出ガス規制をクリアし、ライバルをあっと言わせた。

 世界のフォークリフト需要は約100万台。かつては欧州、米国、日本など先進国が6―7割を占めていたが、中国を中心とする新興国市場が急成長し、数年後には拮抗(きっこう)する見込み。現在、新興国では大半がエンジン車だが「電気車に移行する流れを抑える必要がある」(二ノ宮秀明ニチユ三菱フォークリフト社長)。環境意識の高まりは世界共通。次世代技術を持たなければ、いずれ淘汰(とうた)される。

 難しいのは「各国の住宅事情が気候や地形によってそれぞれ異なるのと同じように、倉庫(ウェアハウス)の規模や作業者の体格などに合わせた車両が求められる」(関係者)ことだ。ニチユ三菱がライバルの独ユングハインリッヒと北米市場で協業するのも「倉庫内物流機器は品ぞろえが重要。コカ・コーラのような大手は全米にたくさんの倉庫を建て、同じようなフォークリフトを使う。大手1社に食い込めばオセロゲームのようにひっくり返せる」(二ノ宮社長)からだ。競争と協調を使い分け、足りない開発リソースを補う。

 産業車両は企業の設備投資に依存し、景気に左右されやすい。地政学的リスクや昨今の資源価格変動などを鑑みれば、限られた市場に的を絞るのは危険だ。先進国で技術を磨き、新興国の成長を見据え、現地に根ざした開発・生産・販売・サービス体制を固める―。すべてのピースをそろえ、初めてシェアを広げられるが、全方位戦略には一定の規模が要求される。

 豊田自動織機は昨秋、台湾メーカーであるタイリフトのフォークリフト事業を取得することで合意。続けてトヨタの米国販売金融子会社からコマーシャルファイナンス部門の事業と資産を約2200億円で取得すると発表した。新興国、先進国を同時に攻め、他社のふるい落としにかかる。

 業界首位の動きは速く、パワーゲームの様相を呈するフォークリフト業界。独キオングループ、ニチユ三菱など、2位以下のメーカーが対抗し、世界トップを目指すのであれば大胆なM&A(合併・買収)など提携戦略が早道なのは確かだ。ユニキャリアホールディングスとの具体的なシナジーを検討している余裕は少なく、ある程度のリスクを覚悟の上で、“走りながら考える”瞬発力が問われる。

【利点と欠点、完璧はなし】
 「それぞれプラス、マイナスがある。どちらが完璧ということはない」―。ユニキャリアホールディングス(HD、東京都品川区)関係者がこう口にするように、同社の株式が独キオングループ、ニチユ三菱フォークリフトのどちらに売却されたとしても、シナジーを刈り取る難しさは残る。ユニキャリアHDの強みは統合以前から築いた北米、アジアでの販売実績にある。米国では日産フォークリフトが1988年に現地生産を開始し、日産ブランドを生かして市場を開拓した。ユニキャリアHDによると米国シェアは5位だ。

 中国では日立建機系のTCMが93年に日系他社に先駆けて工場を設立。以来、高品質ブランドとして定着する。現地の新興メーカー「安徽合叉叉車」の買収を15年2月に完了し、中国で需要の多い低価格機種を手にした。機能は劣るが、ディーゼルエンジン式では日系メーカーの半値。日本のノウハウを注入し、品質向上に努める。

 売上高の8割を欧州で占めるキオンにしてみれば、こうした機種を手に重点攻略先であるアジアで販路を広げられるメリットは大きい。キオンの主要株主である中国重機大手ウェイチャイ・パワーの販路に乗せれば、一気にシェアを広げられる可能性は高い。キオンは相次ぐM&A(合併・買収)で巨大化した混成軍。買収先ブランドをそのまま生かすなど、M&Aを成功に導くノウハウを持つ。成果が上がらなければあっさり見切るドライさも兼ね備えているが、重複整理を含めた事業統合を円滑に運べば、強者連合になろう。日本企業が得意とする“カイゼン”や環境技術などをグループに落とし込めれば、競争力は一段と高まる。

 ニチユ三菱が買収した場合、豊田自動織機、キオンの明確な対抗軸になるが話は複雑だ。ユニキャリアHDの母体は日産、日立建機、ニチユ三菱は三菱重工業、ニチユ。日本連合といえば聞こえは良いが、実質4社の事業統合という形になり、主導権争いが起きればモチベーション低下などディスシナジーを生む。製品ラインアップを集約する過程で、国内工場の整理を迫られる可能性もある。

 キオンに収まる方がユニキャリアHDの立ち位置がはっきりしそうだが、売却先について産業革新機構は「高い金額を提示した方。大きなリターンを期待するから入札金額を高くできる」とのスタンスだ。ユニキャリアHDは中堅ながら、港湾機器、エンジンなどを含めたフルラインアップを擁し、立ち位置が中途半端な印象がある。成長する新興国市場での競争や製品開発で、世界シェア1位の豊田自動織機に単独で追いつくのは難しいだろう。売却には一見、マイナスイメージが伴うが、その実、ユニキャリアHDは絶妙な立ち位置を獲得しようとしている。

日刊工業新聞2015年04月22/23/24日 機械・ロボット・航空機面

COMMENT

明豊
デジタルメディア局
局長

ユニキャリアの案件とは少し話がそれるが、一連のシャープの再建過程をみると、銀行が主導するために生じる利益相反と、成長戦略の限界を感じる。純粋エクイティではないため、銀行の債権保全が優先されるからだ。一方で、政府系のファンド、ここでいう産業革新機構は、税金を元手にしているため、目に見える投資家が不在であり投資家からのガバナンスが利きにくい。革新機構は、一義的にそれぞれのディールで個別の判断をしているだろうが、だれかの意向を忖度することもないとはいえない。ユニキャリアの決着は、今後、訪れるルネサスエレクトロニクスの出口戦略のヒントになるかもしれない。 ※今朝の一部報道がその通りなら、買収価格はかなりつり上がった感じがする。

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