カリスマのいない普通の会社になったアップルは自動運転AIで主導権を握れるか
「米国の天才たちが考えていることはわからないからな」(トヨタ技術者)
スティーブ・ジョブズが主導して最後に買収した企業は、自然言語処理システムの開発を行うシリだといわれている。ジョブズはシリを買収した2010年の時点で、人間が機械と対話する未来を想定していたとも考えられ、テクノロジーの未来を正確に予想する力には驚かざるをえない。しかし、その後アップルは他の企業と同様にAI分野の研究者を集めてはいるものの、AIの分野で目立った成果を収めていない。ジョブズが先鞭(せんべん)をつけた音声認識の分野も、グーグルやIBM、アマゾンに追い上げられている。
昨年行ったボーカル・アイキューの買収は、こうした危機感を払拭(ふっしょく)するものになるかもしれない。自然言語処理システムの開発を行うボーカル・アイキューはケンブリッジ大学の教授らによって設立された英国のベンチャーである。
かつて、シリと自社の製品を比較し、シリを「オモチャなみ」と酷評したことで話題になった。その技術の特徴はディープラーニングによる自律学習の機能を生かして進化することだとされている。実際、会話テストにおいて、シリ、グーグルナウ、マイクロソフトのコルタナといった自然言語処理をはるかに上回る正答率を残したという報道もある。今後も携帯端末を音声コマンドによって操作することが一般的になっていくとすれば、アップルは着実な手を打ったとも考えられる。
また、アップルは「タイタン」と呼ばれる、電気自動車の開発プロジェクトにも着手しており、2020年に市販車の販売を予定している。既にアップルはゼネラルモーターズなど大手自動車企業の幹部クラスを採用しており、この計画自体は着々と進行していると考えられる。
既にアップルは、「カー・プレイ」という、アイフォンにある音楽、動画・地図・メッセージを車のコントローラーや音声認識で操作できるシステムを展開している。自分のアイフォンを接続すれば、自動車に搭載されたディスプレーでカー・プレイを捜査することが可能になる。これはメルセデスなど複数の自動車メーカー他、パイオニアなどのカーナビメーカにも採用されている。
こうしたことから推測すれば、アップルが開発中の電気自動車は、iOSを自動車のオペレーティングシステムに進化させようとしているようにみえる。パソコンの会社からスマートフォンの会社になったアップルが、自動車がスマートフォンに近づくに従って、自動車の会社へと変化しても不思議ではない。そして、こうした未来を実現するツールの一つとしてAIは間違いなく存在感を増している。
(文=湯川抗・昭和女子大学グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科教授)
2019年の出荷を目指し、電気自動車を開発中と噂されるアップル。実は、自動車分野への参入は2011年10月に亡くなったスティーブ・ジョブズ氏も生前、心に思い描いていたようだ。「iPodの生みの親の一人」ともいわれ、現在はアルファベット(グーグルの持ち株会社)傘下のネスト・ラブズを率いるトニー・ファデル氏が、アップルが車を開発したらどういうものになるか、CEOだったジョブズ氏とかつて議論を交わしたことをブルームバーグTVのインタビューで明らかにした。
ファデル氏はアップルでiPod担当上級副社長を務めたあと、同僚のマット・ロジャース氏とともに家庭用サーモスタットのネスト・ラブズを2010年に設立、2012年にグーグルに買収された。現在は「グーグルグラス」後継の「グラスプロジェクト」も統括する。おもにハードウェア畑を歩んでいるが、アップルとグーグル両方の強みや戦略に通じた人物だ。
ファデル氏によれば、2008年当時、ジョブズ氏と散歩しながら、「アップルが車を開発するとしたら、どういった車を作るか、ダッシュボードやシート、燃料はどういったものにするか」といった仮定の話を2、3回したという。だが、最後には決まって「われわれはとても忙しい。やるべきことがたくさんある。やれたら素晴らしいが、できないね」というところで話が終わり、結局、自動車開発には乗り出さないという経営判断が下された。
当時は2007年にiPhoneを発表した直後。スマートフォンに会社の大半の精力をつぎ込み、ほかに複数の新規プロジェクトを検討していたことから、自動車開発に割り当てる時間も人も資金にも余裕がない状態だった。米国の自動車産業が厳しい状況に直面していることも参入をためらわせる理由となった。ただ、実際にはiPhoneを発表する2007年以前にもアップルが自動車開発を検討していたことを、マーケティング担当のフィル・シラー上級副社長が2012年の裁判で証言している。
一方、ファデル氏は想定されるアップルの自動車事業参入について楽観的に捉えているようだ。「車を思い浮かべてみてほしい。それはバッテリー、コンピューター、モーター、機械構造を持つ。iPhoneも同じだ。モーターまで内蔵している。iPhoneをスケールアップすれば、なんと、同じような部品で車ができてしまう」と説明。スマートフォンと自動車は規模も機械構造も複雑さも大きく異なり、乱暴な話に聞こえるが、「こうした事実には、多少の真実がある」という。
その上で、今後、「自動車開発で非常に難しいステップとなるのは車のコネクティビティー(接続性)や自動運転への対応といったソフトウェア、サービスの部分」と指摘。その点、ソフトウェアに大きく依存するアップルやグーグルは非常に優位な立場にあるとし、「あと7年から10年はかかると思うが、自動車業界に急激な変化が起こるだろう」とみている。
とくに、グーグルの自動運転車については「素晴らしい。(自動運転車プロジェクト開発責任者の)クリス(アームソン)やセルゲイ(ブリン)と会って話したり、自動運転車を見たりするたびに圧倒されてしまう。まるでプロのドライバーのような運転をする」と手放しで称賛。「世間には車の運転の仕方を知らない人も多い。ウーバーもほかの人間に運転を委ねるという意味でいわば自動運転だ」とも話し、自動運転車の将来に期待を示した。
〝スマートハウス〟の流行り始めに、エネルギー管理だけでなくサービス創出につながるとアンドロイドが家OSの候補になりました。ですがネットワーク家電をOSレベルではつながず、学習リモコンや電源タップのスマート化、スマホアプリでの連携が現実解になっています。
<続きはコメント欄で>
昨年行ったボーカル・アイキューの買収は、こうした危機感を払拭(ふっしょく)するものになるかもしれない。自然言語処理システムの開発を行うボーカル・アイキューはケンブリッジ大学の教授らによって設立された英国のベンチャーである。
かつて、シリと自社の製品を比較し、シリを「オモチャなみ」と酷評したことで話題になった。その技術の特徴はディープラーニングによる自律学習の機能を生かして進化することだとされている。実際、会話テストにおいて、シリ、グーグルナウ、マイクロソフトのコルタナといった自然言語処理をはるかに上回る正答率を残したという報道もある。今後も携帯端末を音声コマンドによって操作することが一般的になっていくとすれば、アップルは着実な手を打ったとも考えられる。
iOSが自動車のオペレーティングシステムに進化?
また、アップルは「タイタン」と呼ばれる、電気自動車の開発プロジェクトにも着手しており、2020年に市販車の販売を予定している。既にアップルはゼネラルモーターズなど大手自動車企業の幹部クラスを採用しており、この計画自体は着々と進行していると考えられる。
既にアップルは、「カー・プレイ」という、アイフォンにある音楽、動画・地図・メッセージを車のコントローラーや音声認識で操作できるシステムを展開している。自分のアイフォンを接続すれば、自動車に搭載されたディスプレーでカー・プレイを捜査することが可能になる。これはメルセデスなど複数の自動車メーカー他、パイオニアなどのカーナビメーカにも採用されている。
こうしたことから推測すれば、アップルが開発中の電気自動車は、iOSを自動車のオペレーティングシステムに進化させようとしているようにみえる。パソコンの会社からスマートフォンの会社になったアップルが、自動車がスマートフォンに近づくに従って、自動車の会社へと変化しても不思議ではない。そして、こうした未来を実現するツールの一つとしてAIは間違いなく存在感を増している。
(文=湯川抗・昭和女子大学グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科教授)
2008年にはジョブズも自動車開発を検討していた!
ニュースイッチ2015年11月07日
2019年の出荷を目指し、電気自動車を開発中と噂されるアップル。実は、自動車分野への参入は2011年10月に亡くなったスティーブ・ジョブズ氏も生前、心に思い描いていたようだ。「iPodの生みの親の一人」ともいわれ、現在はアルファベット(グーグルの持ち株会社)傘下のネスト・ラブズを率いるトニー・ファデル氏が、アップルが車を開発したらどういうものになるか、CEOだったジョブズ氏とかつて議論を交わしたことをブルームバーグTVのインタビューで明らかにした。
ファデル氏はアップルでiPod担当上級副社長を務めたあと、同僚のマット・ロジャース氏とともに家庭用サーモスタットのネスト・ラブズを2010年に設立、2012年にグーグルに買収された。現在は「グーグルグラス」後継の「グラスプロジェクト」も統括する。おもにハードウェア畑を歩んでいるが、アップルとグーグル両方の強みや戦略に通じた人物だ。
ファデル氏によれば、2008年当時、ジョブズ氏と散歩しながら、「アップルが車を開発するとしたら、どういった車を作るか、ダッシュボードやシート、燃料はどういったものにするか」といった仮定の話を2、3回したという。だが、最後には決まって「われわれはとても忙しい。やるべきことがたくさんある。やれたら素晴らしいが、できないね」というところで話が終わり、結局、自動車開発には乗り出さないという経営判断が下された。
当時は2007年にiPhoneを発表した直後。スマートフォンに会社の大半の精力をつぎ込み、ほかに複数の新規プロジェクトを検討していたことから、自動車開発に割り当てる時間も人も資金にも余裕がない状態だった。米国の自動車産業が厳しい状況に直面していることも参入をためらわせる理由となった。ただ、実際にはiPhoneを発表する2007年以前にもアップルが自動車開発を検討していたことを、マーケティング担当のフィル・シラー上級副社長が2012年の裁判で証言している。
一方、ファデル氏は想定されるアップルの自動車事業参入について楽観的に捉えているようだ。「車を思い浮かべてみてほしい。それはバッテリー、コンピューター、モーター、機械構造を持つ。iPhoneも同じだ。モーターまで内蔵している。iPhoneをスケールアップすれば、なんと、同じような部品で車ができてしまう」と説明。スマートフォンと自動車は規模も機械構造も複雑さも大きく異なり、乱暴な話に聞こえるが、「こうした事実には、多少の真実がある」という。
その上で、今後、「自動車開発で非常に難しいステップとなるのは車のコネクティビティー(接続性)や自動運転への対応といったソフトウェア、サービスの部分」と指摘。その点、ソフトウェアに大きく依存するアップルやグーグルは非常に優位な立場にあるとし、「あと7年から10年はかかると思うが、自動車業界に急激な変化が起こるだろう」とみている。
とくに、グーグルの自動運転車については「素晴らしい。(自動運転車プロジェクト開発責任者の)クリス(アームソン)やセルゲイ(ブリン)と会って話したり、自動運転車を見たりするたびに圧倒されてしまう。まるでプロのドライバーのような運転をする」と手放しで称賛。「世間には車の運転の仕方を知らない人も多い。ウーバーもほかの人間に運転を委ねるという意味でいわば自動運転だ」とも話し、自動運転車の将来に期待を示した。
ファシリテーターの見方
〝スマートハウス〟の流行り始めに、エネルギー管理だけでなくサービス創出につながるとアンドロイドが家OSの候補になりました。ですがネットワーク家電をOSレベルではつながず、学習リモコンや電源タップのスマート化、スマホアプリでの連携が現実解になっています。
<続きはコメント欄で>
日刊工業新聞2016年8月10日