シャープはなぜ「オンリーワン」から「ナンバーワン」への転換に失敗したのか?

14日に再建計画を発表。10年前、当時の町田社長は液晶投資を迷いに迷っていた

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虎の子の酸化物半導体「IGZO(イグゾー)」液晶
 シャープは14日に中期経営計画と今後の再建プランを発表する。資本金1218億円を1億円に99%以上減資して、累損を一損し税制上の優遇措置も受けられるようになる。多くの批判はあるだろうが、問題は液晶を中心にした成長への展望があるのかと、いう点だ。投資の多くを中小型液晶に振り向ける予定だが、過去に液晶の投資戦略で何度も失敗している。

 シャープはもともと家電の会社で、いまも社内にはそのDNAが色濃く残っている。装置産業に軸足を移して失敗した家電メーカーは、パナソニックやパイオニアなど少なくない。

 「ニュースイッチ」では、先日、『シャープの変調はすでに2004年から始まっていた!「世界の亀山」稼働の裏で』を掲載し、過去の記事を振り返りながら現在の苦境の兆しを指摘した。装置産業へと舵を切った大型投資の失敗については、堺の巨大工場(大阪・堺)に焦点を当てるケースも多いが、実は現在の主力工場である亀山第2工場(三重県・亀山)が最初のつまずきだったと言える。

 ちょうど今から10年前、当時の町田勝彦社長が投資に迷いに迷っていた。その後、シャープは「オンリーワン経営」から「ナンバーワン経営」を標榜していく。技術力を過信し、液晶テレビの大型化を先導しようと世界最大の生産ラインに投資したが、その裏でサムスンなどは一つ古い世代の設備で確実に歩留まりを上げる製造工程のイノベーションに注力していた。

 デジタル製品をみると、日本勢は世界市場が数千万台規模までは健闘するが、1億台を突破すると急に競争力を失う。シャープはそれが最も悪い形で出た。当時と今ではまったく状況は異なるが、液晶事業をこれからどのようにマネジメントしていくのかを、真摯に冷静にシリアスに考えないといけない。

 <日刊工業新聞2005年01月13日掲載>

 シャープが大型液晶パネル新工場の投資を決断した。ガラス基板サイズが世界最大の2160ミリ×2400ミリメートル級の第8世代。この半年間、町田勝彦社長は亀山第2工場の投資計画について悩みに悩んでいた。45インチの液晶テレビが予想以上に売れ、大型の生産設備が必要になってきた。しかし韓国勢との歯止めのない投資競争に追随していいものか―。「規律ある投資基準」と「第8世代」。二律背反する課題の中で、徹底的なコスト削減に着地点を見つけ出した。

 「本当に40―50インチ台の液晶テレビ需要はあるのか」―。
 「技術への過信はないか」―。
 町田社長は口が酸っぱくなるほど社内に問いかけ、その回数は決断が迫った昨年末に一段と増えていった。
 
 どうやら05年の液晶テレビ市場は前年比2倍以上の1600万―1700万台、06年には2500万台を超える見通しだ。心配された北米市場もクリスマス商戦前から本格的に立ち上がり、10月は出荷台数で初めて日本市場を抜いた模様。「米国でも45インチテレビの需要に生産が追いつかない状況」(シャープ米国法人関係者)。調査会社の試算によると、06年の液晶テレビ市場のうち約5%が40インチ以上の大画面になるという重要な指摘がある。

 韓国サムスン電子とソニーの合弁会社(05年夏稼働)、LGフィリップスLCD(06年上半期稼働)はすでに40インチ台のパネルの多面取りに有利な第7世代(7G)の投資に動き出した。シャープが今から韓国勢と同じ7Gを採用してもコスト競争力で後れをとるだけ。当然、第8世代(8G)という選択肢が浮上してくるが、問題は巨額な設備投資額。亀山第1工場の第6世代が約1500億円、サムスンなどの7Gは初期投資だけで約2500億円、8Gになると3000億円を超えても不思議ではない。
 
 シャープはこれまで「フリーキャッシュフロー(FCF)をプラスに保つ」(町田社長)など規律ある投資基準を設け、投資生産性を重視してきた。05年3月期の全社の設備投資計画は2200億円(売上高比8・7%)と高水準だが、投下資本(有利子負債+自己資本)残高は長い間、横ばいにとどまっている。

 ただ04年3月期はFCFが亀山第1工場の投資がかさみ221億円の赤字になった。07年3月期に液晶事業で生産高9500億円、営業利益率10%の目標を掲げてはいるが、同事業だけで年間2000億円を超える投資負担は財務を破たんさせかねない。
 
 8Gの投資はその逆算から弾き出された。「コスト力のある生産ラインにするため工程を徹底的に見直せ」―液晶事業本部へ町田社長の厳命が飛ぶ。固定費の製造装置はもちろんだが、基板サイズが大きくなると部材費が一気に跳ね上がる点も見逃せない。

 現在、6Gの生産ラインで32インチの液晶パネルを作った場合、総製造原価は700ドル程度とみられる。そのうち部材コストは約7割以上を占め、特にカラーフィルター(約13%)、バックライトユニット(約20%)、偏光板(約10%)の“3点セット”で原価の4割に達する。
 
 「今、シャープはパネルメーカーの中で最も部材へのコスト要求が厳しい」(某国内部材メーカー)。8G投資へゴーサインが出たのも、ここにきて3点セットでコストダウンのブレークスルーが見えてきたからだ。カラーフィルターに関しては、次世代液晶製造の産学官プロジェクト「フューチャービジョン」が研究してきたインクジェット方式が採用できそうで、工数や材料費を一気に下げられる。バックライトは開口率を上げ個数を減らし、偏光板もフィルム層を少なくするめどをつけた。

 今年夏に稼働予定のサムスン・ソニー連合はパネル事業の赤字覚悟で、40―60インチクラスの普及価格テレビを投入してくる可能性が高い。シャープは少しでも時間差を縮めようと、装置・部材メーカーに対して工場稼働の前倒し(早ければ06年夏)を働きかけているという。現在、45インチ「アクオス」の実売価格は75万―80万円。8Gで1インチ=1万円を切れば、サムスン・ソニーへの対抗だけでなく、プラズマやリアプロジェクションテレビと互角に勝負できる。

 <ちょうどその1年後。日刊工業新聞2006年01月12日掲載>

 シャープが大勝負に出る。約2000億円の投資は過去最大。一歩間違えば、屋台骨を揺るがしかねない経営判断。テレビ事業を取り巻く急速な環境変化と、自社の液晶生産技術に対する自信が背景にある。町田勝彦社長はこれまで「オンリーワン」を標榜してきた。最近「ナンバーワン」を強く意識した発言も目立つ。投資拡大に走るサムスン電子など韓国勢、プラズマ・ディスプレー・パネル(PDP)の大型工場計画をぶち上げた松下電器産業などと真っ向勝負を挑む。

 「損をしてまでシェアをとる気はない」―。従来、町田社長はこの言葉を繰り返してきた。ところが、年初の年頭訓示では「液晶世界ナンバーワン企業を目指す」と宣言したのだ。国内の液晶テレビ販売シェアは約40%を維持し盤石のようにみえるものの、市場が急成長している海外では予想以上の苦戦。米国では一時、ソニー「ブラビア」にシェアトップの座を奪われ、欧州ではサムスンやオランダ・フィリップスの後塵(こうじん)を拝している。

 06年の世界液晶テレビ需要は「かたく見ても3600万台」(町田社長)。08年には7000万台近くに急成長するという予測もある。しかし薄型テレビ事業は、年率30%前後の価格下落と、厳しい競争環境の中でトップメーカーでなければ収益が上がらない構造になりつつある。

 「シャープの投資姿勢は保守的過ぎないか」―。競合他社がディスプレーデバイスの大型投資を打ち出す中、一部のアナリストからはそんな声も上がっていた。昨年1年間の株価上昇率をみても松下の3分の1程度。世界的にも薄型テレビのニーズはどんどん大画面化へ向かい、投資家はシャープにその明確な戦略を求めていた。

 売り上げ規模に対し今回の投資規模はかなり大きいが、ここが勝負どころと踏んだ。ただやみくもに投資を決めたわけでない。10月に稼働する亀山第2工場は、ガラス基板サイズが2・16×2・40メートルと世界最大で、まったく新しいプロセスや材料を導入するため、量産立ち上げのリスクも存在する。ここにきて生産技術に一定のめどがたったことも投資を後押しした。

 第8世代の液晶パネル工場の生産では、サムスンや韓国LGフィリップスLCDを大きくリードできる。さらにシャープがもう一つ強く意識しているのがPDPで攻勢を強める松下の存在だ。「これから薄型テレビ市場は『液晶対プラズマ』という単純な方式の違いではなくブランドとコスト力の戦いになる」(国内家電メーカー幹部)。

 亀山第2工場の主力生産サイズは45インチになる模様。40インチ台以上になると液晶だけでなくPDPとも完全に競合する。両デバイスのコスト構造を分析すると、PDPがパネルと周辺回路がほぼ半分なのに対し、液晶はパネル部分が圧倒的に割高。シャープはパネルのコストを半減できれば、PDPより優位に立てるとみている。シャープは本気になった。日本のテレビ、ディスプレー産業も活気づくことは間違いない。

過去の記事を元にニュースイッチオリジナル用に再編集

COMMENT

明豊
デジタルメディア局
局長

自分も含めメディアも煽りに煽った。生産設備の大型化に焦点を当てて、当時も記事を書いているが、液晶パネルの投資の背景には、やはりテレビという最終商品へのこだわりが会社として根深くあったのだろう。日本企業はいまだに過度に製品イノベーションを追い求め過ぎている。韓国勢は半導体やテレビのシェアを大きく伸ばしたが、薄型テレビ事業はずっと赤字すれすれ。しかし、サムスンは日本メーカーがすべて薄型テレビに移行した後も、ブラウン管テレビを償却負担の終わった設備で生産し新興国などで販売。その大きな収益をスマホや半導体など成長分野に投資するビジネスモデルを実行してきた。

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