トヨタ、部品の購入価格引き下げへ。10月から下げ幅拡大
円高進行「潮目変わる」。仕入れ先と一体で原価低減加速
トヨタ自動車が仕入れ先と一体となった原価低減を加速する。2017年3月期連結業績予想(米国会計基準)は前期までの円安の追い風がなくなり、営業利益が前期比43・9%減の1兆6000億円と大幅に減る見通し。そうした中、16年度下期(10月―17年3月)は取引先部品メーカーから購入する部品価格の引き下げ幅を、同上期(4―9月)に対して拡大する意向だ。円高進行など経営環境の変化を「潮目が変わった」(豊田章男社長)とするトヨタ。競争力の源泉であるグループ一丸となった原価低減のギアを1段上げる。
「下期は上期のような水準にはならないよ」。愛知県内の、ある1次部品メーカーは最近、16年度下期の価格改定についてトヨタから、こう耳打ちされたという。下期分の価格交渉は正式には9月頃に行われるが、引き下げ幅拡大の意向は、すでに水面下で主要部品メーカーに示し始めている。
トヨタと部品各社は1年に2回、部品価格の引き下げについて交渉している。トヨタが要請する引き下げ幅は業種や業績によって異なり、前の期に比べ0・5%減や1・0%減といった水準で提示される。16年度下期については上期の水準から、さらに0・2ポイント引き下げるなど、0コンマ数ポイントの上乗せを求める方向で調整しているもようだ。
それに対し部品メーカーからは早くも悲鳴が聞こえてくる。「うちが(上乗せを)のんでも、うちの仕入れ先に(値下げを)どう言おうか…」。こう頭を抱える部品メーカーは、仕入れ先である中小企業の業績が全般的に良くないという。とはいえ値下げを求めないと、すべて自社の持ち出しになってしまう。「タフな交渉になりそうだ」と身構える。
また別の部品メーカーは「以前は為替リスクをトヨタが100%負っていたから協力もやむなしだったが、今は部品メーカーも海外展開が進み、我々も直接負っている部分がある」と指摘。そうした状況の中で「円高を理由に上乗せするのは、いかがなものかという思いはある」と吐露する。
こうした声が代表するように価格引き下げというと「トヨタが下請けから利益を吸い上げている」などと見られがち。しかし価格改定は競争力を高めるための重要な仕組みというのがトヨタの基本の考えだ。幹部は「競争力をつけて、もっといいクルマにして、より多くのお客さまに乗ってもらって、仕事量も増えて、トヨタもサプライヤーもウィン−ウィンになるという取り組みの一環」と説明する。
とかく1年に2回の値下げという事象だけが話題となってしまうが、それは無駄を見つけて改善するというトヨタ生産方式(TPS)の基本のサイクルをまわす中での一つの出口だとしている。
4日会見した大竹哲也常務役員も「サプライヤーと一緒になって設計の改善、つくり方の改善を含めて部品の原価を下げる活動」と強調した。連綿と続く、この仕入れ先と一体となった原価低減活動がトヨタを頂点とする産業ピラミッド全体の競争力を支えてきたのは事実だ。
(文=名古屋・伊藤研二)
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水面下での提示始める
「下期は上期のような水準にはならないよ」。愛知県内の、ある1次部品メーカーは最近、16年度下期の価格改定についてトヨタから、こう耳打ちされたという。下期分の価格交渉は正式には9月頃に行われるが、引き下げ幅拡大の意向は、すでに水面下で主要部品メーカーに示し始めている。
トヨタと部品各社は1年に2回、部品価格の引き下げについて交渉している。トヨタが要請する引き下げ幅は業種や業績によって異なり、前の期に比べ0・5%減や1・0%減といった水準で提示される。16年度下期については上期の水準から、さらに0・2ポイント引き下げるなど、0コンマ数ポイントの上乗せを求める方向で調整しているもようだ。
「我々も直接負担」サプライヤーは複雑な感情も
それに対し部品メーカーからは早くも悲鳴が聞こえてくる。「うちが(上乗せを)のんでも、うちの仕入れ先に(値下げを)どう言おうか…」。こう頭を抱える部品メーカーは、仕入れ先である中小企業の業績が全般的に良くないという。とはいえ値下げを求めないと、すべて自社の持ち出しになってしまう。「タフな交渉になりそうだ」と身構える。
また別の部品メーカーは「以前は為替リスクをトヨタが100%負っていたから協力もやむなしだったが、今は部品メーカーも海外展開が進み、我々も直接負っている部分がある」と指摘。そうした状況の中で「円高を理由に上乗せするのは、いかがなものかという思いはある」と吐露する。
価格改定は「ウィン−ウィン」の関係になる仕組み
こうした声が代表するように価格引き下げというと「トヨタが下請けから利益を吸い上げている」などと見られがち。しかし価格改定は競争力を高めるための重要な仕組みというのがトヨタの基本の考えだ。幹部は「競争力をつけて、もっといいクルマにして、より多くのお客さまに乗ってもらって、仕事量も増えて、トヨタもサプライヤーもウィン−ウィンになるという取り組みの一環」と説明する。
とかく1年に2回の値下げという事象だけが話題となってしまうが、それは無駄を見つけて改善するというトヨタ生産方式(TPS)の基本のサイクルをまわす中での一つの出口だとしている。
4日会見した大竹哲也常務役員も「サプライヤーと一緒になって設計の改善、つくり方の改善を含めて部品の原価を下げる活動」と強調した。連綿と続く、この仕入れ先と一体となった原価低減活動がトヨタを頂点とする産業ピラミッド全体の競争力を支えてきたのは事実だ。
(文=名古屋・伊藤研二)
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日刊工業新聞2016年8月5日「深層断面」から抜粋