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医療装置の“適正”を可視化。シーメンスのクラウドサービスとは?

患者の入れ替え時間、1時間当たりの検査数などを把握。継続的に運用改善
医療装置の“適正”を可視化。シーメンスのクラウドサービスとは?

コンピューター断層撮影装置(CT)などから得られるビッグデータを活用

 シーメンスヘルスケア(東京都品川区、森秀顕社長)は、医療施設の業務改善を支援するクラウドサービス「チームプレイ」の提案に力を注いでいる。世界中の画像診断装置から得られるビッグデータを基に、その施設の検査件数や被ばく量などが適正であるかを判断し、改善につなげる。国の医療費抑制で病院経営が厳しさを増す中、経営戦略の再構築を支援する。

 同サービスは、コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などの画像診断装置と専用レシーバーを接続。自動的に医用画像データから必要な情報だけを抜き出して、クラウドに収集する。

 シーメンス製だけでなく、他社製にも対応。各装置や検査の状況を比較したり、全体の放射線量や検査件数・時間などを可視化できる。「病院の問題点を見つけ出し、フィードバックすることで改善につなげられる」(ダイアグノスティックイメージング事業本部SYNGO事業部の狩野慎一郎事業部長)。

 例えば、検査装置、検査部位ごとに線量情報を常時確認できるほか、自施設の目標値や国・地域のガイドラインなどとの比較もできる。また、装置の平均検査時間や患者の入れ替え時間、1時間当たりの検査数などを把握し、継続的な運用見直しが可能だ。今後、画質と被ばく量のバランスから撮影条件を変更できる機能も追加する。

(クラウドサービス「チームプレイ」の画面)

欧米はすでに開始。日本は初年度300施設が目標


 欧米で2016年1月からサービスの提供を開始し、世界約100施設に導入されている。国内では4月に発売し、大病院などから引き合いがある。先行導入した岡山大学病院では、「撮影時に漠然としていたものが数値化でき、基礎データが取れる。常時状態を把握できるので素早い判断が可能」(金澤右副病院長)と評価する。

 シーメンスは世界に約10万台の画像診断装置があり、毎日約100万件の検査データが新たに生まれている。ビッグデータは日々更新され、世界レベルで情報の分析、共有が可能だ。病院を評価する“指標”として活用することもできる。

 情報を共有するため、セキュリティー対策を重視。個人を特定できるような情報を自動的に取り除き、暗号化して共有する。米国のHIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)に適合し、強固な安全対策技術を搭載した米マイクロソフトのクラウド基盤「アジュール」をベースに活用している。

 日本の医療費総額は年間40兆円を超え、拡大を続けている。医療費抑制で病院経営も厳しさを増し、近年病院数は減少傾向にある。一方、日本は患者1人当たりの画像診断装置の導入数は世界でも飛び抜けて多く、効率的運用が求められている。

 狩野事業部長は「将来的にはチームプレイを入れていることが病院の信頼につながり、その病院が選ばれるようになれればいい」と話す。初年度は300施設への導入が目標。今後は画像共有や自動判断など、多様な機能を検討していく。
(文=村上毅)
日刊工業新聞2016年8月1日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
日本はCTにしても、MRIにしても導入率で世界でも飛び抜けて多い。それが誰でも身近に高品質の医療を受けられる素地となっているのは確かだが、その装置の運用が適正であるかという発想は乏しかった気がする。医療費がかさむ中で、メーカーと医療機関の一歩踏み込んだ取り組みが求められる。

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