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三菱重工を変える男、社長・宮永俊一「リスクのないところにはチャンスもない」

成長戦略へリスクの向き合い方を語る(昨年末のインタビューより)
三菱重工を変える男、社長・宮永俊一「リスクのないところにはチャンスもない」

「走りながらでもリスクを計算する力が付いてきた」と宮永社長

 5月8日に中期経営計画を発表した三菱重工業。2017年度に連結売上高5兆円を目指す目標は変わっていなが収益拡大に向け、宮永俊一社長の挑戦する姿勢は何も変わっていない。三菱重工を変える男は「リスクのないところにはチャンスもない」と言い切る。昨年末の単独インタビューからも、世界で戦う意欲が伝わってくる。

 ―アルストムとの提携交渉では素早い経営判断を下しました。
 「競合の意思決定は速く、追随しなければ取り残される。拙速ではなく、走りながらでもリスクを計算する力が付いてきた。自分たちでコントロールできる範囲のリスクを認識し、その振れ幅の中で決断していく。ただ、得意領域では(M&Aを)急がなくても良いケースはある」

 ―日立製作所がABBと高圧直流送電事業で合弁会社を設立すると発表しました。三菱重工もアルストムとの提携を通じて送配電(T&D)事業に参画検討しました。
 「発電機との取りまとめのノウハウには興味があったが、T&Dの機器そのものを技術改良により強くするのは我々の領域からかなり外れる。アルストムとのシナジーはディールが成立してから考えようと。発電事業として、T&Dを一緒に持つ意味はそれほどない」

 ―シーメンスはアルストムとの提携交渉で鉄道事業を手放す事業交換を提案しました。
 「欧米の会社にとっては当然だ。我々にはまだその素地がない。橋梁や印刷機事業のように専業メーカーとの合弁形態とするのが日本的事業交換で、カーブアウトするにも最後まで面倒を見る。運転席にどちらが座るかということだ」

 ―工作機械や冷熱、農業機械事業は専業メーカーに比べて競争力が劣っているのでは。
 「工作機械は世界で事業展開しており、伸ばす余地はある。空調などの冷熱はスマートコミュニティーの中で提案できる。農機は確かに苦労しているがなんとか黒字化した。良いパートナーができるまで力を付ける。真摯に事業ライフサイクルを考え、ケアして次の時代に移ることが経営として最も大事なことだ」

 ―1月にシーメンスとの製鉄機械事業の合弁会社が始動します。この事業以外での協業深化は。
 「製鉄機械は非常に順調に話し合いを進めており予定通りだろう。市場・技術のシナジーを期待できる。シーメンスとはまず製鉄事業で組み、可能性があれば(協業拡大を検討する)。そう簡単にベストフィットする事業があるわけではない」

 ―シーメンスが米ドレッサーランドを買収し、競合するコンプレッサー事業でGEと並ぶトップ級に浮上しました。
 「当面の商談に影響はない。三菱重工はエチレンやアンモニアプラント向けで圧倒的に強く、グローバルニッチとして生きていける。下位メーカー同士で組むことはないだろう。シーメンスは計装、制御装置を持っており、ドレッサーのコンプレッサーステーションに納入できる効果を期待しているのではないか」

 【記者の目/ガバナンスの強化など課題】
 重電再編の大型ディールは「やりつくしたのでは」とみる宮永社長。2017年度の売上高5兆円(14年度実績は前年度比19%増の3兆9921億円)に向け、M&Aの成果の刈り取りや市場別提携戦略に注目が集まる。火力発電の三菱日立パワーシステムズは技術交流が進み、前倒しで成果を上げているという。急激なグローバル化に対応するガバナンスの一段の強化などが課題だ。
 (編集委員・鈴木真央)
日刊工業新聞2014年12月18日 機械・ロボット・航空機面の記事を一部加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日立製作所を担当していた身として宮永さんは常に気になる存在。インタビューに立ち会ったこともあるが、とにかく数字に強く、頭が切れるという印象。社長就任から丸2年。三菱重工の社長任期は4年が慣例。15年3月期は豪華客船事業で特別損失が膨らんだが、残り2年でどこまでリスクチャレンジできるか。

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