企業版ふるさと納税は地方創生かCSRか
内閣府がまず102事業を認定。農業6次産業化やコンパクトシティー
内閣府は2日、地方創生に取り組む自治体に寄付した企業が法人住民税などの控除を受けられる地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の第1弾として102事業を認定したと発表した。6県と81市町村の事業が認定を受けた。
分野別では仕事創生が最多の74件で、地方への人の流れが12件、働き方改革が6件、まちづくりが10件。今後は第2回として9月に申請を受け付け、11月中の認定を予定する。
例えば、北海道夕張市は清水沢地区に児童館や図書館などの複合型拠点施設を整備してまちのコンパクト化を目指すほか、天然ガスを活用するための調査をする。ニトリホールディングスから4年間で総額5億円の寄付を受ける。また鳥取県江府町は、サントリープロダクツから町の玄そばの6次産業化推進事業に寄付を受ける。
6月中旬、都内で開かれたシンポジウムで情報開示と企業価値の評価について話し合われた。100人近くが聴講した議論の中心となったのが「ESG投資」だ。
ESGは「環境・社会・統治」の英語の頭文字をとった言葉。気候変動や資源枯渇など環境問題への取り組み、社会的責任、企業統治に関わる情報がESGだ。ESG情報を企業の成長性を見極める材料とする投資家が増えている。
国際組織の「グローバル環境投資協会」によると、2014年の世界のESG投資の総額は21兆ドル(約2100兆円)となり、12年比61%も拡大した。欧州が6割、米国が3割を占め、日本を含むアジアは1%にも満たない水準だった。
ESGが重視されるようになったきっかけの一つが、08年秋のリーマン・ショックだ。短期利益を追求した企業の破綻が相次ぎ、投資家も損失を抱えた。現在でも好業績の企業が不正を犯したり、法令違反に至らない不祥事でも株価が急落したりする企業が少なくない。
決算などの財務情報だけでは、適切な投資判断ができなくなった。三井住友信託銀行経営企画部の金井司理事・CSR担当部長は「財務情報を確かめるために、ESGが重要になった」と指摘する。
ただ、企業が開示するESG情報をどのように評価するのか、投資家もまだ手探りのようだ。ニッセイアセットマネジメントの井口譲二チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサーはまとめた資料で、Eの例として「環境技術、ビジネスチャンス、環境制約」を示した。
例えば二酸化炭素(CO2)の排出規制が世界中で強まると、省エネルギー技術や再生可能エネルギー技術を持つ企業には成長の可能性が生まれるからだ。
Sは人材の多様性、人材育成方針、従業員の人権への配慮など。Gは役員、社外取締役、株の持ち合いなどの情報だ。いずれも「風通しの良さ」などを知り、不正を犯さない企業かどうかを判断する材料となる。
企業は中期経営計画で投資家に3年や5年先の業績目標を示してきた。ESGは定量的な目標を出せなくても、将来の事業リスクを認識し、長期的な成長に向けて布石を打っていることを伝えられる。
日本でもESG投資拡大の兆しが出ている。15年秋、世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名し、ESGを重視すると表明した。
長期の安定配当を求める株主が増えた方が、企業も短期の業績に振り回されずに済む。将来を見据えた技術開発にも打ち込みやすい。井口氏は「ESGをどう開示するか、取締役会での議論が重要になるだろう」と話す。
株主総会を終えた企業が次々に「統合報告書」を発行している。2016年の発行は200社を超えそうだ。決算や経営計画などの財務報告書、環境報告書、企業の社会的責任(CSR)リポートなど各報告書をまとめた冊子が統合報告書だ。
ただし、単純な合本ではない。環境問題の解決に貢献することがどのように事業成長に結び付くのか、新興国での貧困者支援がどう経営に役立つのかなど、環境・CSRと経営が一体化した姿を描く。そして、価値を提供しながら成長する戦略を社会に伝える。企業にとっては財務情報だけでは伝えきれない、将来に向けた取り組みを伝えるツールだ。投資家も投資判断の材料として統合報告書を活用している。
アサヒグループホールディングスは15年、アニュアルリポートとCSRリポートを融合した「統合報告書2014」を初めて発行した。従来の2冊だと「ビールから飲料へ、さらに海外へと事業が広がり、企業価値を伝えきれなくなった」(松香容子CSR部門マネジャー)という。
編集はCSRとIR部門が担当した。「コーポレートガバナンスコードの導入もあり、投資家との対話を充実させたいIR側の課題とも一致した」(同)と振り返る。
参考にしたのが国際統合報告評議会(IIRC)のフレームワークだ。特に財務、製造、知的、人的など「六つ資本」に企業価値を当てはめることに苦心したが、「アサヒらしさが出せなかった」(同)と反省する。伝えたかったのは「アサヒの強みは何か。なぜ、それが強みなのか。そして強みは何を生み出しているのか」という価値創造のストーリーだった。
2年目の「統合報告書2015」は「強みが生み出した結果を数値で表すことにこだわった」(同)。売上高や利益といった財務情報以外に、社会貢献支出額、グリーン電力の活用、栄養相談活動の参加数、サプライヤーアンケートの回数など社会への価値も数値化した。
各事業の紹介も一貫して「強み」を軸に展開し、機会とリスクも示した。事業成長を阻害するリスクにも言及した理由を「投資家にリスクを認識して事業に取り組んでいることを伝えるため」と明かす。人材育成のページにもこだわり、育成方針が分かるロジックツリーを作成した。将来の経営を担う人材育成に取り組んでいると理解できれば、投資家も安心して株式を保有できる。
苦労のかいがあり、海外の投資家から「まとまっている」と評価を得ているという。
分野別では仕事創生が最多の74件で、地方への人の流れが12件、働き方改革が6件、まちづくりが10件。今後は第2回として9月に申請を受け付け、11月中の認定を予定する。
例えば、北海道夕張市は清水沢地区に児童館や図書館などの複合型拠点施設を整備してまちのコンパクト化を目指すほか、天然ガスを活用するための調査をする。ニトリホールディングスから4年間で総額5億円の寄付を受ける。また鳥取県江府町は、サントリープロダクツから町の玄そばの6次産業化推進事業に寄付を受ける。
企業に対する新たな「投資指標」広がる
日刊工業新聞2016年6月28日の記事に加筆
6月中旬、都内で開かれたシンポジウムで情報開示と企業価値の評価について話し合われた。100人近くが聴講した議論の中心となったのが「ESG投資」だ。
ESGは「環境・社会・統治」の英語の頭文字をとった言葉。気候変動や資源枯渇など環境問題への取り組み、社会的責任、企業統治に関わる情報がESGだ。ESG情報を企業の成長性を見極める材料とする投資家が増えている。
国際組織の「グローバル環境投資協会」によると、2014年の世界のESG投資の総額は21兆ドル(約2100兆円)となり、12年比61%も拡大した。欧州が6割、米国が3割を占め、日本を含むアジアは1%にも満たない水準だった。
ESGが重視されるようになったきっかけの一つが、08年秋のリーマン・ショックだ。短期利益を追求した企業の破綻が相次ぎ、投資家も損失を抱えた。現在でも好業績の企業が不正を犯したり、法令違反に至らない不祥事でも株価が急落したりする企業が少なくない。
決算などの財務情報だけでは、適切な投資判断ができなくなった。三井住友信託銀行経営企画部の金井司理事・CSR担当部長は「財務情報を確かめるために、ESGが重要になった」と指摘する。
投資家もまだ手探り
ただ、企業が開示するESG情報をどのように評価するのか、投資家もまだ手探りのようだ。ニッセイアセットマネジメントの井口譲二チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサーはまとめた資料で、Eの例として「環境技術、ビジネスチャンス、環境制約」を示した。
例えば二酸化炭素(CO2)の排出規制が世界中で強まると、省エネルギー技術や再生可能エネルギー技術を持つ企業には成長の可能性が生まれるからだ。
Sは人材の多様性、人材育成方針、従業員の人権への配慮など。Gは役員、社外取締役、株の持ち合いなどの情報だ。いずれも「風通しの良さ」などを知り、不正を犯さない企業かどうかを判断する材料となる。
企業は中期経営計画で投資家に3年や5年先の業績目標を示してきた。ESGは定量的な目標を出せなくても、将来の事業リスクを認識し、長期的な成長に向けて布石を打っていることを伝えられる。
日本でもESG投資拡大の兆しが出ている。15年秋、世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名し、ESGを重視すると表明した。
長期の安定配当を求める株主が増えた方が、企業も短期の業績に振り回されずに済む。将来を見据えた技術開発にも打ち込みやすい。井口氏は「ESGをどう開示するか、取締役会での議論が重要になるだろう」と話す。
ESGの発信ツール「統合報告書」
日刊工業新聞2016年7月12日
株主総会を終えた企業が次々に「統合報告書」を発行している。2016年の発行は200社を超えそうだ。決算や経営計画などの財務報告書、環境報告書、企業の社会的責任(CSR)リポートなど各報告書をまとめた冊子が統合報告書だ。
ただし、単純な合本ではない。環境問題の解決に貢献することがどのように事業成長に結び付くのか、新興国での貧困者支援がどう経営に役立つのかなど、環境・CSRと経営が一体化した姿を描く。そして、価値を提供しながら成長する戦略を社会に伝える。企業にとっては財務情報だけでは伝えきれない、将来に向けた取り組みを伝えるツールだ。投資家も投資判断の材料として統合報告書を活用している。
アサヒグループホールディングスは15年、アニュアルリポートとCSRリポートを融合した「統合報告書2014」を初めて発行した。従来の2冊だと「ビールから飲料へ、さらに海外へと事業が広がり、企業価値を伝えきれなくなった」(松香容子CSR部門マネジャー)という。
編集はCSRとIR部門が担当した。「コーポレートガバナンスコードの導入もあり、投資家との対話を充実させたいIR側の課題とも一致した」(同)と振り返る。
参考にしたのが国際統合報告評議会(IIRC)のフレームワークだ。特に財務、製造、知的、人的など「六つ資本」に企業価値を当てはめることに苦心したが、「アサヒらしさが出せなかった」(同)と反省する。伝えたかったのは「アサヒの強みは何か。なぜ、それが強みなのか。そして強みは何を生み出しているのか」という価値創造のストーリーだった。
2年目の「統合報告書2015」は「強みが生み出した結果を数値で表すことにこだわった」(同)。売上高や利益といった財務情報以外に、社会貢献支出額、グリーン電力の活用、栄養相談活動の参加数、サプライヤーアンケートの回数など社会への価値も数値化した。
各事業の紹介も一貫して「強み」を軸に展開し、機会とリスクも示した。事業成長を阻害するリスクにも言及した理由を「投資家にリスクを認識して事業に取り組んでいることを伝えるため」と明かす。人材育成のページにもこだわり、育成方針が分かるロジックツリーを作成した。将来の経営を担う人材育成に取り組んでいると理解できれば、投資家も安心して株式を保有できる。
苦労のかいがあり、海外の投資家から「まとまっている」と評価を得ているという。
日刊工業新聞2016年8月3日 総合3面