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死体ブームの火付け役が解剖した「進撃の巨人」~筋肉むき出しに魅せられた理由

「作者は筋肉を描くことで何かを伝えようとしているのではないか」(布施英利氏)
死体ブームの火付け役が解剖した「進撃の巨人」~筋肉むき出しに魅せられた理由

布施氏

 ―執筆のきっかけは。
 「作品内に登場するキャラクターが筋肉むき出しだったのが印象的だった。長年解剖学をやってきた人間からするとひき付けられずにはいられない。筋骨隆々のキャラが登場する作品はいくつもあったが、このようなものはなかったと思う」

 「だが物語や世界観ではなく、キャラの体の絵に興味があった。私の本を一通り読めば人体の骨格と筋肉の構造が分かってもらえるよう工夫した。美術、アニメ、漫画などを描こうとしている学生に読んでほしい。また『筋肉を描くことで何かを伝えようとしているのではないか』と作者の思いを予想して言語化した部分もある」

 ―漫画の中で印象に残っていることはありますか。
 「巻が進むにつれ、絵がどんどん解剖学的に正確になっているが、第1巻で出てきた巨人の頭は骨のヘルメットを覆ったように見え筋肉には見えなかった。解剖学的には違うのだが、そこが作者の独自の世界観に思え興味をひかれた」

 ―進撃の巨人の本編を独自の視点で読み解いていますね。
 「作品中には赤ん坊のようにハイハイする巨人や猿型の巨人など多くの巨人が登場する。これは私の主観だが、進化の道筋を描くことで生命の多様性について言及しているのではないかと感じる。また、本を書いている時に京都の東寺に行ったのだが、そこにある巨大な立体曼荼羅(まんだら)の仏像を見て巨人とダブって見え、ひょっとしたら世界観が同じではないかと思ってしまった。深読みし過ぎかもしれないが、そんなことを考えると楽しく想像力が豊かになる」

 ―芸術と科学という境界領域に関心を持たれていますね。
 「美術系の大学を出てから、東京大学医学部の解剖学教室で10年間ほど研究生活を送った。とにかく人体のことを知りたいと思った。芸術と科学の境界領域が私のテーマであり、執筆したこの本はその研究成果の一つと言える。例えば、世の中では理系と文系を分けているが、ゲーテやレオナルド・ダビンチなどの偉人は多くのことに興味を持ち境界領域に踏み込んでいる。こうした思考を持って多くの分野を読み解いていきたい」
(聞き手=冨井哲雄)
 
  【著者プロフィル】布施英利(ふせ・ひでと)
 1989年(平元)東京芸術大院美術研究科博士修了。東大医助手を経て、95年に批評家として独立。学術博士。群馬県出身、55歳。

 『「進撃の巨人」と解剖学』(講談社刊)
日刊工業新聞社2015年02月16日 books面
明豊
明豊 Ake Yutaka 執行役員デジタルメディア事業担当 DX統括
立体曼荼羅(まんだら)の仏像を見て巨人とダブって見えというくだりは、さすが芸術と科学の交差点に立つ批評家の面目躍如である。

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