日本の夏をエアコンなしで乗り切れる?住環境を変えるパッシブデザインという考え方

YKKが富山県黒部市で開発。環境性能と経済性のバランスを考えるヒントに

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黒部市の「パッシブタウン」第1期街区
 YKKが富山県黒部市内で、「パッシブタウン」の開発を進めている。太陽光や季節風、地下水といった黒部エリアの豊かな自然を活用し、電気やガスなどのエネルギー消費を極力抑えつつ快適な住環境の実現を目指す。2025年までに賃貸集合住宅250戸を完成させる計画。すでに第1期街区36戸の入居が始まり、初めての夏を迎えている。

 パッシブタウンは、YKKの社宅跡地3万6100平方メートルを、およそ6期に分けて開発する。自然エネルギーを活用する「パッシブデザイン」でエネルギー消費を削減することを設計の条件とするが、デザインや設備の選定などは設計者に任せる。完成後はエネルギー削減目標に対する達成率や、再生可能エネルギーの使用率などを検証する。

 現在は第3期までの開発計画が決まっている。第2期街区は、16年度中に入居が始まる見通し。第3期街区は17年度の完成予定で、既存の社宅2棟の躯体を生かした大規模改修(リノベーション)とする。街区ごとにそれぞれ著名な建築家が設計を担い、実力を競う。

 開発主体となるYKK不動産(東京都千代田区)の鈴木修一郎黒部事務所副事務所長は「アプローチは設計者に任せている。どのスタイルが本当にパッシブなのか追求する」と話す。

 中でも今春完成した第1期街区は「『これでもか』とパッシブデザインを追求したモデル」だ。躯体は高断熱工法を採用。室内にエアコンはなく、北アルプスを源流とする黒部川扇状地特有の豊富な地下水を建物内に循環させる。

 このほか、夏場の季節風「あいの風」を巧みに取り入れて、室内を快適な温度に保つ。木質バイオマス発電設備や太陽熱利用システムも備え、循環する水の温度を調整する。給湯にも使う。

 1カ月の賃料は、専有面積約85平方メートル(2−3LDK)で19万7000円とした。県内でも高額の物件となるが、鈴木副事務所長は「高いか安いかは今後の議論に任せる。環境性能と経済性のバランスを考えるヒントにしてほしい」との姿勢。

 現在、約8割が入居済み。まずは、この夏を快適に乗り切れるかどうかが注目される。

 YKKは11年の東日本大震災の発生以降、企業の社会的責任(CSR)と地域貢献の一環として、エネルギー問題への取り組みを積極化してきた。特に黒部市はYKKグループの生産拠点や事業所が集中しており、市の電力使用量のうち約半分をYKKの関連が占めているという推定もあるほどだ。

 地元の工務店やビルダーが積極的に模倣して「『ローエネ』な暮らしを広めてほしい」との思いがある。パッシブタウンは、地域活性化にもつながることが期待されている。
(文=斎藤正人)

ファシリテーターの見方


 冷たい地下水や、涼しい風による「自然の冷房」搭載のスマートハウスです。太陽光や風を電力(動力)に変換せずに、そのまま使いこなす方法が見直されても良いと思います。

 地域には地域の、地元の自然を生かしたスマートハウスです。手元にある環境テキストを久しぶりに開くと、パッシブシーラーシステムとあります。ダイレクゲイン(太陽光の熱を壁・床に蓄熱させる)、トロンブ壁(南側に作ったコンクリート壁に太陽光の熱を蓄熱)、グリーンハウス(ダイレクゲイン、トロンブ壁のハイブリッド型)があります。
(日刊工業新聞社・松木喬)

日刊工業新聞2016年7月28日

COMMENT

宮里秀司
出版局雑誌部
企画委員

パッシブは英語のpassive(受動性の、消極的な)からとったもの。パッシブデザインとは極力機械や装置を使わずに、建物の構造や材料を工夫し、空気や熱の流れを利用する設計手法の一つです。いわば家自体がパッシブということになり、機械設備が忙しく稼働して室内の快適さを保つアクティブ(active)なやり方とは対極にあります。英語を使っているので何か新しい概念のように思えますが、実は古い日本家屋は庇で夏の日差しを遮り、北側から涼しい風入れるなど工夫していました。日本の家はそもそもパッシブだったと言えます。これに、新たな技術要素を加えれば進化した省エネ住宅が登場してくるのではないでしょうか。

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