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三菱ケミカルの石油化学部門、構造改革は最終局面か

インド・中国でテレフタル酸撤退。需給がバランスするのには時間も
三菱ケミカルの石油化学部門、構造改革は最終局面か

インドの高純度テレフタル酸プラント

 三菱ケミカルホールディングス(HD)はインドと中国でポリエステル繊維などの原料である高純度テレフタル酸(PTA)事業から撤退する。2016年内に現地の製造子会社を米国投資会社などに売却する。アジアでの増産が相次いで需要を上回る設備過剰が常態化し、同社のPTA事業も15年度まで4年連続の営業赤字に苦しんだ。小林喜光会長が社長に就任した07年に着手した石油化学部門の構造改革は、ようやく最終局面を迎える。

 三菱ケミカルHD傘下の三菱化学がインドのPTA製造子会社の株式を米チャタジー・マネジメント・カンパニーへ、中国子会社の株式を中国の利万集団グループへ売却する。中国工場内の関連事業も譲渡する。売却額は合計で約130億円になる予定で、12月末までにそれぞれ手続きを完了する見通しだ。

 今回売却する事業の年間売り上げは合計で約1300億円。三菱化学のPTA事業で残る韓国とインドネシア工場は継続する。

 近年のPTA事業は営業赤字が続いていたものの、11年頃までは利益の稼ぎ頭の“花形事業”だった。採算を示すPTAのスプレッド(原料と販売価格の値差)は現在1トン当たり70ドル前後で、事業継続に必要な同100ドルを大きく下回る。ピーク時のスプレッドは同300ドル超もあり、中国勢などの大規模な設備投資により市場構造が激変してしまった。

「減収の穴埋めをどうするかが重要だ。それも早期に」


 同社幹部は事業売却にめどが付き「10年かかって構造改革がようやくここまで来た」と安堵(あんど)した。エチレンやスチレンモノマー、塩化ビニルなどで設備停止や事業撤退を断行。その一方で、高機能材料やヘルスケア、ライフサイエンス分野へ軸足を移してきた。

 差別化できない汎用的な石化製品は事業縮小が避けられない。ただ、別の幹部は「化学分野の強固な成長戦略が必要だ」と強調する。PTAを含む一連の構造改革で約4500億円の売り上げ減少となる。「事業売却が大事なのではなく、減収の穴埋めをどうするかが重要だ。それも早期に」(同社幹部)と“攻め”の意識改革が求められる。

 日本の経済成長を陰ながら支えてきた石化の気概が今こそ試されている。
(文=鈴木岳志)
日刊工業新聞2016年7月28日
米山昌宏
米山昌宏 Yoneyama Masahiro
PTAは、中国の過剰設備のため、世界的に供給過剰な状況が続いている。三菱ケミカルは、昨年の第三四半期にMCC PTA Indiaおよび寧波三菱化学の固定資産減損損失を計上した。そのため、今期への影響は軽減されている。PTAは三菱ケミカルのポートフォリオでは、事業再構築ビジネスに属している。また、三井化学はインドネシアでPT Amoco Mitsui PTA Indonesia に45%出資していたが、全株式を2014年3月にBPに売却した。PTAの需給がバランスするのには、時間がかかりそうである。

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