新型「インプレッサ」、今後5年間のSUBARUを占う〝リトマス試験紙〟
国内仕様車を公開。消費者の反応やいかに
富士重工業は26日、全面改良し、今秋発売予定の主力車「インプレッサ」の国内仕様車を初公開した。歩行者保護用エアバッグと運転支援システム「アイサイト」最新版を全車に標準搭載する。9月に先行予約を始める。発売日と価格は別途発表する。
第5世代となる新型インプレッサは新プラットフォーム(車台)採用の第1弾で剛性と衝突安全性を高めたのが特徴。スバル車では初となる歩行者保護用エアバッグを搭載し、歩行者と車が衝突した際の衝撃を低減。アイサイトは最新版の「バージョン3」を搭載する。新車台の採用と合わせて安全性能を一段と向上させた。
秋の発売に先駆け、同日から専用サイトを開設し、8月からプロトタイプを使った先行展示イベントを開く。開発責任者の阿部一博プロジェクトゼネラルマネージャーは「次世代スバル車の幕開けにふさわしい仕上がりになった。走りの“安心と愉しさ”を世界に届けたい」と意気込んだ。
(新車台を披露する吉永社長)
富士重工業は約13年ぶりとなる新しいプラットフォーム(車台)「スバルグローバルプラットフォーム(SGP)」を公開した。走り心地の良さや安全性を追求した車台で今年後半に発売する新型インプレッサへの採用を皮切りに、新モデルに順次適用する。4輪駆動による力強い走りや運転支援システム「アイサイト」に続くスバル車の売りにし、新たなユーザーの獲得につなげる。
「車づくりの合理化だけでなく、スバル車の商品性を高めてユーザーの裾野を広げることを念頭に置き、開発を進めた」。大拔(おおぬき)哲雄常務執行役員スバル技術本部副本部長は新車台投入の狙いをこう強調する。
SGPはガソリン車からハイブリッド(HV)、電気自動車(EV)まで一つの設計思想で対応できる共通車台。今年後半に発売する5世代目の新型インプレッサに初採用した後、トヨタ自動車と共同開発したスポーツ車「BRZ」を除く全車種に順次適用。2025年までの利用を想定している。
共通車台は競合他社も部品の共通化による製造コスト削減や生産効率化を目的に相次いで開発し導入している。これに対し富士重は車の特性を高めることを重視し、車台の開発に臨んだ。車の基本構造である車台を抜本的に見直せば、従来手法の延長線上では難しい大幅な機能アップを実現。車の魅力を一気に底上げできると判断したからだ。
目指したのはドライバーの意思通りに忠実に動き、安全に走行できる車台だ。実現に向けてまずフレーム、サスペンションなど各パーツの剛性を現行車比で1・7―2倍に高めた。曲げやねじりなどの力に対して車体がゆがまないため、ドライバーが急にハンドルを切った時のタイヤの反応が速く、走行中に強風などの影響を受けてもぶれずにまっすぐ走行できる。
また重心を現行車比で5ミリメートル下げるとともに、引っ張り強度に優れたホットプレス成形材などの採用を広げた。低重心化と高強度材の合わせ技で車を操縦する際の安定性が増し、車体強度も現行車比で4割向上。衝突による衝撃からドライバーや乗員を守るという従来こだわってきた安全性能が一層高まった。
SGPの開発で最も力を入れたのがコンピューター上でのシミュレーションだけでは分からない、走行中の車の変化をすべて可視化することだった。数百もの部品で構成されている車のどの部分で、力のロスが発生するかを割り出し一つひとつ解決していくことが、特に剛性を向上させるのに必要だったからだ。
このため富士重は新しい計測技術を導入。1000分の1秒単位で車両各部の動きを定量化できるセンサーを取り付け、実路でタイヤが回転している時のフロントサスペンションの動きを再現し評価する装置を独自開発し活用した。徹底的にデータを吸い上げ地道に設計に反映させていったことが、理想とする新車台の完成につながった。
「テストコースで走行体験し、乗っていてわくわくした。本当にいい車を作ってくれているなと実感している」。吉永泰之社長は3月に開催したSGPの概要発表の場で、新型インプレッサに乗った感想をこう話し、出来栄えに自信をみせた。
スバル車は車両安定性を高める水平対向エンジンと、4WDの両技術をベースとした走りの良さが特徴で、走りにこだわる多くのドライバーの心をつかんだ。これに加え最近は「アイサイト」を搭載し”スバル車はぶつからない“というイメージを確立した。
SGPはこうしたスバル車の魅力を底上げするとともに、運転のしやすさや乗り心地のよさといった点に価値を見いだす、新たなユーザーを獲得する重要な切り札となる。
SGPの開発に携わった大拔常務執行役員に開発の背景やポイントを聞いた。
―13年ぶりに車台を刷新した理由を教えて下さい。
「スバル車の商品力を高めるためだ。力強い走りを求める従来のユーザーに加え、乗り心地がよく運転が楽しいと感じてもらえるような車を投入し、ユーザー層を広げたいと考えている」
―SGPを適用することで生まれるメリットは。
「1から新モデルの開発に着手するのと比べて開発を効率化できるため、特性に優れた車を投入しやすくなる。開発ロードマップが作りやすく使用部品も想定できる。このため、投資計画を立てやすい」
―最初のSGP採用車種を16年後半に投入する新型インプレッサにした狙いは何ですか。
「スバル車の製品群の中で最も小さく、SGPの採用が難しいためだ。インプレッサで対応できれば他の車種にも展開しやすいと判断した」
―今後はSGPをどう進化させますか。
「車体の強度を高めつつ軽量化を図るため、20年以降にアルミ材や炭素繊維といった材料の採用を検討したい。特にアルミは厚みを出しても軽く形状の自由度が高いメリットがある」
(文=下氏香菜子)
(本工場の生産ライン)
富士重工業は2016年から導入する新プラットホーム(車台)で、全車を相似形の構造とすることで、共通部品の拡大や生産体制の柔軟化を加速する。開発初期から部品各社と連携し、多様なコスト削減施策を盛り込んだ。同社は14年公表の中期計画で20年に20%の原価低減を目指しており、新車台を契機に取り組む。足元の業績が堅調な状況で事業基盤の強化を急ぐ。
16年に小型車「インプレッサ」から導入する新車台「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」は、各国の安全や環境規制の全てに対応できるよう開発した。対象はインプレッサからスポーツ多目的車(SUV)「アウトバック」まで。
全車を相似形にするため、部品各社と共同で取り組む。現行車台も同様の考え方で開発したが、各国の規制に順次対応するうち、共通部分が薄れていた。新車台は将来の規制強化の動向も反映した。
具体的には、新車台は全長を長くする場合や重くする場合のそれぞれで、どの部品を変更するか細かく設定し、モデル間の共通部品を増やす。また、現行車は規制に対応するため当てパッチ(追加の部品)していたが、新車台では余計な部品がなくなる分、軽くできる。材料が減る軽量化は原価低減に直結する。
生産ラインへの投資も削減する。例えば、現行では車種によって前から溶接するか、横から溶接するかによってロボットの配置場所の違う部品もある。新車台は溶接方向を統一して同じラインで全車を生産できる設計とし、車種ごとの設備投資を減らす。よりフレキシブルな混流生産もできるという。20年には大半の車種への新車台導入が済んでいると見られ、コスト低減効果が大きくなる。
相似形の車両によるコスト削減は、国内ではマツダが先行し、大幅な収益改善を実現している。富士重もマツダと同様に、限られた生産拠点で複数の車種を効率的に生産し、輸出競争力を高めなければならない。新車台の効果が注目される。
第5世代となる新型インプレッサは新プラットフォーム(車台)採用の第1弾で剛性と衝突安全性を高めたのが特徴。スバル車では初となる歩行者保護用エアバッグを搭載し、歩行者と車が衝突した際の衝撃を低減。アイサイトは最新版の「バージョン3」を搭載する。新車台の採用と合わせて安全性能を一段と向上させた。
秋の発売に先駆け、同日から専用サイトを開設し、8月からプロトタイプを使った先行展示イベントを開く。開発責任者の阿部一博プロジェクトゼネラルマネージャーは「次世代スバル車の幕開けにふさわしい仕上がりになった。走りの“安心と愉しさ”を世界に届けたい」と意気込んだ。
新車台で“わくわくする”車づくり
日刊工業新聞2016年5月4日
(新車台を披露する吉永社長)
富士重工業は約13年ぶりとなる新しいプラットフォーム(車台)「スバルグローバルプラットフォーム(SGP)」を公開した。走り心地の良さや安全性を追求した車台で今年後半に発売する新型インプレッサへの採用を皮切りに、新モデルに順次適用する。4輪駆動による力強い走りや運転支援システム「アイサイト」に続くスバル車の売りにし、新たなユーザーの獲得につなげる。
「車づくりの合理化だけでなく、スバル車の商品性を高めてユーザーの裾野を広げることを念頭に置き、開発を進めた」。大拔(おおぬき)哲雄常務執行役員スバル技術本部副本部長は新車台投入の狙いをこう強調する。
SGPはガソリン車からハイブリッド(HV)、電気自動車(EV)まで一つの設計思想で対応できる共通車台。今年後半に発売する5世代目の新型インプレッサに初採用した後、トヨタ自動車と共同開発したスポーツ車「BRZ」を除く全車種に順次適用。2025年までの利用を想定している。
共通車台は競合他社も部品の共通化による製造コスト削減や生産効率化を目的に相次いで開発し導入している。これに対し富士重は車の特性を高めることを重視し、車台の開発に臨んだ。車の基本構造である車台を抜本的に見直せば、従来手法の延長線上では難しい大幅な機能アップを実現。車の魅力を一気に底上げできると判断したからだ。
目指したのはドライバーの意思通りに忠実に動き、安全に走行できる車台だ。実現に向けてまずフレーム、サスペンションなど各パーツの剛性を現行車比で1・7―2倍に高めた。曲げやねじりなどの力に対して車体がゆがまないため、ドライバーが急にハンドルを切った時のタイヤの反応が速く、走行中に強風などの影響を受けてもぶれずにまっすぐ走行できる。
また重心を現行車比で5ミリメートル下げるとともに、引っ張り強度に優れたホットプレス成形材などの採用を広げた。低重心化と高強度材の合わせ技で車を操縦する際の安定性が増し、車体強度も現行車比で4割向上。衝突による衝撃からドライバーや乗員を守るという従来こだわってきた安全性能が一層高まった。
走行中の車の変化をすべて可視化
SGPの開発で最も力を入れたのがコンピューター上でのシミュレーションだけでは分からない、走行中の車の変化をすべて可視化することだった。数百もの部品で構成されている車のどの部分で、力のロスが発生するかを割り出し一つひとつ解決していくことが、特に剛性を向上させるのに必要だったからだ。
このため富士重は新しい計測技術を導入。1000分の1秒単位で車両各部の動きを定量化できるセンサーを取り付け、実路でタイヤが回転している時のフロントサスペンションの動きを再現し評価する装置を独自開発し活用した。徹底的にデータを吸い上げ地道に設計に反映させていったことが、理想とする新車台の完成につながった。
「テストコースで走行体験し、乗っていてわくわくした。本当にいい車を作ってくれているなと実感している」。吉永泰之社長は3月に開催したSGPの概要発表の場で、新型インプレッサに乗った感想をこう話し、出来栄えに自信をみせた。
スバル車は車両安定性を高める水平対向エンジンと、4WDの両技術をベースとした走りの良さが特徴で、走りにこだわる多くのドライバーの心をつかんだ。これに加え最近は「アイサイト」を搭載し”スバル車はぶつからない“というイメージを確立した。
SGPはこうしたスバル車の魅力を底上げするとともに、運転のしやすさや乗り心地のよさといった点に価値を見いだす、新たなユーザーを獲得する重要な切り札となる。
大拔常務執行役員「他の車種にも展開しやすくなる」
SGPの開発に携わった大拔常務執行役員に開発の背景やポイントを聞いた。
―13年ぶりに車台を刷新した理由を教えて下さい。
「スバル車の商品力を高めるためだ。力強い走りを求める従来のユーザーに加え、乗り心地がよく運転が楽しいと感じてもらえるような車を投入し、ユーザー層を広げたいと考えている」
―SGPを適用することで生まれるメリットは。
「1から新モデルの開発に着手するのと比べて開発を効率化できるため、特性に優れた車を投入しやすくなる。開発ロードマップが作りやすく使用部品も想定できる。このため、投資計画を立てやすい」
―最初のSGP採用車種を16年後半に投入する新型インプレッサにした狙いは何ですか。
「スバル車の製品群の中で最も小さく、SGPの採用が難しいためだ。インプレッサで対応できれば他の車種にも展開しやすいと判断した」
―今後はSGPをどう進化させますか。
「車体の強度を高めつつ軽量化を図るため、20年以降にアルミ材や炭素繊維といった材料の採用を検討したい。特にアルミは厚みを出しても軽く形状の自由度が高いメリットがある」
(文=下氏香菜子)
新車台を全車相似形の構造に
日刊工業新聞2015年9月10日
(本工場の生産ライン)
富士重工業は2016年から導入する新プラットホーム(車台)で、全車を相似形の構造とすることで、共通部品の拡大や生産体制の柔軟化を加速する。開発初期から部品各社と連携し、多様なコスト削減施策を盛り込んだ。同社は14年公表の中期計画で20年に20%の原価低減を目指しており、新車台を契機に取り組む。足元の業績が堅調な状況で事業基盤の強化を急ぐ。
16年に小型車「インプレッサ」から導入する新車台「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」は、各国の安全や環境規制の全てに対応できるよう開発した。対象はインプレッサからスポーツ多目的車(SUV)「アウトバック」まで。
全車を相似形にするため、部品各社と共同で取り組む。現行車台も同様の考え方で開発したが、各国の規制に順次対応するうち、共通部分が薄れていた。新車台は将来の規制強化の動向も反映した。
具体的には、新車台は全長を長くする場合や重くする場合のそれぞれで、どの部品を変更するか細かく設定し、モデル間の共通部品を増やす。また、現行車は規制に対応するため当てパッチ(追加の部品)していたが、新車台では余計な部品がなくなる分、軽くできる。材料が減る軽量化は原価低減に直結する。
生産ラインへの投資も削減する。例えば、現行では車種によって前から溶接するか、横から溶接するかによってロボットの配置場所の違う部品もある。新車台は溶接方向を統一して同じラインで全車を生産できる設計とし、車種ごとの設備投資を減らす。よりフレキシブルな混流生産もできるという。20年には大半の車種への新車台導入が済んでいると見られ、コスト低減効果が大きくなる。
相似形の車両によるコスト削減は、国内ではマツダが先行し、大幅な収益改善を実現している。富士重もマツダと同様に、限られた生産拠点で複数の車種を効率的に生産し、輸出競争力を高めなければならない。新車台の効果が注目される。
日刊工業新聞2016年7月27日