IHI、航空エンジンの新拠点はどこ?「海外は今のところ考えていない」

識名常務執行役員航空宇宙事業本部長に聞く

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「低圧タービンモジュール」の組み立てやエンジン整 備などを手がけるIHIの瑞穂工場(東京都瑞穂町)
 IHIの屋台骨である航空機用ジェットエンジン事業が踊り場を迎えている。新機種の量産立ち上げと次世代エンジンの開発が並行する。足元3年間の利益水準は、好調だった2015年度から縮小する。ただ、年率5%の市場成長が続く同事業は、IHIの成長分野であることに変わりはない。同事業を統括する識名朝春取締役兼常務執行役員航空宇宙事業本部長に、中長期の戦略を聞いた。

 ―民間航空機用ジェットエンジンの市場環境は。
 「民間エンジンは長期的には安定成長が期待できる。当社としても伸ばさないといけない分野だ。ただ、この3年間は新エンジンへの切り替えなど端境期となる。(欧エアバスの最新旅客機A320ネオに搭載される)『PW1100G―JM』の量産も今年から本格的に立ち上がる。新エンジンの量産初期は投資負担も大きい」

 ―端境期からの脱出時期は。
 「PW1100G―JMはすごい勢いで売れている。初期投資も増えるが、その分、将来のリターンも期待できる。20年までには利益も出てくる。この時期には米ボーイングの次世代旅客機『777X』向けエンジン『GE9X』の量産も始まる。PW1100G―JMが少し落ち着いてGE9Xだけになれば、踊り場も緩やかになる」

 ―GE9Xは参画シェアを拡大できそうです。
 「当社がシェアを増やせるのは、独自技術やこれまでの実績が評価されたからだ。GEと一緒にプログラムを進める上で、先行投資を伴う技術開発の姿勢も認められた。新素材の開発や新たな空力設計の検討も継続している。参画シェアについては、想定した所まで取れるだろう」

 ―新材料開発の進捗(しんちょく)は。
 「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やセラミック基複合(CMC)材料、新たな鍛造材料などを進めている。GE9Xの初号機には、新材料を用いた部品は入らない。GEは新技術の導入に関してはかなり慎重。新素材の提案は進めており、GEの要求を満たすための開発を続ける。20年の777Xの初運航の後、エンジンの改良設計も行われる。20年半ばには新材料を入れたい」

 ―エンジン事業では新拠点の整備を計画しています。
 「低圧圧縮機部モジュールの組み立てやエンジンのメンテナンスを担う瑞穂工場(東京都瑞穂町)などは、現場の工夫で生産性を上げているがこれも限界。新たな場所を探しているのは事実だ。土地価格や人材確保、サプライチェーンに関わる物流の問題もある。これらを総合的に勘案し、新拠点を選定する。海外拠点は今のところ考えていない」

【記者の目・確実な量産立ち上げ 成功左右】
 エンジン事業を傘下に置く航空・宇宙・防衛事業の営業利益は、15年度の584億円に対し、16年度360億円、18年度440億円を計画。成長軌道を再び描くには、新エンジンの確実な量産立ち上げとコストダウン、次期エンジン開発の計画的な推進がカギを握る。併せて、ロケット推進系事業や宇宙利用事業の拡大にも期待したい。
(聞き手=長塚崇寛)

日刊工業新聞2016年7月11日

COMMENT

長塚崇寛
名古屋支社編集部
編集委員

次世代エンジンへの移行期にさしかかりつつあるIHIの航空機エンジン事業。開発初期は投資負担が大きくなり、収益を圧迫する。ただ、「777X」向け新型エンジン「GE9X」で参画シェア拡大に成功したほか、整備事業では20年ぶりとなる拠点の新設を検討。端境期に将来の地盤固めを着々と行っている。航空機エンジン事業は投資回収に15-20年ほどを要する特殊なビジネスモデル。中長期の事業展望をいかに描けるかが、成長のカギを握る。

キーワード
端境期 量産

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