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最年少で抜擢されたNECのアクセラレーターが目指す社内ピボット

目黒友佳さん「大企業の中の“人財”からイノベーションを生み出す」
最年少で抜擢されたNECのアクセラレーターが目指す社内ピボット

抜群の行動力で海外にも広い人脈を持つ目黒さん

 「(NECの)本社33階を訪れると、意識が変わり、ピポット(方向転換)できる。そんな異空間にしたい」―。こう語るのは、新規事業向けのアクセラレーターとして活躍する目黒友佳さん。33階には目黒さんが所属する事業イノベーション戦略本部の拠点があり、総勢150人が新規事業の創出やイノベーション人材の発掘・育成に取り組んでいる。

 アクセラレーターは、事業創出の困難を乗り越えるために「仮説検証を手伝ったり、社外の著名な人材との交流の場を作ったりする」のが役割だ。

 目黒さんは2009年に入社し、当初はパーソナルコンシューマー部門に配属された。「ガジェット(携帯用の電子機器)好き」だったこともあり、BツーC(対消費者)向けの事業開発に奮闘し新たなビジネスを生み出してきた。その経験を買われ、14年から最年少でアクセラレーターに抜擢(ばってき)された。

 現在はビジネスモデルイノベーション室の主任として活動。抜群の行動力の持ち主で、米国のシリコンバレーに出向くなど、海外にも幅広い人脈を持つ。国内外で仕事をこなしながら「会合や懇親会に毎月40回は参加している」と多忙な日々を送るが、その表情は充実感で溢(あふ)れる。

 ただ、かつて苦い出来事も経験した。コンシューマー担当の経験を生かし指輪型の生体認証の事業化を手伝ったが「お客さんが付かずに苦労していた」。そこで開発担当者とともにシリコンバレーを訪れ、現地のベンチャーキャピタル(VC)に助言を求めた。だが、その結果は惨憺(さんたん)たるものだった。VCから厳しい指摘を受け、事業化を断念した。

 事業創出に向けてアクセルを踏むのが目黒さんの仕事だが「芽が出なければピポットさせる」のも重要な役割だ。開発担当者はVCから的確な指摘を直接聞けたことで、すぐに意識を切り替えて新たな活動に踏み出せた。「(失敗を重ねて)深入りする前にピポットすれば、次のことができる」というわけだ。

社内の文化を変える



 イノベーションというと、スタートアップ企業を思い浮かべがちだが、目黒さんのこだわりは「大企業の中に“人財”がいて、そこからイノベーションを生み出すこと」。そこでイントレプレナー(社内起業家)の発掘・育成にも力を注いでいる。

 3月には社内イノベーターの育成を目的とした交流イベント「NECイノベーターズ・ラウンジ」を開催。社外の著名人や起業家、投資家らを招き、総勢100人規模で行った。社員には「自分史を書かせ、何がしたいかを明確にした上で互いに質問する」といったユニークな取り組みも実施。工夫を凝らし、社内イノベーターの芽を育んでいる。

 事業イノベーション戦略本部の役割の一つは「社内の文化を変えること」。新たな文化の醸成に向け、目黒さんは社員の意識に入り込み、思考の“船頭役”として時に加速させ、時に大きく舵(かじ)を切る。アクセラレーターとしての地道な積み重ねが、NECという巨大な船に推進力を生み出している。
日刊工業新聞2016年7月20日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
うちの会社は大企業ではないが、先週たまたま「ゼロイチ会社員」というセミナーに出てきたところだったのでいろいろと思うところがある。スタートアップの起業家の人と会うことも多いし、ニュースイッチでは「大企業イノベーション」という連載もやっているので、双方の人たちと接する機会がある。アクセラレーターはやりたい事を持っている「優秀な変人」を見つけて、社内外でいろいろな人を巻き込んでいくことをサポートできるか。当然、NECだけにこだわる必要はないです。記事にすると、なんだか美しくまとまっているがとても悩み多き仕事です。

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