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”世界のYKK”を築き上げたシンプルだが最も難しい行動「土地っ子になれ!」

グローバルマーケティングを進化させつつ、現地の縫製業者と向き合う
”世界のYKK”を築き上げたシンプルだが最も難しい行動「土地っ子になれ!」

YKKのファスナー。年間生産量は200万キロメートル超。地球50周分以上のファスナーを毎年生産している計算だ

 第二次大戦後、国内製造業の中でもいち早く海外進出を始めたYKK。世界6極体制を掲げて71カ国・地域でファスニング事業を展開している。徹底した現地化をベースに、大手アパレルの国際展開に合わせて各地の事業会社が連携する戦略を進めてきた。近年は短いサイクルで流行の衣料を大量販売する「ファストファッション」への対応が新たな課題として浮上。それに対する体制強化を急いでいる。

 YKK創業者の故・吉田忠雄氏は海外に赴任する社員に「土地っ子になれ」と叱咤激励(しったげきれい)したという。同社では10年、20年の海外駐在も珍しくない。若手社員が日本人を1人も見かけないような土地に出向き、机と鉛筆を買うところから始めた、という話もあるほどだ。

 こうして鍛えられた現地の経営陣が大きな権限を持ち、腰を据えて市場開拓に取り組んだことで「世界のYKK」が構築された。

(YKKバングラデシュのダッカ工場の操業開始は02年。17年度にかけて生産能力を増強する計画を進めている)

 ところが1980年代も半ばを過ぎると、基本的に地産地消だった衣料品の世界に国際化の波が押し寄せた。大手アパレルメーカーがさまざまな国で商品を販売するようになる一方、日本・欧米からアジアへの生産移転が進んだ。それぞれの国・地域で事業を完結させる従来のやり方だけでは、大手アパレルメーカーへの対応は難しくなった。

  当時は同じYKKと名乗ってはいても、事業会社によって品ぞろえやスペックが違うケースもあった。「“ひとつのYKK”として活動できる機能」(猿丸雅之社長)の必要性から、猿丸社長が中心になって97年に立ち上げたのが、国をまたいだマーケティング活動を担う「グローバルマーケティンググループ(GMG)」だ。

 GMGは香港に拠点を置き、約100人の体制で主要な大手アパレルメーカーをカバーする。「顧客の本部に直接働きかけ、開発段階から参画し、当社のファスナーを商品にスペック・インしてもらう」(猿丸社長)役割を持つ。

ファストファッションへの対応が新たな課題に


 各地の事業会社と顧客の要望を共有し、実際に衣料品を生産する各地の縫製業者にうまくファスナーを納めることを可能にしている。現在はGMG設立当初に比べて市場環境が厳しくなり、「よりレベルアップした活動が必要になっている」(同)。

 ファストファッションへの対応も新しい課題として浮かび上がっている。商品のサイクルが早いため、従来同様のファスナーでは過剰品質になる懸念もある。顧客の求めるグレードを見極め、そのグレードの中で最高の商品を提供するというやり方が求められる。

 ただし、こうしたグローバル化が進展する中でも、ローカルの重要性が失われたわけではない。マーケティングはGMGが担うとはいえ、縫製業者に食い込み、ファスナーを販売するのは各地域の事業会社の役割だ。現地のファスナーメーカーの技術も向上している。

 技術面での圧倒的な優位性を保ちつつ、顧客サービスの充実も大切になっている。
(文=斎藤正人)
日刊工業新聞2016年7月13日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
先日、ソニーの創業者、盛田昭夫氏の記事を取り上げ、盛田氏はウォークマンを発売した1979年から「グローバル・ローカライゼーション」を企業行動の指針にしてきたが、それよりも早く実践してきたのがYKKかも。「Think globally, Act locally」か、それとも「Think locally, Act globally」か。

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