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アスクル、物流大改革へ。アマゾン・楽天に対抗し「マーケットプレイス」も

ピッキングロボ導入。ロハコ黒字化のカギは「物流センターの生産性を上げること」(岩田社長)
アスクル、物流大改革へ。アマゾン・楽天に対抗し「マーケットプレイス」も

アスクルロジパーク首都圏(埼玉県三芳町)の商品ピッキング工程にロボットを2台導入

 アスクルが物流と配送で、大規模な改革を推し進めている。スマートフォン普及や共働き増加で、インターネット経由で日用品などを買う消費者のニーズを背景に、同社の日用品通信販売サイトの売上高が拡大。これに伴う物流拠点への投資で固定費が増え、利益が圧迫される「いたちごっこの状況」(岩田彰一郎社長)が続いている。こうした課題の解決で導入したのがロボットや人工知能(AI)。物流拠点の運用改善を進める一方、固定費負担が軽い「マーケットプレイス」方式も模索しつつ流通規模を拡大する。

8拠点目の物流拠点が大阪で稼働へ


 アスクルがヤフーと資本業務提携し、日用品のネット通販サイト「ロハコ」を立ち上げて約4年。BツーC(対消費者)向け電子商取引(EC)市場はアマゾンや楽天などとの競争が激しさを増す中、ロハコの2016年5月期の売上高は、前期比64・7%増の328億円で大幅な増収。5月には40億円を投じた物流センターが横浜で稼働したほか、17年には同社最大規模となる8拠点目の物流センターの稼働が大阪で控えている。

 アスクルは当日・翌日配送が強み。だが、物流センターの運用コストが膨らみ、ロハコの営業損益は30億円規模の赤字が続いている。しかし、岩田彰一郎社長は「先行投資の段階だ」と強調。17年5月期の下期以降、「利益成長へ転換する」と強気だ。営業損益を黒字化するカギは「物流センターの生産性を上げる」ことだ。

 同社は6月、関東地域の配送を担う大型物流拠点、アスクルロジパーク首都圏(埼玉県三芳町)に、高精度の画像認識システムを持つピッキングロボットを導入した。

 生活用品は多品種少量の商品がメーン。また、トイレットペーパーや台所用洗剤といった製品ごとに大きさや形状も異なる。このため、従来はピッキングを人手に頼らざるを得なかった。

日立のAIで配送にもメス


 アスクルはロジパーク首都圏へのピッキングロボ導入で、商品在庫の数や配置の自由度が向上。在庫効率と作業生産性などが約3倍に改善した。物流センターにかかる一定の固定費に対して「出荷能力を上げていく」ことで、利益体質の改善につなげる。横浜の物流センターでもロボットを活用する考えだ。

 配送では、宅配不在率の低減が課題。10分前に到着時間を知らせるサービスを試験導入した。アスクルが持つ配送管理システムと、交通状況や天候などの外部情報のビッグデータ(大量データ)を日立製作所のAI技術で分析し到着時刻の精度を上げる取り組みだ。

定款も変更


 「狙う先はアマゾンと楽天の2強」と公言するアスクル。だが、楽天のECサイト「楽天市場」の取扱商品数約2億2000万点に対し、ロハコの取扱数は約20万点と小規模。ロハコの主なターゲットとする30―40代の働く女性の需要を取り込むため、化粧品専門サイトで資生堂やP&Gのカウンセリング化粧品の取り扱いも始めた。

 取扱商品数拡大の思惑からか、アスクルは8月の定時株主総会で定款変更を行い「(商品等の販売)ならびにその取り次ぎ、代理および仲介」の一文を加える。現在のロハコは自社で在庫を持って販売する「直販」。楽天やアマゾンは事業者が自由に出店して売買できる「マーケットプレイス」で業績を伸ばしており、このモデルに対応できるようにするとみられる。
(文=山下絵梨)
日刊工業新聞2016年7月15日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
アスクルはアマゾンや楽天に比べ現状、物流改革はかなり遅れているだろう。それでも岩田社長が「先行投資」と考えを持っているのは悪くない。アスクルや楽天で物流を担当しGROUNDというベンチャーを立ち上げた宮田啓友氏は「欧米の物流は進化している。日本もロボットやAIなど先進技術で現場を改革するべきだと痛感している」と話す。導入側だけでなく先進的な物流システムを提供する企業がもっと日本から出てこないと。

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