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日本の若者の人材力は高かった!ブランドづくりに大きく貢献

『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』 (川口盛之助氏)
日本の若者の人材力は高かった!ブランドづくりに大きく貢献

川口盛之助氏

 ―科学やスポーツ、文学、芸術など14のカテゴリーから各国の才能の総量を「グロスナショナルタレント(GNT)」として比較しています。着眼点がユニークですね。
 「錦織圭選手やベビーメタルなど海外で活躍する日本人が増え、世界での日本の存在感は確実に高まっている。クールジャパンというと使い古された感じだが、日本の魅力がインバウンド(訪日外国人)という実体経済を伴うようになってきた」

 「ではクールとは何か、ずっと気になっていた。『グロスナショナルクール』という言葉はあるものの、数値ではなくモットーのようなもの。数値化すると社会科学になる。そこで、GNTという言葉を発案しながら、データを徹底的に調べてみた」

 ―日本がGNTで総合世界5位という結果にも驚きです。
 「日本の将来は少子高齢化で明るい状況にはない。国内総生産(GDP)では中国やインドが伸びてくるが、日本はこれまでストックとして貯め込んだものがノーベル賞の量産に結実したり、観光産業の資産になったりしている。伝統的なものがたくさんあるだけではなく、現代的や最先端の分野で高い実績を上げている」

 「加えて海外に興味がない人が多いと言われる中で、実は若い人たちが世界の最先端で頑張っている。新興国と違うのは、こうした取り組みに多様性や厚みがあること。世界5位という結論はG5(先進5カ国)そのものであり、先進国の証。簡単に消え去るようなものではない。もっと自信を持っていい」

 ―ただ、アジア大学ランキングではシンガポールが首位になり、スパコンランキングのTOP500では中国の世界一が続いています。それに対して、日本は選択と集中ができていないようにも見えますが。
 「総体的に見て、日本人の好奇心の対極にあるのがやめない力。どんなマイナーな種目でも、予算がなくてもずっとやり続ける。いろんなところに手を出してやめない。集中と選択ができていないというと、経営や軍事ならダメなやり方とされるのだが、ここでの分析対象は雅な趣味の世界。作家でも科学者でも本音は好きでやっている」

 「だから、自分も『何を強化しろ』と教訓を垂れたいわけではない。ノーベル賞やオリンピック、建築賞はじめ、国際標準の趣味的なイベントで文化的な貢献をしていて、それが日本への尊敬と憧れにつながっている。おもてなしや文化・伝統で、インバウンドが増えているというのは上滑りな議論だ」

 ―この結論から何が読み取れますか。
 「あえて説教めいたことを言うとすれば、若い人に任せなさいということ。今回の調査で、若い人たちが日本のブランドづくりに貢献していることが数字で裏付けられた。高齢者で頑張っているのは映画監督や緒方貞子さんぐらい。会社の経営も政治も若い人に任せるべきだろう」

 「50の声を聞いたら第一線を退き、若い人を盛り立てる役回りになったほうがいい。このまま行くと日本人の平均年齢は上がり続けて保守的になる一方だ。ブランドというストックの上に、いつまでもあぐらをかいていてはいけない。移民を受け入れるのが現実的でないのであれば、思い切って若い人に託し、心を若くして活力を取り戻していく必要がある」
(聞き手=藤元正)
<略歴>
川口盛之助氏(かわぐち・もりのすけ) 盛之助社長
84年(昭59)慶大工卒。米イリノイ大理学部修士修了。日立製作所を経てアーサー・D・リトルジャパンでアソシエートディレクター。13年に株式会社盛之助(東京都中央区)を設立し社長。兵庫県出身、55歳。
●『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』
(ディスカヴァー・トゥエンティワン 03・3237・8321)
日刊工業新聞2016年7月11日「著者登場」
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
国力を比較する指標としては、経済力を表すGDP、GNI(国民総所得)のほか、ブータンが導入したことで有名なGNH(Gross National Happiness=国民総幸福量)がありますが、人材力に着目したGNTという概念は非常にユニーク。しかも本書で、実は日本はGNT大国だったということがわかり、このところの国際大会や海外プロリーグでのスポーツ選手の活躍、相次ぐノーベル賞の受賞(イグ・ノーベル賞も毎年受賞)、インバウンドの増加といった現象が、ひとつながりになっていることに納得がいきました。やはり若者パワーはすごい。

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