オープンイノベーションで存在感を出し始めた媒介役
企業ではなく、公的支援機関と大学だからできること
企業が社外の技術やアイデアなどを取り込むオープンイノベーションが広がり、課題が鮮明になってきた。自社の技術ニーズを開示して幅広くシーズ提案を募る大企業は、いかに提案の質を高めて審査コストを抑え、マッチング効率を向上させるのかが課題だ。社外の技術者や市民を巻き込んで製品やビジネスモデルを開発する「共創」は、コミュニティーの持続性が成否のカギ。社外の人材や技術、アイデアをひきつけ続ける仕組みが求められる。
そこで注目されるのが公的支援機関だ。科学技術振興機構(JST)は企業のニーズを調査する専任者を15人から25人に増員した。ニーズに対して大学の技術を結びつける。大学に研究予算を割り振るJSTが直に産業界の声を集める試みだ。イノベーション拠点推進部の高橋勝彦課長は「仲介だけでは連携は前に進まない。大学の技術を企業が試す費用も支援する」と説明する。16年度は255件の連携に資金を提供する。
企業の多くはオープンイノベーションの人員がいても、社外技術を試す予算が少ないことが課題だった。JSTの資金は1件当たり170万円と少額だが連携を一歩進めることで、技術の真価を見極められる。
一つのシーズで企業の課題を解決できることは少ない。大企業は、ある程度の技術なら自社で開発できる。残っているのは複数の要素技術が組み合わさった複合的な問題だ。
通常、社内の技術者が技術を要素ごとに分割して、各技術の仕様を決めて個々に発注する。ただピンポイントで技術を募集すると提案が集まらず、広げると課題に合いにくくなり、シーズの審査コストを膨らませる原因だった。オープンイノベーションでは、この技術の分割と統合を誰が担うのか問題になる。
中小企業基盤整備機構は設計や企画の企業を巻き込んだグループ提案に力を入れる。中小機構が運営する技術仲介サイト「ジェグテック」はニッチトップの技術を持つ企業を集めてきたため、登録企業数の57%は受託加工と部品メーカー、26%は設備装置メーカーが占めていた。
ここに商社や設計会社などコーディネート力を持つ企業を加える。中小機構の樋口光生参事は「登録企業の技術は一流。次は企業同士のコラボレーションを促して、解ける課題を増やしていく」と説明する。より付加価値の高い設計企画段階から受注を狙う。
共創型のオープンイノベーションも広がっている。ただ共創するメンバーによってアイデアやシステム設計の出来不出来が変わる。そこで注目されているのが大学だ。中立的な立場で専門分野に幅広く対応できる。
東京大学生産技術研究所の藤井輝夫所長は「イノベーションエコシステムの中で、大学の役割は技術提供だけに留まらない。大学は社会人にとって学び直しの場だ。共創コミュニティーの中核になれる」と展望する。
コミュニティーを機能させるにはビジョンが必要だ。専門性が高まるほどメンバー選びの機微が共創の成否を分ける。そこで横浜国立大学は経営学と理工系などが協力して当たる文理融合型の産学連携を始めた。
企業と10―20年後の産業ビジョンをつくり、生き残るための技術戦略やビジネスモデルを検証する。産学官連携部門にコンサルティング機能を設けた。長谷部勇一学長は「1大学対1企業の枠に留まっていてはビジョンは描けない。大学のネットワークを駆使して知恵を集める」と力を込める。
(文=小寺貴之)
JST、ます少額連携から
そこで注目されるのが公的支援機関だ。科学技術振興機構(JST)は企業のニーズを調査する専任者を15人から25人に増員した。ニーズに対して大学の技術を結びつける。大学に研究予算を割り振るJSTが直に産業界の声を集める試みだ。イノベーション拠点推進部の高橋勝彦課長は「仲介だけでは連携は前に進まない。大学の技術を企業が試す費用も支援する」と説明する。16年度は255件の連携に資金を提供する。
企業の多くはオープンイノベーションの人員がいても、社外技術を試す予算が少ないことが課題だった。JSTの資金は1件当たり170万円と少額だが連携を一歩進めることで、技術の真価を見極められる。
一つのシーズで企業の課題を解決できることは少ない。大企業は、ある程度の技術なら自社で開発できる。残っているのは複数の要素技術が組み合わさった複合的な問題だ。
通常、社内の技術者が技術を要素ごとに分割して、各技術の仕様を決めて個々に発注する。ただピンポイントで技術を募集すると提案が集まらず、広げると課題に合いにくくなり、シーズの審査コストを膨らませる原因だった。オープンイノベーションでは、この技術の分割と統合を誰が担うのか問題になる。
仲介サイト、技術は一流
中小企業基盤整備機構は設計や企画の企業を巻き込んだグループ提案に力を入れる。中小機構が運営する技術仲介サイト「ジェグテック」はニッチトップの技術を持つ企業を集めてきたため、登録企業数の57%は受託加工と部品メーカー、26%は設備装置メーカーが占めていた。
ここに商社や設計会社などコーディネート力を持つ企業を加える。中小機構の樋口光生参事は「登録企業の技術は一流。次は企業同士のコラボレーションを促して、解ける課題を増やしていく」と説明する。より付加価値の高い設計企画段階から受注を狙う。
共創型のオープンイノベーションも広がっている。ただ共創するメンバーによってアイデアやシステム設計の出来不出来が変わる。そこで注目されているのが大学だ。中立的な立場で専門分野に幅広く対応できる。
大学はコミュニティーの中核
東京大学生産技術研究所の藤井輝夫所長は「イノベーションエコシステムの中で、大学の役割は技術提供だけに留まらない。大学は社会人にとって学び直しの場だ。共創コミュニティーの中核になれる」と展望する。
コミュニティーを機能させるにはビジョンが必要だ。専門性が高まるほどメンバー選びの機微が共創の成否を分ける。そこで横浜国立大学は経営学と理工系などが協力して当たる文理融合型の産学連携を始めた。
企業と10―20年後の産業ビジョンをつくり、生き残るための技術戦略やビジネスモデルを検証する。産学官連携部門にコンサルティング機能を設けた。長谷部勇一学長は「1大学対1企業の枠に留まっていてはビジョンは描けない。大学のネットワークを駆使して知恵を集める」と力を込める。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2016年7月5日の記事から抜粋