日立のヘルスケアは事業は成長できるのか?投資見直しへ

粒子線治療・超音波に重点、売り上げ目標も下方修正し“量より質”へ転換

  • 0
  • 0
北海道大学病院で臨床開始した最新の陽子線治療
 日立製作所がヘルスケア部門の中期経営計画を見直した。2018年度の同部門売上高目標を、従来の6000億円(事業区分変更後5850億円)から4400億円に下方修正した。「成長性と収益性を重視したポートフォリオへの変革」を目指す渡部真也執行役常務ヘルスケアビジネスユニットCEOに今後の取り組みを聞いた。

 ―18年度の売上高目標を引き下げました。
 「この2年間の事業の進捗(しんちょく)を踏まえ投資計画を見直した。為替変動や収益性を重視して事業を見直す分なども含んでいる。ただ売上高目標は引き下げたが、営業利益率目標は10%に据え置いた。事業規模と収益性、それに必要な投資。全体を考えて計画を変えた」

 ―15年度の部門売上高は3326億円でした。1000億円強をどう伸ばしますか。
 「自力による成長と、M&A(合併・買収)の活用だ。1000億円の半分強が自力によるもの、残る半分弱がM&Aで伸ばす。自力で市場の伸びを上回る成長を確保しつつ、投資を計画する」

 ―投資先はどの分野を検討しますか。
 「世界でナンバーワンを目指す事業として、粒子線治療と超音波などを掲げている。この分野での投資や販売チャンネルの拡充などを考える。一方、診断装置の分野で集中と選択を進める。価格競争に陥り、差別化できない製品は最適化する。『総合モダリティー(装置)メーカー』でありたいという方針は変わらないが、品ぞろえ全てを自前でやる意味はなくなっている」

(渡部氏「品ぞろえ全てを自前でやる意味はなくなっている」)

 ―粒子線治療と超音波の事業方針は。
 「粒子線装置は昨年、米国の医療施設で稼働するなど受注に手応えがある。この勢いを加速したい。これまで高付加価値機を日米の先端医療施設に納入してきたが、今後は中国やアジア、欧州などの先端医療施設に展開する。治療の裾野も広がっており、小型機で顧客層を広げたい。また、粒子線治療の計画や分析、X線治療やがんの個別化医療の研究など、放射線治療をトータルで提供できるように進化していく」

 「超音波は手軽な診断装置で、市場の成長率も高い。当社は外科や泌尿器科に強みがある。循環器科や産婦人科、放射線科などでもシェアを上げるため、診療科別のソフトを順次投入する。超音波でも装置だけを販売するのではなく、他の診断装置やソフトと組み合わせて提供する」

 ―ヘルスケア部門の目指す姿は。
 「総合力を生かし、トータルソリューションを提供できる姿を目指す。診断装置などの『診断・臨床』、分析装置などの『検査・試薬』、医療ITなどの『インフォマティクス』と三つのコア事業がそれぞれの強みを発揮して、収益性、成長性をけん引していきたい」

【記者の目・“量より質”で投資先選別】
 計画修正のポイントは“量より質”への転換だ。従来は規模を伸ばして世界の競合に対抗する戦略だった。だが、規模と収益性を兼ね備えた魅力的な投資先は限られている。シナジー(相乗効果)を引き出せる相手をピンポイントに補完し、トータルソリューションベンダーとしての地位を確立する。
(聞き手=村上毅)

(国内シェア首位の超音波装置)

またまた組織再編へ


日刊工業新聞2015年07月22日


 日立製作所は21日、ヘルスケア事業の強化に向けて、子会社の吸収合併など事業体制を再編すると発表した。日立本体に日立メディコ(東京都千代田区)と日立アロカメディカル(同三鷹市)を吸収合併すると同時に、両子会社の製造部門を統合し2016年4月に製造子会社を新設する。グループで経営を一体化するとともに、医療機器のコア技術や製造ノウハウを融合。機器の高品質・低コスト化を推進し国際競争力を高めていく。

 新設する製造子会社「日立ヘルスケア・マニュファクチャリング(仮称)」は従業員700人規模になる見通しで、千葉県柏市、同茂原市、東京都青梅市、同国分寺市に拠点を配置する。日立メディコはこれまでコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)、医療ITシステムを、日立アロカは超音波画像診断装置をメーンに事業を展開してきた。日立メディコの14年度売上高は約832億円、日立アロカは約570億円。

 日立はヘルスケア事業を成長戦略の柱の一つに位置づけており、今回の再編で事業の一体運営体制を整える。グループ内で重複していた国内外の拠点も集約し、医療機器の開発・販売を効率化する。製品ラインアップとサービス網を充実し、医療機関に対し機器やソリューションを自社で一括提供する。日立グループの同事業(ヘルスケア社)の14年度売上高は3379億円(海外売上高比率62%)。中期経営計画では18年度に同6000億円(同67%)を目標に掲げている。

世界3強の背中は依然遠く。M&Aも視野に



 2014年4月に医療機器事業の大幅な組織再編を実施。完全子会社化した日立メディコ、電力部門にあるがん治療装置、情報通信部門が担当する医療向けIT事業を統合した約6000人をヘルスケアグループとしまとめ、総合的な営業窓口になる社内カンパニーのヘルスケア社を発足させた。

 現在、診断・治療機器が7割を占めるが、今後はITを活用した予防や病院向けのソリューション事業を5割まで高める。自力成長を基本にするが、M&Aや出資など戦略投資枠として500億―1000億円を用意している。
 
 日立メディコは2010年に超音波画像診断大手のアロカを買収(現日立アロカメディカル)。もともと日立メディコはコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)の高級機で特徴を持つ会社だったが、これで普及機の品ぞろえも強化できた。ただ同社の営業利益率は3%弱で、競合に比べ見劣りする。
 
 この分野は米GEヘルスケア、オランダ・フィリップス、ドイツ・シーメンスなど医療機器御三家といわれる海外勢が強い。東芝も営業力で定評ある。医療機器は機器本体の売り上げよりも、導入後の保守や消耗品で稼ぐ構図。特に高級機は数億円もする製品もあり台数が出ないため、赤字になりやすい。しかも本来なら日立が得意とする研究開発でも、競合他社に対し遅れが目立つ。

 日立メディコを国内向け比率が圧倒的に高く、アロカ買収でもそこは解消できていない。グローバルでの販売力強化が最大の課題だ。普及機に加え汎用分析装置など新しい分野が加わったことで、新興国を中心に攻勢をかける。IT関係では欧米で約500の病院などに導入実績のあるストレージを予防・検診・予後のプラットフォームとして活用。一人の履歴を追いかけるデータを収集や統計解析を狙う。

 がん治療装置では北海道大学と日立製作所が共同で開発を進めてきた新型の陽子線がん治療システムの施設が、2014年春に稼働。北大の動体追跡照射技術と日立のスポットスキャニング照射技術を融合した。X線では十分な放射線がかけられず治療が難しかった肺や肝臓、膵臓(すいぞう)など大きながん治療が対象になる。これまでに粒子線装置の受注実績は日米で11件。現在、欧州やアジアとも商談が進んでおり、年間3台程度の受注を目指す。

日刊工業新聞2016年7月5日

COMMENT

明豊
執行役員デジタルメディア局長 DX担当

1年前に「日立のヘルスケアは事業は成長できるのか?」という同じタイトルで記事を公開した。この間、キヤノンが東芝の子会社を買収、業界環境は激しく動いている。現実路線に軌道修正したと言えば聞こえはいいが、上位との差は確実に開きつつある。立派な計画だけを作って、後は事業環境が変わっても動かない、というかつての日立の悪癖はもうなくなりつつあると信じたい。

関連する記事はこちら

特集