“世界の新幹線”へ新型車両はニッポンの技術の粋を集める
「N700S」2020年に投入。省エネ半導体に先頭形状は空気抵抗抑える
JR東海は2020年度に東海道新幹線の新型車両「N700S」を導入する。N700Sは現行の最新車両「N700A」に比べ、地震時のブレーキ距離を約5%短縮したほか、駆動システムに次世代半導体「SiC(炭化ケイ素)素子」を採用し、小型化、軽量化を実現。18年3月に確認試験車を製作し、新技術の最終確認を実施する。20年以降に「N700系」に代わる車両として、順次置き換える。
JR東海は15年にSiC素子を採用した新幹線車両の駆動システムを、東芝、日立製作所、富士電機、三菱電機と共同開発。高速鉄道の駆動システムにSiC素子を採用するのは世界初となる。先頭形状はN700Aに比べ車体を平滑化し、空気抵抗を抑えて騒音を低減する「デュアルスプリームウィング型」を採用する。
東海道新幹線で新型車両を導入するのは13年の「N700A」以来、約7年ぶり。JR東海は現在、N700系をN700Aと同等の機能に高める改造工事を実施しており、19年に134編成の全車両が最新型に置き換わる。20年以降、さらに新型車両を投入して更新を進める。柘植康英社長は「海外展開も視野に入れた革新的な車両」と述べた。
2022年までの開業を目指し米テキサス州で進む高速鉄道計画が、実現に近づいている。東海道新幹線型車両の導入を前提とし、JR東海が現地の民間企業への技術支援強化のため、16年前半にも20人程度の技術者を現地に派遣する。日本の官民ファンドも出資を決定。しかし、車両の安全基準を巡る許認可の取得といった課題も残されている。
テキサス新幹線は同州のダラスとヒューストン間の約390キロメートルを90分で結ぶプロジェクト。車両には東海道新幹線のN700系をベースとする「N700―I」を使う予定。現地企業や個人を主体に設立したテキサス・セントラル・パートナーズ(TCP)が17年着工を目指し、民間主導で資金調達や鉄道当局との調整を進める。
TCPの試算で「360億ドル(約4兆3000億円)の経済効果がある」とされるテキサス新幹線。しかし実現への壁が大きく二つある。まずは車両強度や環境への影響といった許認可の問題だ。
新幹線は専用の高架軌道を走り、自動列車制御装置(ATC)により列車同士の衝突の可能性が低く、車両も軽い。一方の米国では高速鉄道は貨物列車などと同じ軌道を走り、一般道路との交差もあるため衝突への強さが求められる。JR東海関係者は、日本の新幹線は重量が11―13トン程度だが、米国基準に基づくと17トン程度の重量が必要という。
JR東海は米連邦鉄道管理局(FRA)などに、テキサス新幹線の特例として軽量型車両を認めるよう働きかけてきた。協議は佳境を迎えているが、JR東海の柘植康英社長は「慎重に進めている」と述べるにとどめる。
民間主導プロジェクトゆえ、建設資金が集まるかという課題もある。TCPは建設費を総額120億ドル(約1兆4000億円)と見積もり、15年時点で現地企業などから7500万ドル(約90億円)を集めた。15年11月には日本の海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)もTCPに4000万ドル(約49億円)の出資を決めたが、資金調達への入り口に立ったばかりだ。JR東海の海外展開を担うC&C事業室の落合克典副室長は、「当社側で推進できる部分はほぼ終えた。あとは地元でどれだけの賛同が得られるかだ」という。
同社は葛西敬之名誉会長らを中心にワシントン―ボストン間の「北東回廊」に超電導リニア新幹線を導入する長期構想も進める。15年には、このうちワシントン―ボルティモア間、約60キロメートル区間の調査・研究に対し、地元メリーランド州に初の連邦予算による補助金交付が決定した。柘植社長は「啓蒙活動を続ける」と語る。
社会全体のインフラとなる高速鉄道の輸出は、当該国の政治にも翻弄(ほんろう)されやすい。15年には日本優位とされたインドネシアの案件で中国政府に受注をさらわれた。そんな中、テキサス新幹線は民間主導プロジェクトとして、着実に進んでいる。
JR東海は米国テキサス州ダラス―ヒューストン間(約385キロメートル)で民間主導で計画中の新幹線方式の高速鉄道について、開発主体企業を技術面で支援する完全子会社「ハイスピードレールウェイ・テクノロジー・コンサルティング・コーポレーション」を5月下旬に同州に設立する。
資本金は約1億6000万円。自社の技術者・事務職約20人を8月以降出向させる。東海道新幹線の知見を基に、2017年着工、21年開業を目指す開発主体企業に、設計基準や費用の策定、運用・保守体制、駅や保守施設の設計など開業に必要な作業を指導する。
JR東海は15年にSiC素子を採用した新幹線車両の駆動システムを、東芝、日立製作所、富士電機、三菱電機と共同開発。高速鉄道の駆動システムにSiC素子を採用するのは世界初となる。先頭形状はN700Aに比べ車体を平滑化し、空気抵抗を抑えて騒音を低減する「デュアルスプリームウィング型」を採用する。
東海道新幹線で新型車両を導入するのは13年の「N700A」以来、約7年ぶり。JR東海は現在、N700系をN700Aと同等の機能に高める改造工事を実施しており、19年に134編成の全車両が最新型に置き換わる。20年以降、さらに新型車両を投入して更新を進める。柘植康英社長は「海外展開も視野に入れた革新的な車両」と述べた。
JR東海、海外受注はテキサスが試金石
日刊工業新聞2016年1月22日
2022年までの開業を目指し米テキサス州で進む高速鉄道計画が、実現に近づいている。東海道新幹線型車両の導入を前提とし、JR東海が現地の民間企業への技術支援強化のため、16年前半にも20人程度の技術者を現地に派遣する。日本の官民ファンドも出資を決定。しかし、車両の安全基準を巡る許認可の取得といった課題も残されている。
テキサス新幹線は同州のダラスとヒューストン間の約390キロメートルを90分で結ぶプロジェクト。車両には東海道新幹線のN700系をベースとする「N700―I」を使う予定。現地企業や個人を主体に設立したテキサス・セントラル・パートナーズ(TCP)が17年着工を目指し、民間主導で資金調達や鉄道当局との調整を進める。
TCPの試算で「360億ドル(約4兆3000億円)の経済効果がある」とされるテキサス新幹線。しかし実現への壁が大きく二つある。まずは車両強度や環境への影響といった許認可の問題だ。
新幹線は専用の高架軌道を走り、自動列車制御装置(ATC)により列車同士の衝突の可能性が低く、車両も軽い。一方の米国では高速鉄道は貨物列車などと同じ軌道を走り、一般道路との交差もあるため衝突への強さが求められる。JR東海関係者は、日本の新幹線は重量が11―13トン程度だが、米国基準に基づくと17トン程度の重量が必要という。
JR東海は米連邦鉄道管理局(FRA)などに、テキサス新幹線の特例として軽量型車両を認めるよう働きかけてきた。協議は佳境を迎えているが、JR東海の柘植康英社長は「慎重に進めている」と述べるにとどめる。
あとは地元でどれだけの賛同が得られるか
民間主導プロジェクトゆえ、建設資金が集まるかという課題もある。TCPは建設費を総額120億ドル(約1兆4000億円)と見積もり、15年時点で現地企業などから7500万ドル(約90億円)を集めた。15年11月には日本の海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)もTCPに4000万ドル(約49億円)の出資を決めたが、資金調達への入り口に立ったばかりだ。JR東海の海外展開を担うC&C事業室の落合克典副室長は、「当社側で推進できる部分はほぼ終えた。あとは地元でどれだけの賛同が得られるかだ」という。
同社は葛西敬之名誉会長らを中心にワシントン―ボストン間の「北東回廊」に超電導リニア新幹線を導入する長期構想も進める。15年には、このうちワシントン―ボルティモア間、約60キロメートル区間の調査・研究に対し、地元メリーランド州に初の連邦予算による補助金交付が決定した。柘植社長は「啓蒙活動を続ける」と語る。
社会全体のインフラとなる高速鉄道の輸出は、当該国の政治にも翻弄(ほんろう)されやすい。15年には日本優位とされたインドネシアの案件で中国政府に受注をさらわれた。そんな中、テキサス新幹線は民間主導プロジェクトとして、着実に進んでいる。
技術支援の子会社を現地に
日刊工業新聞2016年5月18日
JR東海は米国テキサス州ダラス―ヒューストン間(約385キロメートル)で民間主導で計画中の新幹線方式の高速鉄道について、開発主体企業を技術面で支援する完全子会社「ハイスピードレールウェイ・テクノロジー・コンサルティング・コーポレーション」を5月下旬に同州に設立する。
資本金は約1億6000万円。自社の技術者・事務職約20人を8月以降出向させる。東海道新幹線の知見を基に、2017年着工、21年開業を目指す開発主体企業に、設計基準や費用の策定、運用・保守体制、駅や保守施設の設計など開業に必要な作業を指導する。
日刊工業新聞 2016年06月27日 建設・エネルギー・生活面