ソニーコンピュータサイエンス研究所社長と第3次AIブームを考える
<追記あり>北野氏「まさに数学の戦い。前回とは戦っている場所が異なる」
人工知能(AI)が第4次産業革命の主役に躍り出ようとしている。第3次AIブームとも呼ばれ、その活用領域はかつてないほどの広がりをみせている。AIブームは突然再燃したかにも見えるが、新たな取り組みは10年前から始まり、そこに気付いた投資家らは早くから動いていた。今回のブームに日本勢はどう向き合えばよいのか。AI研究の草分けでもあるソニーコンピュータサイエンス研究所(東京都品川区)の北野宏明社長は「今回は数学の戦いだ」と明言する。AI研究の最新動向や日本の現状について、ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明社長に聞いた。
―AI研究が脚光を浴びています。
「ディープラーニングの進歩により、いままで難しかった問題が解決しつつある。万能ではないが、例えば画像認識能力では人間を凌駕(りょうが)するものもある。ニューラルネットのアルゴリズム、ビッグデータ、計算機パワーの三つがそろってきたことが大きい」
―前回とのブームとの違いは。
「ディープラーニング系の機械学習はまさに数学の戦いだ。難しい数式を見ながら、そこで議論ができ、数式をこう書けば学習能力がどのくらいよくなるかなどが分かる人材がたくさんいないと、歯が立たない。前回のAIブームとは戦っている場所が異なる」
―グーグルのアルファ碁は人間を超えたのでしょうか。
「アルファ碁は盤面中央をがっさりと取って勝てる。同じことは人間には計算できず、打った場所から周辺部を固めていくが、アルファ碁は人間が見えない先まで読めているわけだ。将棋の電脳戦でも序盤でコンピューターが間違えたかと思ったが、今やそれが定石となりつつある。囲碁や将棋以外でも、AIが人間では分からない原理を発見することはあり得る」
―ロボットとの融合も話題です。
「自動走行車や飛行ロボット(ドローン)はAIが要であり、そこで戦わずして負けることはあってはならない。ロボットといえば人型が話題となるが、需要は限定的だ。AI活用では人型以外が圧倒的に多い」
―具体的には。
「例えば自動走行車。車というよりはロボットだ。自動走行の実装技術はエンジニアリングが必要で、そこは日本やドイツが強い。しかしブレーン(頭脳)のところは、数学ができる人を抱え込まないと戦えなくなる。自動走行車は『できることは見えている』と聞く。(DeNA子会社の)ロボットタクシーのような実験を恒常的に行うことが必要だ」
(聞き手=斎藤実)
「まず、分析できなかったようなデータを収集から始めませんか」
筆者も大学院時代に4層ニューラルネットワークと遺伝的アルゴリズムを用いて単細胞生物の動態をモデル化し数千世代の生き残りシミュレーションを学習させていた研究を第2次AIブームの終わり頃90年代中旬に行っていた経歴を持つ。当時はワークステーション数台動かしてもアウトプットが出るまでに1ー2週間かかったりしたものだった。
当時と比べるとスケールする圧倒的な計算機パワーと学習させるためのデータ量が根本的に違うことに加え、そろそろ人が判断できないパターン認識などの応用例が増えてきたことを感じる。AIが得意としてきた画像認識のみならず、言語認識や不正検知、ロボットの制御など多岐にわたる。例えばプリファード・ネットワークスによるファナックのロボットの操作法学習、ABEJAによるダイキンの空調機の自動調整学習などが国内では記憶に新しい。
実際のプロジェクト現場でも適用検討することも増えているが、理解が進んでないこともあり、過剰な期待感があることがほとんどだ。特に学習させるべきデータがないのにAI活用を急ぎたいと考える向きには、IoTの考え方によりまず見えなかった、分析できなかったようなデータを収集することから始めませんか、と申し上げている。できることとできないことを見極めて、適用を試みていくことで人が減りゆくある日本においても海外に負けじと結果が出てくることが期待される。
―AI研究が脚光を浴びています。
「ディープラーニングの進歩により、いままで難しかった問題が解決しつつある。万能ではないが、例えば画像認識能力では人間を凌駕(りょうが)するものもある。ニューラルネットのアルゴリズム、ビッグデータ、計算機パワーの三つがそろってきたことが大きい」
―前回とのブームとの違いは。
「ディープラーニング系の機械学習はまさに数学の戦いだ。難しい数式を見ながら、そこで議論ができ、数式をこう書けば学習能力がどのくらいよくなるかなどが分かる人材がたくさんいないと、歯が立たない。前回のAIブームとは戦っている場所が異なる」
―グーグルのアルファ碁は人間を超えたのでしょうか。
「アルファ碁は盤面中央をがっさりと取って勝てる。同じことは人間には計算できず、打った場所から周辺部を固めていくが、アルファ碁は人間が見えない先まで読めているわけだ。将棋の電脳戦でも序盤でコンピューターが間違えたかと思ったが、今やそれが定石となりつつある。囲碁や将棋以外でも、AIが人間では分からない原理を発見することはあり得る」
―ロボットとの融合も話題です。
「自動走行車や飛行ロボット(ドローン)はAIが要であり、そこで戦わずして負けることはあってはならない。ロボットといえば人型が話題となるが、需要は限定的だ。AI活用では人型以外が圧倒的に多い」
―具体的には。
「例えば自動走行車。車というよりはロボットだ。自動走行の実装技術はエンジニアリングが必要で、そこは日本やドイツが強い。しかしブレーン(頭脳)のところは、数学ができる人を抱え込まないと戦えなくなる。自動走行車は『できることは見えている』と聞く。(DeNA子会社の)ロボットタクシーのような実験を恒常的に行うことが必要だ」
(聞き手=斎藤実)
ファシリテーターの八子知礼氏の見方
「まず、分析できなかったようなデータを収集から始めませんか」
筆者も大学院時代に4層ニューラルネットワークと遺伝的アルゴリズムを用いて単細胞生物の動態をモデル化し数千世代の生き残りシミュレーションを学習させていた研究を第2次AIブームの終わり頃90年代中旬に行っていた経歴を持つ。当時はワークステーション数台動かしてもアウトプットが出るまでに1ー2週間かかったりしたものだった。
当時と比べるとスケールする圧倒的な計算機パワーと学習させるためのデータ量が根本的に違うことに加え、そろそろ人が判断できないパターン認識などの応用例が増えてきたことを感じる。AIが得意としてきた画像認識のみならず、言語認識や不正検知、ロボットの制御など多岐にわたる。例えばプリファード・ネットワークスによるファナックのロボットの操作法学習、ABEJAによるダイキンの空調機の自動調整学習などが国内では記憶に新しい。
実際のプロジェクト現場でも適用検討することも増えているが、理解が進んでないこともあり、過剰な期待感があることがほとんどだ。特に学習させるべきデータがないのにAI活用を急ぎたいと考える向きには、IoTの考え方によりまず見えなかった、分析できなかったようなデータを収集することから始めませんか、と申し上げている。できることとできないことを見極めて、適用を試みていくことで人が減りゆくある日本においても海外に負けじと結果が出てくることが期待される。
日刊工業新聞2016年7月1日の記事から抜粋