500 Startups「日本でもグローバルなユニコーンの誕生に貢献する」
シード、コンセプト、チームの3つの条件がそろえば「分野」にはこだわらない
500 Startups Japan代表のJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏とマネージングパートナー 澤山陽平氏に聞く。
2010年に設立された500 Startupsは、世界60カ国の1500社以上に投資。20カ国以上に拠点を持ち、4つのメインファンドに加え、11の地域特化型ファンドと、2つの領域特化型ファンドを設立している。この圧倒的な数字を背景に「世界で最もアクティブなシードVCと自負している」と話すのはライニー氏。
500 Startupsが投資する際の前提条件となるのが「シード」、つまり起業したてで企業の立ち上がり段階(アーリーステージ)であるということだ。
しかし、立ち上がり段階ゆえに、そこから成長せずに死んでいく企業も多い。そこで500 Startupsが掲げる方針が「Lots of Little Bets(小さい投資を多数行う)」だ。さらに、生き残った企業に追加投資を適宜行うことで、「リターンを犠牲にせずに伝統的なVCと比べてリスクを低減している」(同氏)という。
もともと500 Startupsの社名は500社投資するという意気込みを表現したものというが、すでに世界1500社以上へ投資していることからも、同社の勢いがうかがえる。
そして、世界中で投資を進めるのは、イノベーションはシリコンバレー以外でも起こると見ているからだ。澤山氏は「インターネットやスマホが発展途上国でも普及してきている。我々はシリコンバレーでベンチャーを待つのではなく、世界中に出かけてイノベーションの種を見つけ、支援する」と話す。
その上で、具体的に投資判断をする際に見ている要素は2つあるという。1つ目はコンセプトが良いことだ。「スタートアップ時はいろいろな失敗や壁にぶち当たるので一筋縄ではいかない」(澤山氏)中で、大きな方向性が時代の流れに合っているかどうか、そして紆余曲折があっても成長し続けられるコンセプトになっているかを見ている。
2つ目は経営層がバランスの取れた「チーム」であること。この「チーム」というのがポイントで、経営者1人の場合は投資対象から外すケースも多いという。「1人でできるほどスタートアップは簡単でない」と澤山氏は断言する。
また、アメリカでは理想的なチーム構成を表すものとして「ハスラー、ハッカー、デザイナー」という言葉があるという。これは、ハスラーはビジネスをつくる人、ハッカーはシステムを作る人、デザイナーは人や会社など全体像に関わる大きなデザインを描く人、という役割分担を意味する。
「もちろん、地域や分野によって必要な能力は変わってくる。そこで必要なスキルセットがそろうことが大事」とライニー氏。例えばBtoBであれば、パワーのある法人営業マンが必要で、さらに日本であれば、“飲みニケーション”もできるような人材がいれば頼もしいだろう。また、役職で表すと、突き進むタイプのCEO(最高経営責任者)、それを固めるCOO(最高執行責任者)やCTO(最高技術責任者)がそろっていることが、良いチームの一例だという。
中でもITを駆使するベンチャー企業への投資が多い500 Startupsにとって、優秀なCTOは必須の人材と見ている。「技術は外注で」というベンチャーには投資しないこともあるという。一方で、技術面だけでなく、プロダクトの価値をどう売り込むかというマーケティングの視点を持った人材も必須だという。澤山氏は「一番良いプロダクトが勝つとは限らない。技術と同じくらい伝える力も備えておく必要がある」とその重要性に言及する。
テクノロジーとマーケティングという2つの側面の役割分担は500 Startups Japanを率いる2人についても言える。というのは、澤山氏はテクノロジーのバックグラウンドを持っており、ライニー氏はマーケティング分野での専門性を持っているからだ。澤山氏は大学院でコンピューターシミュレーションを学び、2014年、2015年と2年連続で TechCrunch Tokyo Hackathonの入賞経験を持つという筋金入りだ。メディアで「エンジニアVC誕生」と紹介されたのもうなずける。
日本人の澤山氏とシリコンバレー事情に精通したアメリカ人のライニー氏は、国籍の面でもお互いをまさに補完しあう関係。2人とも流ちょうな英語・日本語を話すバイリンガルだが、細かいニュアンスはネイティブだからこそ分かることもある。「世界と日本を結ぶという意味でもベストパーナー。チームが大事というのは我々自身が最も体感している」と澤山氏は実感を込めて話す。
こうして、シード、コンセプト、チームの3つの条件がそろえば「分野」にはこだわらないという。「本当に新しいものはどこから生まれてくるか分からない。良い企業へ先手を打って投資したい」。ライドシェアのウーバー(Uber)や民泊仲介のエアビーアンドビー(Airbnb)を例に挙げながらライニー氏は説明する。
実績もついてきている。500 Startupsが数々のシードへ投資した中で、10億~100億円の規模で、同社が「ポニー」と呼ぶに足る企業は300社以上ある。また、100億~1000億円の規模の「ケンタウロス」と呼ぶ企業も37社になった。さらに、1000億円以上に成長したいわゆる「ユニコーン」も3社ある。
ライニー氏は「日本でもグローバルなユニコーンの誕生に貢献していきたい」と意気込む。では、どのような戦略を描いているのだろうか。続く第2回では、500 Startups Japanの日本戦略を中心にお届けする。
<プロフィール>
●James Riney=代表兼マネージングパートナー
J.P.モルガンに勤務の後、「ビリギャル」を世に送り出したSTORYS.JP初代CEOを務める。次にDeNAの投資部門に移り、初期段階の国際投資を担当。DeNAのタイ、インドネシア、フィリピン、インドへの出資を主導した。その後500 Startups Japan立ち上げに関わり現職。
●澤山 陽平氏=マネージングパートナー
JPモルガンの投資銀行部門においてTMTセクターの資金調達やクロスボーダーM&Aのアドバイザリー業務に携わった後、野村證券の未上場企業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)にてITセクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事、2015年12月より500 Startups Japanのマネージングパートナーに就任>
伝統的VCと一線を画す「Lots Of Little Bets」
2010年に設立された500 Startupsは、世界60カ国の1500社以上に投資。20カ国以上に拠点を持ち、4つのメインファンドに加え、11の地域特化型ファンドと、2つの領域特化型ファンドを設立している。この圧倒的な数字を背景に「世界で最もアクティブなシードVCと自負している」と話すのはライニー氏。
500 Startupsが投資する際の前提条件となるのが「シード」、つまり起業したてで企業の立ち上がり段階(アーリーステージ)であるということだ。
しかし、立ち上がり段階ゆえに、そこから成長せずに死んでいく企業も多い。そこで500 Startupsが掲げる方針が「Lots of Little Bets(小さい投資を多数行う)」だ。さらに、生き残った企業に追加投資を適宜行うことで、「リターンを犠牲にせずに伝統的なVCと比べてリスクを低減している」(同氏)という。
もともと500 Startupsの社名は500社投資するという意気込みを表現したものというが、すでに世界1500社以上へ投資していることからも、同社の勢いがうかがえる。
そして、世界中で投資を進めるのは、イノベーションはシリコンバレー以外でも起こると見ているからだ。澤山氏は「インターネットやスマホが発展途上国でも普及してきている。我々はシリコンバレーでベンチャーを待つのではなく、世界中に出かけてイノベーションの種を見つけ、支援する」と話す。
理想はハスラー・ハッカー・デザイナー
その上で、具体的に投資判断をする際に見ている要素は2つあるという。1つ目はコンセプトが良いことだ。「スタートアップ時はいろいろな失敗や壁にぶち当たるので一筋縄ではいかない」(澤山氏)中で、大きな方向性が時代の流れに合っているかどうか、そして紆余曲折があっても成長し続けられるコンセプトになっているかを見ている。
2つ目は経営層がバランスの取れた「チーム」であること。この「チーム」というのがポイントで、経営者1人の場合は投資対象から外すケースも多いという。「1人でできるほどスタートアップは簡単でない」と澤山氏は断言する。
また、アメリカでは理想的なチーム構成を表すものとして「ハスラー、ハッカー、デザイナー」という言葉があるという。これは、ハスラーはビジネスをつくる人、ハッカーはシステムを作る人、デザイナーは人や会社など全体像に関わる大きなデザインを描く人、という役割分担を意味する。
「もちろん、地域や分野によって必要な能力は変わってくる。そこで必要なスキルセットがそろうことが大事」とライニー氏。例えばBtoBであれば、パワーのある法人営業マンが必要で、さらに日本であれば、“飲みニケーション”もできるような人材がいれば頼もしいだろう。また、役職で表すと、突き進むタイプのCEO(最高経営責任者)、それを固めるCOO(最高執行責任者)やCTO(最高技術責任者)がそろっていることが、良いチームの一例だという。
中でもITを駆使するベンチャー企業への投資が多い500 Startupsにとって、優秀なCTOは必須の人材と見ている。「技術は外注で」というベンチャーには投資しないこともあるという。一方で、技術面だけでなく、プロダクトの価値をどう売り込むかというマーケティングの視点を持った人材も必須だという。澤山氏は「一番良いプロダクトが勝つとは限らない。技術と同じくらい伝える力も備えておく必要がある」とその重要性に言及する。
エンジニア畑の日本人×マーケティング畑のアメリカ人
テクノロジーとマーケティングという2つの側面の役割分担は500 Startups Japanを率いる2人についても言える。というのは、澤山氏はテクノロジーのバックグラウンドを持っており、ライニー氏はマーケティング分野での専門性を持っているからだ。澤山氏は大学院でコンピューターシミュレーションを学び、2014年、2015年と2年連続で TechCrunch Tokyo Hackathonの入賞経験を持つという筋金入りだ。メディアで「エンジニアVC誕生」と紹介されたのもうなずける。
日本人の澤山氏とシリコンバレー事情に精通したアメリカ人のライニー氏は、国籍の面でもお互いをまさに補完しあう関係。2人とも流ちょうな英語・日本語を話すバイリンガルだが、細かいニュアンスはネイティブだからこそ分かることもある。「世界と日本を結ぶという意味でもベストパーナー。チームが大事というのは我々自身が最も体感している」と澤山氏は実感を込めて話す。
こうして、シード、コンセプト、チームの3つの条件がそろえば「分野」にはこだわらないという。「本当に新しいものはどこから生まれてくるか分からない。良い企業へ先手を打って投資したい」。ライドシェアのウーバー(Uber)や民泊仲介のエアビーアンドビー(Airbnb)を例に挙げながらライニー氏は説明する。
実績もついてきている。500 Startupsが数々のシードへ投資した中で、10億~100億円の規模で、同社が「ポニー」と呼ぶに足る企業は300社以上ある。また、100億~1000億円の規模の「ケンタウロス」と呼ぶ企業も37社になった。さらに、1000億円以上に成長したいわゆる「ユニコーン」も3社ある。
ライニー氏は「日本でもグローバルなユニコーンの誕生に貢献していきたい」と意気込む。では、どのような戦略を描いているのだろうか。続く第2回では、500 Startups Japanの日本戦略を中心にお届けする。
●James Riney=代表兼マネージングパートナー
J.P.モルガンに勤務の後、「ビリギャル」を世に送り出したSTORYS.JP初代CEOを務める。次にDeNAの投資部門に移り、初期段階の国際投資を担当。DeNAのタイ、インドネシア、フィリピン、インドへの出資を主導した。その後500 Startups Japan立ち上げに関わり現職。
●澤山 陽平氏=マネージングパートナー
JPモルガンの投資銀行部門においてTMTセクターの資金調達やクロスボーダーM&Aのアドバイザリー業務に携わった後、野村證券の未上場企業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)にてITセクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事、2015年12月より500 Startups Japanのマネージングパートナーに就任>
M&A Online編集部2016年06月28日