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“町工場EV開発の先駆者”淀川製作所、本社工場にオープンスペース

“町工場EV開発の先駆者”淀川製作所、本社工場にオープンスペース

淀川製作所のものづくりコミュニティーセンター

 モノづくりの夢を語れる場になれば―。淀川製作所(大阪府守口市、小倉庸敬社長、06・6909・1770)は、本社工場の2階に地域住民や周辺の町工場の職人らが気軽に集い、モノづくりについて情報交換ができるスペース「ものづくりコミュニティーセンター」を開設した。

 スペースは約30平方メートル。番傘や琴などのインテリアで落ち着いた雰囲気を演出し、会合のほかに演奏会や軽食などもできる場とした。9―17時に自由に出入りでき、1階の電気自動車(EV)の組み立て現場なども見学可能にした。

 「月に1度は町工場関係者や学生、住民らに集まってもらい、起業や事業継承などのセミナーを開きたい」(小倉庸敬社長)と期待を込めた。

関西の粋が息づくEV「Meguru」


【関西の町工場】
 4月5日16時、大阪府門真市にある守口門真商工会議所。会場には数時間前から、テレビカメラなど数十社のマスコミが詰めかけていた。彼らの関心は中央にある、白布のかけられた物体。守口市長や門真市長など来賓の紹介とあいさつの後、女性司会者の号令とともに白布が解かれ、朱赤色の3人乗り電気自動車(EV)が姿を現した。万雷の歓声と拍手。「お待たせしました。関西発の電気自動車、Meguru(めぐる)の誕生です」。女性司会者の声が高らかに響き渡った。



 淀川製作所社長の小倉庸敬は、この開発の中心人物。1年前に近畿刃物工業(守口市)、京都EV開発(京都府城陽市)、九創設計室(兵庫県尼崎市)の関西企業3社と、共同開発の「あっぱれ!EVプロジェクト」を立ち上げた。町工場のおっちゃんたちが共同でEVを開発―。翌日の新聞はどこも大々的に書き立てた。

【“和”のデザイン】
 Meguruは三菱自動車の「アイ・ミーブ」など大手のEVと、いろいろな点で異なっている。漆塗りのボディー、京扇子を模した360度開きのドア。加えて床面には樹脂製シートではなく、本物の竹が敷き詰めてある。EVと言うより、京都の公家が乗る御所車のようなデザインだ。

 「EV自体はすでに中国や韓国からも出ており、特段、目新しさはない。メード・イン・ジャパンや関西の特徴を出すため、デザインに徹底してこだわった」と小倉は発言に力を込める。「皆の力で完成したEVは、中国や韓国企業ではまねできない。中小企業1社では何もできないが、皆が力を合わせれば何かができる」と、共同開発の成果を強調する。

【機械作りに進出】
 熱血漢。変革行動の人。小倉を知る社内外の人間は、彼をそう表現する。小倉自身「淀川製作所の歴史は、変革に次ぐ変革の連続だった」と言ってはばからない。淀川製作所の本業は試作・板金加工。これに加え最近は魚体の3枚おろし機や、医薬・化粧品会社向けの混練り機も手がけている。

 進出した理由が面白い。部品を納入していた機械メーカーが、2007年に不況のため倒産。販売会社から「小倉さんの所でこの機械を作ってほしい」と懇願され、「何とかしましょう」と引き受けた。「機械を作るって…。図面とか仕様書はあるんですか」と社員から驚きと反発の声があがる。「倒産したんやで。ちゃんとしたのはないやろな」「それだったら余計できませんわ」「あほたれ。人が作ってるんやで。既存技術を組み合わせたら、いつかはできるわな」。かくて同社の、魚体加工機進出が決まった。

 「不況の時にカネがないとか、成功するか不安だと言っていたら何も始まらない。必要なのは、まず行動を起こすこと」。そんな小倉にとってもEV事業への進出は、まさに「予想もしないできごと」だった。(敬称略)

▽所在地=大阪府守口市八雲中町1の13の6、06・6909・1770▽社長=小倉庸敬氏▽従業員=16人▽資本金=1000万円▽売上高=約3億円(09年8月期)▽URL=www.yodogawa‐ss.com
日刊工業新聞2016年6月27日 中小企業・地域経済面/2010年7月6日中小企業・地域経済面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
地域に工場スペースを開放することで、モノづくりをもっと身近に感じてもらえるようになれば嬉しいですね。

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