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ロボット産業の裾野は中小企業にも広がるか!?東京都が五輪に向け後押し

「1億―5億円のニッチ市場」 大企業と地場中小の団結で稼ぐ
ロボット産業の裾野は中小企業にも広がるか!?東京都が五輪に向け後押し

都産技研の「チリン」に話しかけると、ついてきてくれる

 東京都立産業技術研究センター(都産技研)が後押しするロボット産業の事業化支援が進んでいる。任意団体の東京都ロボット研究会(小川安一会長=小川優機製作所社長)は、2015年度から大企業の入会も可能とするよう研究会規約を改正し、事業化に向けスタート。ロボットを新しい柱事業の一つにするための取り組みが、いよいよ現実味を増している。
 
 【安全認証付き】
 都産技研はロボットの安全認証試験データや予備実験が可能な環境を整えている。中小企業が安全認証付きという付加価値のあるロボットで、5年後の東京オリンピック・パラリンピック大会以降も、ロボット産業を中小企業に根づかせることを狙う。

 具体的には建物の警備や点検、来客時の案内など「1億―5億円程度の市場規模で、大企業が狙わないニッチな市場」(坂下和広ロボット開発セクター長)がターゲットだ。

 売上高の大きい大企業が狙う市場規模は、1000億円程度とみられる。そこでどれだけ高いシェアをとるかが重要になってくる。しかし、都産技研が支援する中小企業のほとんどは年商20億円程度。1億―5億円ぐらいの市場規模でも十分大きい。外壁面の点検など、中小企業が持つ特殊な技術やサービス面も含めた場面での活躍を期待する。

 20年東京五輪大会では大会会場周辺で、人間に代わって案内役を担ったり、おもてなしをしたりするロボットの登場も現実味を帯びてきた。

 都産技研が開発しているロボットの一つが「チリン」だ。チリンロボットは、都産技研が持つ技術を投入したT型ロボットがベース。上部に設置した音声マイクに向かって「チリンちゃん、追いかけてきて」と指示を出すと、話しかけた人間を二つのカメラで認識し、返事をしてその人間を追うという行動ができる。まだまだ動きはぎこちないが、「5年先には成長しているはず」(ロボット開発セクターの研究員)と期待を寄せる。
 
 【今年度45社へ】
 今年で発足5年目を迎えた東京都ロボット研究会。これまでに首都大学東京や、生活支援ロボット安全検証センター(茨城県つくば市)などで見学会やT型ロボットの講習会などを開き、ロボットに関する技術や現状理解、見識を深めてきた。

 15年度から大企業の会員参加も認めるようにした狙いについて、小川安一会長は「大企業はいろいろな情報を持っている。その情報交換と、販路を含めて連携したい」との強い思いがあった。発足当初は法人・個人あわせて計19社、14年度は36社。15年度は会員数は45社へと拡大する見通しだ。ただ、大企業の会員割合を一気に増やすのではなく、当面は「会員総数の10―15%のウエートに置く」(小川会長)。

 さらに、ロボット開発には費用がかかるため、「基本的には開発資金が安定的に得られる仕掛けが欲しい。開発に投じた資金を回収するためには販路拡大は必要だ。個々で独自に事業化を進めている会員企業もいるが、今年は研究会としてさらに事業化を本格化させる」(小川会長)と語気を強める。その手段の一つとして、都産技研が進める「おもてなしロボットコンソーシアム」との連携も今年スタートする。

 今後、6月をめどに安全や介護、点検、産業支援などといった分野で10程度のプロジェクトテーマ決めを行い、事業化に向け走りだす予定だ。
 
 【検査装置導入】
 これまで、完成品としてのロボット開発は資金力のある大企業が中心だった。中小企業は得意とする各部品のパーツやソフト開発などの分野で関わってきたものの、安全性の確保と試作づくりに多額の費用がかかるといった大きな障壁があるため、独自に開発に乗り出すことが困難だった。

 だが、ロボット産業への参入を夢をみるだけで終わらせないよう都産技研が費用負担の軽減支援策の一つとして、安全認証を取得しやすい環境をこれから整える。ロボットの安全性を確認する各種の検査装置を合計で20―30台導入し、16年度から運用を開始する予定だ。

 稼げる事業として育成できるかどうか、参入を狙う中小企業も支援する側の都産技研も本気度が試される。
2015年05月04日 列島・中小・ベンチャー・中小政策面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
国を挙げてロボットに力を入れる中、中小企業もこのビジネスチャンスを捉えようとしている。「ニッチ市場を狙う」という方向性は、小回りのきく中小ならではだろう。一方でサービスロボットを事業化する上での最大のハードルは、ユーザーニーズの掘り起こしと技術のすり合わせだと感じる。販路はもちろん、マーケティングの面で大企業の力を借りることも手ではないか。

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