「社長が布団をプレゼントしてくれた」東京・多摩で外国人採用進む(下)
孤立感和らげ人材定着、経営者がフォロー
**3年離職が3割
東京・多摩地域の中堅・中小企業が海外市場開拓を意識して外国人の採用を進めている。一方、懸念されるのが人材の定着だ。経営資源が限られる中小企業は大企業のように多くの人材を囲い込むことはできず、採用した人材に過度に期待をかけてしまう場合もある。中小企業が人材を定着させ海外事業を拡大するには、社内をグローバル化するなど環境や意識も変えていかなければならない。
外国人の就職状況に詳しい留学生就職支援ネット(NAP、東京都杉並区)の田口芳弘代表理事は「日本で就職した外国人の3年離職率は2、3割」と指摘する。人材の定着には「現場に任せずに、経営者がしっかりフォローすることが大切」と話す。
ベトナム人のダオ・ゴク・タンさんはホーチミン師範大学を卒業し、吉本製作所(同青梅市、吉本誠社長)に2015年12月に就職した。マシニングセンター(MC)のオペレーション業務を担当するダオさんは「寒い時期だったので吉本社長が布団をプレゼントしてくれた。仕事だけでなく生活面でも親身になってくれる」と笑う。
4月にコスモテック(同立川市、高見沢友伸社長)に入社した中国人の李静さんは、共立女子大学大学院で日本語教育を研究していたため、日本語が堪能だ。中国の現地企業との営業窓口役を担う李さんの席は高見沢社長の席に隣接し、「社長との距離が近く、コミュニケーションが取りやすい」と語る。高見沢社長は「家族ぐるみで付き合うなど中小企業だからできる取り組みがある」と強調する。
<コスモテックに今年4月に入社した中国人の李静さん。得意の日本語を生かして中国現地企業との営業窓口になっている>
技術者採用だからこその苦労もある。コスモテックは15年4月、筑波大学大学院で無機化学を専攻した中国人の耿志亮さんを採用した。現在は工業用粘着剤などの試作品開発を担当する。高見沢社長は「日本語には『ベタベタ』などの擬音語が多い。数値化できない場合の伝え方に苦労することがある」と話す。
「金属の切りくずを素手でつかみ、ゆっくりと引っ張っていたため、『ダメ!』と言ったら、素早く引っ張って手を切らせてしまった」。吉本製作所の吉本社長は過去に経験した出来事から、日本語の難しさを痛感している。安全面で素手での作業を注意したつもりが、ゆっくり引っ張ることが「ダメ」だと勘違いしたという。
日本語によるコミュニケーションについて、NAPの田口代表理事は「言わなくても分かるだろうという日本人的な考えが一番危険。コミュニケーションを積極的にとる姿勢を示さないと、孤立感を与える要因にもなる」と警鐘を鳴らす。そのため日本人チームを組成し、チームがオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)で対応するといった工夫を凝らす企業も出てきた。
成長のための種をまき始めた東京・多摩地域の中堅・中小企業。海外市場で成功するためには、社内意識の国際化も求められる。
東京・多摩地域の中堅・中小企業が海外市場開拓を意識して外国人の採用を進めている。一方、懸念されるのが人材の定着だ。経営資源が限られる中小企業は大企業のように多くの人材を囲い込むことはできず、採用した人材に過度に期待をかけてしまう場合もある。中小企業が人材を定着させ海外事業を拡大するには、社内をグローバル化するなど環境や意識も変えていかなければならない。
外国人の就職状況に詳しい留学生就職支援ネット(NAP、東京都杉並区)の田口芳弘代表理事は「日本で就職した外国人の3年離職率は2、3割」と指摘する。人材の定着には「現場に任せずに、経営者がしっかりフォローすることが大切」と話す。
「家族ぐるみ」は中小企業ならでは
ベトナム人のダオ・ゴク・タンさんはホーチミン師範大学を卒業し、吉本製作所(同青梅市、吉本誠社長)に2015年12月に就職した。マシニングセンター(MC)のオペレーション業務を担当するダオさんは「寒い時期だったので吉本社長が布団をプレゼントしてくれた。仕事だけでなく生活面でも親身になってくれる」と笑う。
4月にコスモテック(同立川市、高見沢友伸社長)に入社した中国人の李静さんは、共立女子大学大学院で日本語教育を研究していたため、日本語が堪能だ。中国の現地企業との営業窓口役を担う李さんの席は高見沢社長の席に隣接し、「社長との距離が近く、コミュニケーションが取りやすい」と語る。高見沢社長は「家族ぐるみで付き合うなど中小企業だからできる取り組みがある」と強調する。
<コスモテックに今年4月に入社した中国人の李静さん。得意の日本語を生かして中国現地企業との営業窓口になっている>
「ダメ」の意味は
技術者採用だからこその苦労もある。コスモテックは15年4月、筑波大学大学院で無機化学を専攻した中国人の耿志亮さんを採用した。現在は工業用粘着剤などの試作品開発を担当する。高見沢社長は「日本語には『ベタベタ』などの擬音語が多い。数値化できない場合の伝え方に苦労することがある」と話す。
「金属の切りくずを素手でつかみ、ゆっくりと引っ張っていたため、『ダメ!』と言ったら、素早く引っ張って手を切らせてしまった」。吉本製作所の吉本社長は過去に経験した出来事から、日本語の難しさを痛感している。安全面で素手での作業を注意したつもりが、ゆっくり引っ張ることが「ダメ」だと勘違いしたという。
日本語によるコミュニケーションについて、NAPの田口代表理事は「言わなくても分かるだろうという日本人的な考えが一番危険。コミュニケーションを積極的にとる姿勢を示さないと、孤立感を与える要因にもなる」と警鐘を鳴らす。そのため日本人チームを組成し、チームがオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)で対応するといった工夫を凝らす企業も出てきた。
成長のための種をまき始めた東京・多摩地域の中堅・中小企業。海外市場で成功するためには、社内意識の国際化も求められる。
日刊工業新聞2016年6月23日 中小企業・地域経済2面