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「EU経済統一」決壊の現実

文=大井幸子氏(国際金融アナリスト兼SAIL社長)
 今年も前半が終わろうとしている。昨年12月に米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを実施してから年明けの1月、2月前半までは株価やエネルギー価格の下落、信用市場の逼迫(ひっぱく)、2月の利上げ観測、グローバル経済の停滞感で相場が下げた。

 しかし、2月半ばから原油価格が上昇に転じ、コモディティ価格が持ち直したほか、FRBが緩和策を持続。信用逼迫のストレスが減ったことで、3月以降は相場が持ち直して来た。そして、6月に再びFRBは利上げ据え置きを決定し、ドル高が反転し、新興国通貨へのプレッシャーがやや緩和された。FRBのイエレン議長は、EU離脱の可否を問う23日の英国国民投票を意識し、金融市場のリスクを避ける措置を取ったとみられる。

 英国国民投票では目下、残留派が優勢と伝えられ、20日週明けから市場はリスクオフからオンへと動き、投資マネーは安全資産からリスク資産へシフトし株価を押し上げた。

 残留が織り込まれているとはいえ、万が一離脱派勝利となれば、市場ではリスクオンからオフへの巻き戻しが起こり、ポンドやリスク資産の売浴びせでボラティリティが一気に高まると見られる。特にポンドの急落と通貨切り下げ、英国からの資本流出が起こり、英国経済は短期的には混乱し、金融政策の正常化(英国中央銀行による利上げ)が実施できなくなるだろう。

誰もが「ユートピア」とではないと認識


 さらに、英国国民投票で見えて来たものはEU決壊の現実である。経済的統一を目指して中央集権化するEUの現状においては、かつての独コール首相と仏ミッテラン大統領が政治的な統一と欧州の恒久的平和に注いだ情熱を見ることはできない。誰もが「ユートピア」としてのEU統一がもはや現実ではないことを認識している。

 英国国民の観点から見れば、東欧諸国や金融崩壊間近のギリシャにまで加盟国を拡大したEUの経済的勝者がドイツであり、欧州大陸の決定に従属することが将来にわたり英国の国益にかなうのかどうか判断すべき時であろう。

 23日の投票後、EU経済統合が統一から分散へと動きだす流れは止められない。2017年にはドイツ議会選挙とフランス大統領選挙があり、EUの中核を成す2国で政権交代の可能性も出てくる。EU統一の経済的既得権を享受できない人々への福祉や分配、移民問題が争点となるだろう。

 また、国民投票の結果は回り回って日本市場にも影響を及ぼす。残留となれば相場は好転し、リスクオンとなった投資マネーが日本市場で円ショート・株ロングのポジションを取り、円安・株高の追い風となるので、アベノミクス続投を掲げる自民党は参院選を優位に戦えるだろう。
日刊工業新聞2016年6月24日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
英国のEU離脱が決まった。大井さんも書いているように戦前では残留派がやや優勢と伝えられていただけに、日本のメディアもかなりセンセーションに報道している。短期で英国経済に混乱もあるだろう。欧州は数々の政治混乱を繰り返しながらその都度、秩序を保ってきた歴史がある。「EU」は形を変えてもう一度、結束への揺り戻しもあるのではないか。

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