「化学部門の回復を完結」(宇部興産社長)
山本謙社長インタビュー。同業他社に比べ改革のスピード感が遅い
宇部興産は化学部門の構造改革の総仕上げに入った。新たに2016―18年度の中期経営計画が始動し、市況に左右されない強固な経営基盤の確立を目指す。社長の山本謙氏に中計へ込めた思いを聞いた。
―新中計で訴えたいポイントは何ですか。
「前中計で化学部門を回復させようとしたが、できなかった。これからも化学部門が中心になることは間違いない。ただ、同業他社を見ると、我々は改革が遅れている。一つはスピード感が足りない。顧客に価値を創出し続けるためには“旬”があって、遅れると何の意味もない。化学部門の回復を完結させたい」
―リチウムイオン二次電池用セパレーター(絶縁材)は、車載用途が本格的に立ち上がりそうな気配です。
「今伸びているのは中国の電気自動車(EV)政策のおかげだ。ただ、それがどこまで続くか分からない。もう2―3年は続くだろうが。あとは、日米欧の環境対策で自動車メーカーは化石燃料車以外を一定程度製造しなければならず、絶対に電池は増えていく」
―セパレーター業界首位の旭化成が能力増強を発表するなど、投資競争が激しくなっています。
「ここで一定の実績とシェアを積まないと、振り落とされる。一方で、ついていくかどうかとは別に、電池メーカーの競争もある。どの電池メーカーに納入するかの問題があるが、これは分からない。設備投資の難しさだ」
―ナイロン原料であるカプロラクタムからのナイロンチェーンの強化策は。
「カプロラクタムの自消(自家消費)率を上げていく。日本は自消率約7割で、残りは顧客がいるため日本でこれ以上のナイロンの増産はない。スペインはナイロンの能力を増強中で、タイの増強は引き続き検討している。(カプロラクタムの生産量)以上にナイロンを増産することもありえる。将来的にM&A(合併・買収)や合弁事業などいろいろ手だてがある」
【記者の目・「スピード感」試す絶好の機会】
18年度の営業利益目標の500億円(15年度414億円)は、円高進行などで決して低いハードルではない。化学復活のカギとなるセパレーターもナイロンも主要な最終顧客は自動車だ。巨大産業であるとともに、再編や新規参入など動きの激しい業界でもある。山本社長が課題に挙げた「スピード感」を試す絶好の機会だ。
(聞き手=鈴木岳志)
宇部興産は2018年度までに、リチウムイオン二次電池(LIB)部材の売上高を300億円強に引き上げる。セパレーター(絶縁材)は主要な電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)に搭載したLIBに採用されており、20年をめどに年産能力を現状比2倍の3億平方メートルに増強する。電解液では技術革新とコスト削減に取り組み、中国や欧米の車載電池の需要増を取り込む。
日立マクセルとの合弁会社、宇部マクセル(京都府大山崎町)の高機能塗布型セパレーターがトヨタ自動車の新型HV「プリウス」に搭載したLIBに採用された。宇部興産のセパレーターに日立マクセルの分散塗布技術を用いてコーティング膜を形成することで高温耐熱性を強化。電池が高温になった際の挙動安定性、高入出力特性が評価された。
今後も需要増が見込めるため、7月に宇部ケミカル工場(山口県宇部市)、17年6月に堺工場(堺市西区)のセパレーター生産能力を増強し、17年に現状比4割増の2億平方メートルにする。
電解液は車載向けで出遅れたが、材料や製法を見直すコストダウンを進める。電解液原料となる炭酸ジメチル(DMC)などのライセンス供与で、26年までに100億円以上の売り上げを目指す。DMCは中国の肥料メーカー、中塩紅四方(安徽省合肥市)へのライセンス供与を決めた。今後は車載用LIBの需要増が見込める北中米でのライセンス供与を見込む。
堺工場では7月にセパレーターと電解液などの研究開発拠点「大阪研究開発センター」が完成する。堺工場はセパレーター、電解液を生産し、電池大手の拠点にも近い。生産現場や顧客との連携強化で、LIB部材の新製品開発を強化する。
調査会社の富士経済(東京都中央区)がまとめた次世代環境自動車向けの大型二次電池の世界市場は25年に6兆3649億円と、14年比10・2倍になる見通し。
地域別では、EVの生産が急拡大した中国が同11・6倍の1兆6164億円になると予測。北・中南米(同10・7倍の2兆149億円)、欧州(同17・7倍の1兆8328億円)でも大幅な需要増が見込めるとした。
この需要増を取り込むべく、米テスラモーターズはネバダ州で新電池工場「ギガファクトリー」を年内に稼働する予定。中国の電池自動車メーカー、比亜迪(BYD)は山西省太原市にEV新工場を建設するほか、パナソニックは中国・大連市の工場を12月に完成させる方針。
セパレーターでも、旭化成が車載用に使う乾式セパレーターに強い米ポリポアを約2600億円で買収した。住友化学は韓国で17年度に新工場を建設し、年産能力を20年に4億平方メートル超と15年比3倍以上に引き上げるなど、日系メーカーで生産能力の増強が相次いでいる。
―新中計で訴えたいポイントは何ですか。
「前中計で化学部門を回復させようとしたが、できなかった。これからも化学部門が中心になることは間違いない。ただ、同業他社を見ると、我々は改革が遅れている。一つはスピード感が足りない。顧客に価値を創出し続けるためには“旬”があって、遅れると何の意味もない。化学部門の回復を完結させたい」
―リチウムイオン二次電池用セパレーター(絶縁材)は、車載用途が本格的に立ち上がりそうな気配です。
「今伸びているのは中国の電気自動車(EV)政策のおかげだ。ただ、それがどこまで続くか分からない。もう2―3年は続くだろうが。あとは、日米欧の環境対策で自動車メーカーは化石燃料車以外を一定程度製造しなければならず、絶対に電池は増えていく」
―セパレーター業界首位の旭化成が能力増強を発表するなど、投資競争が激しくなっています。
「ここで一定の実績とシェアを積まないと、振り落とされる。一方で、ついていくかどうかとは別に、電池メーカーの競争もある。どの電池メーカーに納入するかの問題があるが、これは分からない。設備投資の難しさだ」
―ナイロン原料であるカプロラクタムからのナイロンチェーンの強化策は。
「カプロラクタムの自消(自家消費)率を上げていく。日本は自消率約7割で、残りは顧客がいるため日本でこれ以上のナイロンの増産はない。スペインはナイロンの能力を増強中で、タイの増強は引き続き検討している。(カプロラクタムの生産量)以上にナイロンを増産することもありえる。将来的にM&A(合併・買収)や合弁事業などいろいろ手だてがある」
【記者の目・「スピード感」試す絶好の機会】
18年度の営業利益目標の500億円(15年度414億円)は、円高進行などで決して低いハードルではない。化学復活のカギとなるセパレーターもナイロンも主要な最終顧客は自動車だ。巨大産業であるとともに、再編や新規参入など動きの激しい業界でもある。山本社長が課題に挙げた「スピード感」を試す絶好の機会だ。
(聞き手=鈴木岳志)
エコカー向け電池部材の生産能力2倍に
日刊工業新聞2016年4月13日
宇部興産は2018年度までに、リチウムイオン二次電池(LIB)部材の売上高を300億円強に引き上げる。セパレーター(絶縁材)は主要な電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)に搭載したLIBに採用されており、20年をめどに年産能力を現状比2倍の3億平方メートルに増強する。電解液では技術革新とコスト削減に取り組み、中国や欧米の車載電池の需要増を取り込む。
日立マクセルとの合弁会社、宇部マクセル(京都府大山崎町)の高機能塗布型セパレーターがトヨタ自動車の新型HV「プリウス」に搭載したLIBに採用された。宇部興産のセパレーターに日立マクセルの分散塗布技術を用いてコーティング膜を形成することで高温耐熱性を強化。電池が高温になった際の挙動安定性、高入出力特性が評価された。
今後も需要増が見込めるため、7月に宇部ケミカル工場(山口県宇部市)、17年6月に堺工場(堺市西区)のセパレーター生産能力を増強し、17年に現状比4割増の2億平方メートルにする。
電解液は車載向けで出遅れたが、材料や製法を見直すコストダウンを進める。電解液原料となる炭酸ジメチル(DMC)などのライセンス供与で、26年までに100億円以上の売り上げを目指す。DMCは中国の肥料メーカー、中塩紅四方(安徽省合肥市)へのライセンス供与を決めた。今後は車載用LIBの需要増が見込める北中米でのライセンス供与を見込む。
堺工場では7月にセパレーターと電解液などの研究開発拠点「大阪研究開発センター」が完成する。堺工場はセパレーター、電解液を生産し、電池大手の拠点にも近い。生産現場や顧客との連携強化で、LIB部材の新製品開発を強化する。
調査会社の富士経済(東京都中央区)がまとめた次世代環境自動車向けの大型二次電池の世界市場は25年に6兆3649億円と、14年比10・2倍になる見通し。
地域別では、EVの生産が急拡大した中国が同11・6倍の1兆6164億円になると予測。北・中南米(同10・7倍の2兆149億円)、欧州(同17・7倍の1兆8328億円)でも大幅な需要増が見込めるとした。
この需要増を取り込むべく、米テスラモーターズはネバダ州で新電池工場「ギガファクトリー」を年内に稼働する予定。中国の電池自動車メーカー、比亜迪(BYD)は山西省太原市にEV新工場を建設するほか、パナソニックは中国・大連市の工場を12月に完成させる方針。
セパレーターでも、旭化成が車載用に使う乾式セパレーターに強い米ポリポアを約2600億円で買収した。住友化学は韓国で17年度に新工場を建設し、年産能力を20年に4億平方メートル超と15年比3倍以上に引き上げるなど、日系メーカーで生産能力の増強が相次いでいる。
日刊工業新聞2016年6月22日