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化石資源が「燃やせない燃料」になる?―「座礁資産」とは

**国民負担
 金融の世界で「座礁資産」という言葉が使われ始めている。最近、注目されたのが英オックスフォード大学スミス企業環境大学院持続可能金融プログラムによる日本の石炭火力発電所の調査報告だ。建設中や計画中の石炭火力が560億ドル(約6兆円)の座礁資産になる恐れがあるという。調査をまとめたベン・カルデコット教授は「もし座礁してしまうと、電気代となって国民負担となる」と警鐘を鳴らす。

 座礁資産とは環境変化によって将来、価値が毀損する資産をいう。英の非営利団体カーボン・トラッカーが2011年、温暖化対策の強化で化石燃料の使用が制限されると、埋蔵されている化石資源が「燃やせない燃料」として座礁資産になると報告し、関心が持たれるようになった。

負の面を定量化


 石炭は埋蔵量が豊富で、火力発電の燃料として安価でエネルギーの安定供給に役割を果たす。一方で燃焼によって二酸化炭素(CO2)を排出する。排気が適切に処理されないと大気汚染を引き起こす。こういった負の面を定量化したのが、座礁資産といえる。

 米国は15年、大統領令で火力発電へのCO2排出規制強化を打ち出した。全米で起きている規制差し止めの訴訟や大統領選もあるので不透明だが、仮に規制が強化されると石炭火力はCO2回収装置を付ける必要が出ている。コスト負担に耐えきれない石炭火力は廃炉が迫られる。投資回収が済んでいなければ、座礁資産となる。

 英国も石炭火力を全廃する方針を打ち出した。機関投資家も石炭火力や化石資源を保有する企業の将来性を検討するようになった。米国の一部州では年金基金が石炭開発会社への投資を引き上げるなど、投資リスクを避けようとする動きが出ている。

 日本では50基以上の石炭火力の新設計画がある。持続可能金融プログラムは報告書で、安価な電力を供給できる原子力発電所の再稼働が進むと石炭火力の経済性が失われ、座礁すると指摘した。

非現実的な想定


 カルデコット教授は「事業者や投資家はリスクを認識すべきだ。消費者も代替エネルギーを求めて声を上げた方がよい」を語る。一方で、調査は非現実的な想定に基づいており、過大という批判も出ている。

 化石資源に限らず、今後の環境規制によっては座礁してしまう資産があるかもしれない。逆に座礁を回避する技術がビジネスチャンスになる。座礁資産を巡る議論が将来の事業リスク、チャンスを検討するきっかけにもなりそうだ。
日刊工業新聞2016年6月21日 素材・ヘルスケア・環境面
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
座礁資産は言い換えれば不良資産です。せっかく建設した石炭火力発電が投資回収できなかったり、運転できなかったりすると、座礁資産になります。6兆円(最大9兆円)という調査が過大すぎるという反論があります。また、再生エネを「高い」「高い」と批判する意見があります。しかし世界的にみると再生エネのコストは急激に下がっています。再生エネや原発があるのに石炭火力を50基も建てる必要があるのか、疑問に思う人はいませんか。

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