「フィンテックのNEC」へ。本社売店で顔認証の決済サービス
M&Aの狙いはネットクラッカー、セーフティー、リテールソリューション
NECは21日、6月下旬から8月下旬まで本社ビル内の売店で、顔認証を活用した決済サービスの実証実験を行うと発表した。対象は社員500人。顔認証による本人確認で、キャッシュレス・カードレスでの決済が可能になる。ITと金融を融合させた「フィンテック」への取り組みとして注目される。
POS(販売時点情報管理)レジで商品をスキャンした後に、顔認証で本人確認を行って、翌月の給与から差し引く仕組み。顔認証にはNECの顔認証エンジン「ネオフェイス」を活用。事前に撮影・登録した社員の顔画像と、POS端末の近くに設置したカメラで撮影する顔画像を照合して本人確認を行う。
実験では実店舗を想定しカメラの種類や設置位置、照明など多様な条件で認証性能や運用負荷を検証し、セキュリティーと利便性のバランスを調べる。これにより実用化に向けた運用ノウハウを蓄積する。
生体認証技術を活用した新事業の創出は、成長戦略の目玉の一つとなっている。同技術を活用した実証実験では、4月から本社ビルの入退室のチェックで「ウォークスルー顔認証システム」を実施しており、今回は社内実証の第2弾となる。
新野隆社長率いる新生NECが船出して2カ月余り―。指針となる3カ年の中期経営計画(2017年―19年3月期)では収益構造の立て直しを宣言し、足腰を強くするための3年間に位置付けた。一方で総額2000億円のM&A(合併・買収)投資枠を設定し、懸案の海外事業の拡大に向けて“外部の血”を取り入れる方針を示した。新野社長は「2000億円が限界というわけではない」と成長戦略に意欲をみせる。経営トップとして挑む思いを聞いた。
―中計で示した方向感とは。
「一つは収益構造の立て直しだ。(前の中計目標で)未達だった事業を見直すとともに、今後2年間で固定費を現行比800億円改善する。もう一つは注力する社会ソリューション事業をグローバルで伸ばすこと。M&Aで加速したい」
―19年3月期の目標に掲げた“トップライン(売上高)3兆円”は手堅い印象です。
「私も3兆円では物足りないと思っている。ただ前の中計では最後の年の16年3月期に営業利益率が大きくブレてしまった。現状のままでトップラインだけを伸ばしても意味がない。ビジネスモデルを変革・拡大し、最低でも営業利益率5%を確保したい。そこにこだわっていく」
―M&Aへの考え方を教えて下さい。
「買収した米ネットクラッカーが成功例だ。事業の核を作り、そこに必要な技術などをM&Aで集めていくのが最もスピードが速く、確実だ。ネットクラッカーは緩いガバナンス(統治)で自由にやらせている」
―M&Aで注力する分野は。
「三つある。一つは通信事業者系ネットワーク事業。これはネットクラッカーをもっと強くすれば良い。もう一つはセキュリティーなどセーフティー事業だ。この分野ではイスラエルが強い。三つ目はリテール(小売り)向けソリューションだ。大手コンビニエンスチェーン向けで培ったノウハウがあるため、これを提供するデリバリー会社を買収すればよい」
―国内で培ったリテールの強みは海外で通用しますか。
「コンビニ向けソリューションは流通だけでなく、物流や金融でも24時間365日提供し、運用の仕組みがライフサイクル管理として出来上がっている。こうしたソリューションは世界を見回しても他にはない。ドラッグストアのチェーン店やスーパーマーケットなどにも適用できる。このほか、販売時点情報管理(POS)端末を世界に展開しており、そこを足がかりにして、全体を管理するなどビジネスを広げていく」
【記者の目・フィンテックでの新風期待】
次の成長に向けた取り組みでは海外が軸となるが、収益基盤は国内であり、そこで取りこぼしはできない。国内通信事業者の投資抑制が痛手だが、それをどうカバーするかも問われる。新野社長は金融営業出身。ITと金融を融合した「フィンテック」での新風も期待したい。
(聞き手=斎藤実)
POS(販売時点情報管理)レジで商品をスキャンした後に、顔認証で本人確認を行って、翌月の給与から差し引く仕組み。顔認証にはNECの顔認証エンジン「ネオフェイス」を活用。事前に撮影・登録した社員の顔画像と、POS端末の近くに設置したカメラで撮影する顔画像を照合して本人確認を行う。
実験では実店舗を想定しカメラの種類や設置位置、照明など多様な条件で認証性能や運用負荷を検証し、セキュリティーと利便性のバランスを調べる。これにより実用化に向けた運用ノウハウを蓄積する。
生体認証技術を活用した新事業の創出は、成長戦略の目玉の一つとなっている。同技術を活用した実証実験では、4月から本社ビルの入退室のチェックで「ウォークスルー顔認証システム」を実施しており、今回は社内実証の第2弾となる。
「売上高3兆円では物足りない」ー。新野社長インタビュー
日刊工業新聞2016年6月17日
新野隆社長率いる新生NECが船出して2カ月余り―。指針となる3カ年の中期経営計画(2017年―19年3月期)では収益構造の立て直しを宣言し、足腰を強くするための3年間に位置付けた。一方で総額2000億円のM&A(合併・買収)投資枠を設定し、懸案の海外事業の拡大に向けて“外部の血”を取り入れる方針を示した。新野社長は「2000億円が限界というわけではない」と成長戦略に意欲をみせる。経営トップとして挑む思いを聞いた。
―中計で示した方向感とは。
「一つは収益構造の立て直しだ。(前の中計目標で)未達だった事業を見直すとともに、今後2年間で固定費を現行比800億円改善する。もう一つは注力する社会ソリューション事業をグローバルで伸ばすこと。M&Aで加速したい」
―19年3月期の目標に掲げた“トップライン(売上高)3兆円”は手堅い印象です。
「私も3兆円では物足りないと思っている。ただ前の中計では最後の年の16年3月期に営業利益率が大きくブレてしまった。現状のままでトップラインだけを伸ばしても意味がない。ビジネスモデルを変革・拡大し、最低でも営業利益率5%を確保したい。そこにこだわっていく」
―M&Aへの考え方を教えて下さい。
「買収した米ネットクラッカーが成功例だ。事業の核を作り、そこに必要な技術などをM&Aで集めていくのが最もスピードが速く、確実だ。ネットクラッカーは緩いガバナンス(統治)で自由にやらせている」
―M&Aで注力する分野は。
「三つある。一つは通信事業者系ネットワーク事業。これはネットクラッカーをもっと強くすれば良い。もう一つはセキュリティーなどセーフティー事業だ。この分野ではイスラエルが強い。三つ目はリテール(小売り)向けソリューションだ。大手コンビニエンスチェーン向けで培ったノウハウがあるため、これを提供するデリバリー会社を買収すればよい」
―国内で培ったリテールの強みは海外で通用しますか。
「コンビニ向けソリューションは流通だけでなく、物流や金融でも24時間365日提供し、運用の仕組みがライフサイクル管理として出来上がっている。こうしたソリューションは世界を見回しても他にはない。ドラッグストアのチェーン店やスーパーマーケットなどにも適用できる。このほか、販売時点情報管理(POS)端末を世界に展開しており、そこを足がかりにして、全体を管理するなどビジネスを広げていく」
【記者の目・フィンテックでの新風期待】
次の成長に向けた取り組みでは海外が軸となるが、収益基盤は国内であり、そこで取りこぼしはできない。国内通信事業者の投資抑制が痛手だが、それをどうカバーするかも問われる。新野社長は金融営業出身。ITと金融を融合した「フィンテック」での新風も期待したい。
(聞き手=斎藤実)
日刊工業新聞2016年6月22日