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車用のシート新素材「クオーレ」で試されるセーレンの世界戦略

メキシコ工場の稼働で中国拠点の余裕。繊維技術生かし市場を創る
 セーレンは自動車用シート材でトップクラスのシェアを誇る。製品ラインアップもファブリック、合成皮革、本革、エアバッグなど豊富にそろえる。「車輌資材事業」の生産では日本、米国、中国、タイ、ブラジルに加えて2013年末にインドとインドネシアの工場が稼働し、今春にはメキシコ工場が完成した。けん引役の一つが“本革を超えた新素材”をコンセプトに開発した合成皮革「クオーレ」。繊維技術を生かしつつ、さらなる機能の付与と、市場の創出に向けた挑戦が続いている。

 「本革素材を超える肌触りや耐久性を備えながら、本革よりも軽い」―。結川孝一社長は、クオーレの魅力をこう表現する。実際に、クオーレは車1台当たり2キログラムほど軽く、価格も本革に比べておよそ半分で済む。軽量化による燃費改善や、コスト削減にも貢献する。

 今回完成したメキシコ拠点(グアナファト州アバソロ市)の敷地面積は、およそ18万平方メートル。完成車メーカーが現地での生産を活発化しており、広大なスペースを確保した。

 現地では6月からファブリックシート材の量産を開始。クオーレの量産は、10月からを予定している。ファブリック材の月産能力は約25万メートル、クオーレの月産能力は約20万メートルを計画している。

 メキシコの稼働に伴って生産や供給体制の効率化も図る。現在は中国で生産したクオーレの一部をタイやブラジル、米国に輸出している。今後はメキシコが米国向けにクオーレの一部を供給する役割を担うようになる。中国拠点に余裕が生まれた分は、中国内や欧州向けに提案を強化していく考えだ。

 採用を促すため、ラインアップも広げている。例えば、シート表面温度を制御する快適素材「モジュレ」をクオーレと組み合わせた「クオーレモジュレ」は、夏は熱くなりにくく、冬は冷たく感じにくいといった特徴がある。このためシートの座面や、ハンドルのステアリングでの使用に適している。「暑くならないため、タイやインドなど海外からの評判も良い」(結川社長)という。

 繊維分野で培った技術力も生きる。同社は原糸から織り・編み、染色、裁断、縫製、販売までの一貫体制を構築している。その中でも差別化につながっているのがデジタルプロダクションシステム「ビスコテックス」だ。

 同システムは1677万色の色表現を持つなど、従来の染色手法では難しかったきめ細かいデザインが可能だ。立体感と多色表現をクオーレに応用することなどにも対応できるという。
(文=浅海宏規)
日刊工業新聞2016年6月15日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2年前に就任した結川社長。27年間社長を務め自動車シート材でトップメーカーに育てた川田現会長のグローバル戦略を「新素材」でどう生かしていくか。

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